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08/07/25 新大阪駅周辺:ふっ、それが大人の世界というものだよ

 ハアハア。ようやく逃げ切ったか。

 駅からもいつの間にか出ていた。


 でもここはどこ?


 駅舎が遠目に見える。

 駅の近くなのは間違いない。


 でも、これが大都市大阪? 広島駅周辺よりも明らかに寂れてる。

 大阪ってこんなに田舎なの?


 そんなわけないよな。

 きっと少し歩けば繁華街があるんだ。

 というわけで歩いてみよう。


 ……余計に寂れてきた。


 行けども行けども閑散とした住宅街なんですけど。車通りも少ないし。


 「ministop」と書かれた看板が見える。

 広島では見ないけど、どうやらコンビニっぽい。

 暑いし走ったせいで汗だくだく。

 アイスでも買って食べようかなあ。


 妙に貫禄のあるおっさんとすれ違う。

 街並みに似合わないパリっとした服着てるからよく目立つ。

 ヤクザの親分かなんか?

 やだ、怖い。

 大阪って危なそうな人しかいないわけ?


 ──あれ?


 あのこちらに歩いてくる長い黒髪に黒スーツな黒ずくめ女って……姉貴じゃん!?

 見間違えようがない。

 だって姉貴は俺と同じ顔だから。


 何にせよ道に迷ってるところに助かった。

 待ち合わせにはまだ早いけど丁度良かった


「姉貴~」


 ダッシュで走り寄る。


 えっ?

 姉貴が一瞬慌てた顔をした。

 しかしすぐに能面みたいな無表情に戻り、俺の横を通り過ぎようとする。

 久々に会った弟にそれはひどくないか?


「待てってば」


 俺の目線と同じ位置にある肩を掴んで引き止める。


 胸が全く無い所まで俺と同じなのに背の高さは全然違う。

 俺が一六二センチで姉貴が一七一センチ。

 全く掴みにくいったら。

 正直言って羨ましい。

 俺の身長は中一で止まっちゃったから尚更だ。


「バカ……」


 姉貴がぼそりと漏らした。

 何、何だっていうの?


 姉貴が前方を見つめる。

 その視線の先にあるのはさっきのおっさん?


「小町、来い」


 腕を掴まれるとそのまま路地裏に引き摺りこまれた。


「少し待ってろ」


 姉貴が携帯を取り出し電話をかける


「天満川です、首席お願いします……お疲れ様です……ええ、失尾しました……やはり府本の委員長ですね、防衛意識がかなり高いです。何回かこちらを振り返った後、あちこちと店に入られて捲かれました……」


 会話がまるでわからない。

 察する限りではやっぱりさっきのおっさんを追ってたのか。

 でも、振り返っても店に逃げ込んでもないぞ?


「……私みたいな若僧相手なら少しは遊んでくれると思ったんですけどね。残念です……詳しくは明日報告します……はい、あがります、失礼します」


 電話を切る


「もしかして俺……なんかやっちゃった?」


 びくびくしながら姉貴を見上げる。

 姉貴は周囲を見渡してから返事する。


「私が今やってたのは敵対組織の大阪府本部トップの尾行だ」


「え!?」


 敵対組織とか言うと大袈裟に聞こえるけど姉貴の仕事はそういう仕事。

 姉貴の職業はスパイ。

 漫画や小説の中だけの仕事と思ってたけど日本にも本当にあるらしい。

 姉貴の身分は公安調査庁という役所のれっきとした公務員。


 具体的にどんな仕事をしてるのかは知らない。

 姉貴は話さないし、俺が聞いてもわからないだろうし。

 でも、少年マ○ジンでやってる漫画に公安調査庁が舞台となったものがある。

 その中には仕事の説明として「治安維持のための諜報(スパイ)活動。テロ行為及び国家クーデターの防止」と書いてた。

 元KGB(ソ連国家保安委員会、現SVR)が敵っぽかった。


 KGBは敵を捕まえると薬漬けの廃人にしてから味方を裏切らせる恐ろしい組織。

 姉貴が持ってた、へちゃむくれな国王が主人公の少女漫画にそう書いてた。

 だから姉貴も、きっと漫画みたいなすごい仕事をしてるのだろう。


「この近くに奴等の大阪府本部があってな……」


 姉貴がそう言いながら、自らの歩いてきた方向に視線をやる。


「あそこに車が停まってるだろ? あの少し先に見える建物がそう。あの車はずっと張り込んで監視してる警察」


 姉貴が淡々と説明する。

 警察までずっと張り込んで監視してるって、ここは一体どんなデンジャラスゾーン!?


「ごめん……」


「まあいいよ、知らなかったんだし。今回のは大した仕事じゃないから」


 姉貴が軽く笑いながら頭を撫でてくれた。


「うん。でもさっきの人ってお店になんか入ってなかったよね?」


「ふっ、それが大人の世界というものだよ」


 なんか格好付けてるけど目をそらしてる。

 よくわかんないけど、そういうことにしておいてあげよう。


 姉貴が俺に視線を戻す。

 そして「でも」と言い切る様に前置いた。


「もし仮にこれから私の姿を外で見ることがあっても絶対に声を掛けるな。さっきみたいな事があるからな」


「うん、本当にごめんなさい」


「よろしい。そうしょげた顔をするな、ここでちょっと待ってろ」


 姉貴がどっかに行った……すぐ戻ってきた。


 手にはビニールの買物袋。さっきのコンビニのものっぽい。

 姉貴がそれを俺に手渡してくるので受け取って中を見る。


「あー、アイスだ!」


「小町、『ガリガリ君』好きだろ?」


「うん、ありがと」


 姉貴は何かあるといつもアイスを買ってくれる。

 それを楽しみで昔からわざとすねてみたりする。

 今日のは本当に悪いことをしたと思うけど。


 ぶっきらぼうだけど、いつも俺には優しい姉貴。

 俺はそんな姉貴が大好きだ。


「ビスコの看板とくいだおれ人形が見たいんだったな。ミナミに出て夕食食べようか。今日はたこ焼き、関西風お好み焼から串カツに至るまでたくさん食べさせてやる。大阪は何でも安くて美味しいぞ~」


「わーい!」


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