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13/04/08(1) 自宅:ふん、義妹になってみたいんだよ

 俺の部屋で美鈴にマッシュを指南中。

 美鈴のキャラ名は天応と同じ「りんりん♪」。


 そして男キャラ。

 別にケチをつけるところでもないが、何となく聞いてみたくなる。


「どうして男キャラ?」


「僕だってゲームの中くらい男になりたいですよ」


 いやお前のリアル性別は男だろう。

 そうツッコみたいけど、気持ち自体はわかるので口にしない。


 美鈴の種族はエルフ、低年齢での作成。

 ここまでは姉貴と同じだが、さすがに色々いじっている。

 ねぎまぐろがお洒落をしたらきっとこうなるのだろう。


 ──スマホの呼び出し音がなる。


 着うたは通称「国歌(くにうた)」と呼ばれる曲。

 ああ、何度聞いても心が洗われる。

 数あるアニソンの中でも一番の神曲。

 いっそ「こっか」と読んで「君が代」から変えればいいんだ。

 それなら俺は自ら進んで歌うのに。

 きっと世の中の国歌斉唱問題は解決するだろう。


 しかし聞き惚れているところに、美鈴が水を差してきた。


「小町さん、着うた変えましょうよ」


「お前はアニソンを差別するのか?」


「そんなこと言ってません。今の小町さんは立派な美少女。デブ時代とは違うんですから、外見とのバランスを考えて下さい」


 ぶん殴るぞ。


「美少女でも国歌を着うたにしてる人は多いから問題ない」


 自分でも何かを間違えてると思うが気にしない。

 ついでに一六歳以上は少女じゃないと言ってやりたい。


 美鈴が額を抱えた。


「小町さん、いいですか?」


「なんだよ」


「ヲタはみんな自分がヲタであることを恥じますよね。どこか自虐風味で」


「そうだな」


「でも、本音は違います。あれはヲタである事に罪悪感を抱いている様に見せながら、それでもヲタを貫き通す自虐を演じることにカタルシスを得てるんです。いわば『お約束』と呼ぶべきでしょうか」


 イラっとする物言いだなあ。


「何が言いたい?」


「ヲタはそれだけ自分を特別な人間と思いたがっている人種ということです。自虐してみせながら実際は他人を見下すことで、自らのコンプレックスを昇華するんです──」


 無茶苦茶言いやがる。

 しかしそういうヲタがいるのは事実。

 下手に何か言い返せば揚げ足をとられかねないので黙って聞く。


「──そこに小町さんみたいな美少女が堂々とヲタとして振る舞ってごらんなさい。彼らの縄張り意識をムダに刺激するだけですよ?」


 ふん、そういう結論か。


「美鈴はまだヲタの心理をわかっていない」


「はあ?」


「いいか、ヲタは美少女ヲタにこそ親しみ感じて寄ってくるんだぞ? 最近のアニメにはオタク趣味を持ったヒロインが多いんだが、それが全てを物語っている」


「じゃあ小町さんはヲタに囲まれてもいいんですね。だったらもう何も言いません」


 あれ?

 言い負かしたはずなのに、何故か負けた気がする。


 しかも美鈴と話してる内に電話が切れてしまった。

 スマホを手にとり、着信表示を見る。

 発信者は【オータムリーフ】。

 これは姉貴のコードネーム。


 公安庁では「携帯のアドレス帳の人名は全部暗号にしろ」と指導されているらしい。

 秘密を守るスパイなのだから当たり前だろう。

 それはいいのだが、「小町のスマホにある私の名前もコードネームにしろ」と言って勝手に書き換えやがった。

 俺のアドレス帳の秘密はどうでもいいのか。

 しかも一回だけではない、何回となく変えられてる。

 前のコードネームは「約束された洗濯板」。

 どっちも俺のPCのハードディスクに入っているゲーム絡みのネーミング。

 どこまでも「何だかなあ」と言う他ない。


 まあいい、掛け直そう。


 ──電話はすぐにつながった。


「もしもし姉貴?」


〔『停止雲雀君』か? 悪かったな掛け直してもらって〕


「それって何だ?」


〔小町のコードネーム。ストップひ○りくん〕


 男の娘漫画の元祖じゃないか。


「そんなのコードネームにするなんて喧嘩売ってるのか!」


〔偽娘がうるさいよ〕


「お前こそオータムリーフを名乗るなら、少しは平たい胸にコンプレックス持て!」


〔ふん、義妹になってみたいんだよ〕


「誰の?」


〔みつきさん。今日は二人でドライブした。えへへ〕


 プチッと電話を切る。

 わざわざのろけたいから電話をかけてきたのかよ。

 ちなみにオータムリーフは貧乳ヒロインで主人公の義妹。

 ついでにツンデレ。


 すぐに国歌が鳴る。

 しつこいなあ。


〔小町ひどいじゃないか。いきなり切るなんて〕


「さっさと用件を言え。こっちは忙しいんだから」


 マッシュの指導してるだけだが。

 姉貴に割く時間は一秒たりともないと思い始めている。


〔もう晩御飯は食べたか?〕


「いや、まだ。今は美鈴にマッシュを教えてるところ」


〔ちょうどいい。今日は私が手料理を振る舞おう。美鈴の都合を聞いてもらえるか?〕


 美鈴に聞くと、首を縦に振った。


「大丈夫だって。でも手料理って、まさかまたカレーの缶詰じゃないだろうな」


〔あんなもの誰が二度と食うか! あれをもう一度食えと言うなら、私は国際テロ担当への異動だけは断固拒否する〕


 そんな部署、俺も絶対にイヤだ。


「でもわざわざ電話でことわらなくても、普段から姉貴が作ってるじゃないか」


〔外食に行かれたら困るからな。実は今までメイド喫茶にいたんだけどさ〕


「姉貴がメイド喫茶? そりゃまたどうして?」


〔冷蔵庫の前でいじけてたら部下が連れていってくれた〕


 話がまるで見えない。


「とりあえず姉貴に上司の威厳が全くないことだけはよくわかった」


〔私なりの部下操縦術と言って欲しい。で、そのメイド喫茶の料理が素晴らしくてさ。家で再現してみたいなあと〕


「ほうほう。姉貴にしてはえらくまともな行動だな」


〔今回は本当に料理もまともだ。すぐに帰宅するから期待してろ〕


 電話を切る。


 姉貴の料理の腕は確か。

 普通に作って普通に出してくれれば、美味しい晩御飯にありつけるはずなのだが。

 やっぱりイヤな予感しかしないのはどうしてだろうか?


・「キノコ煮込みに秘密のスパイスを 13/04/08(2)横浜オフィス」とリンクしてます。


・作中ネタ

「国歌」は「鳥の詩」。ゲーム「Air」のテーマソング。

「こっか」ではなく「くにうた」と読みます。

約束された洗濯板はゲーム「Fate Stay night」の用語のもじり。

オータムリーフは「遠野秋葉」。ゲーム「月姫」のヒロイン。

「ストップひばりくん」は江口寿史の漫画。男の娘が主人公。

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