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12/12/31(2) 自宅:贅沢は敵だ

 帰宅すると、姉貴は既に帰っていた。


 長い髪がコタツからはみ出している。

 それ以外はコタツの中に潜ってしまっている。

 寝てるのかな?


 物音で気づいたのか。

 姉貴がコタツから頭を出してきた。


「小町、お疲れ」


「ただいま、暑くないの?」


「私は痩せてるから冷え性なんだ。美鈴の所で御飯は済ませたのか?」


「おばさんが年越し蕎麦を出してくれたんだけど、美鈴に『ダイエットしろ』って取り上げられた。『帰って観音さんと食べるんでしょ?』って」


「美鈴は本当にいい子だな。可愛いし」


「本気でそう言ってるなら、姉貴も人を見る目ないな」


 ──返事しながら自分の部屋へ。


 上着と鞄を置いてから部屋着に着替え。

 ふと鏡の横の貼り紙に気づく。


【明日× 今日から頑張る】


 人の決意を勝手に書き換えてるんじゃないよ。

 悪いけど見なかった振りをさせてもらおう。



 ──DKに戻る。


 姉貴は流しに立っていた。

 コタツに入ると、丁度茹で上がったのであろう年越しそばを差し出してくれる。


 それはいいのだが……


「姉貴、この海老はなんだよ!」


「別に普通の海老だろうが」


「衣がないじゃないか!」


「太るから小町のは剥いだ。姉からのありがたい配慮に涙しろ」


「しねーよ! 年越しそばくらいまともに食わせろ!」


「だから他の具を山盛りにいれてやってるだろ?」


「ワカメしか乗っかってないじゃないか!」


 丼の上にはまるで富士山が如くわかめがこんもりとのせられ、その上に衣が剥がされた海老天がちょこんと一本。なんてシュールな年越し蕎麦。


「現在の麺類のトレンドは爆食系だろうが。大晦日くらいお前の腹をみたしてやろうとそれを真似ただけだ」


「それはチャーシューや野菜が山盛なんであって、ワカメが山盛じゃねーから!」


「食べられるだけありがたいと思え」


「思えるか! この山盛ワカメはどうすればいいんだ!」


「全部食え。残したら年明け以降、二度と食卓に小町の食事は並ばないと思え」


 ちきしょう。

 仕方ない、ワカメをもしゃもしゃ食べ続ける。

 こういうのは汁に絡まってこそ美味しいのに、味気ないことこの上ない。


 ようやく麺に辿り着いた。

 けど……


「麺がのびてるじゃないか!」


「早く食べないお前が悪い。それでも広島っ子か」


「広島っ子関係ない! しかもワカメしか入ってないじゃないか!」


「海老入ってたのを忘れたのか?」


「玉子は! かまぼこは!」


「贅沢は敵だ。戦中戦後の人達が──」


「もういい。俺がバカだった」


 なんで平成の世で七〇年も昔の話を持ち出されて説教されないといけない。

 姉貴だって生まれてないだろうが。


 姉貴が襖に手をかける。


「食べたら片付けておけ。私はマッシュにINする」


「紅白くらい見れば?」


 大晦日は紅白。

 見たくもないのに見ないといけない強迫観念に駆られる。

 そんな俺は古き日本人の典型だと思う。


「みつきさんと中央広場で年越しカウントダウンする約束してるんでな。ゼロと同時に花火が打ち上げられて綺麗だぞ~」


 そう言い残して、軽やかな足取りで部屋に入っていった。


 はあ……。

 そんな姉貴は現代っ子の典型だと思う。


                   ※※※


 年越しカウントダウン終了。


 二〇一三年、あけましておめでとう。

 ゼロのカウントとともに自分で自分に新年の挨拶。

 誕生日とかクリスマスとかもだけど日付変わる時にはついついやってしまう。


 さて、寝るかな。

 年始だからってやることもないし。

 押入を開け布団を両手で担ぐ。


 ──ガラリと襖が開く。


 その音とともに、姉貴が部屋へ飛び込んできた。


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