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12/12/24(2) 自宅:小町には二ピース食べる事を許してやろう

 「二〇時四五分になったら呼べ」。

 アニメを見終わった姉貴は、そう言ってから部屋に戻っていった。

 そして只今二〇時四五分。


「姉貴、入るぞ」


 返事はない。

 わかっちゃいるけど。

 襖を開ける。


「うふ、うふふ、うふふふふ……きゃっきゃっ……くっくっく」


 ぼそぼそと気味悪い笑い声。


「例え世界中が目障りなカップルどもで満たされようとも。私にだってみつきさんがいるんだもん。今日も私達は一緒。二人はずっと一緒。あーん、もう!」


 ……お前は一体何をしている。

 怪しげな声を出しながら自分で自分を抱きしめて悶えてやがる。


 PCの画面は当然マッシュ。

 中心街ガンバードンに設置された、イベント用の巨大なクリスマスツリー。

 みつきさんは女性キャラ、ねぎは男性キャラ。

 見た目だけならいかにもなクリスマスデートと言える。


 しかしみつきさんの中身は恐らくオトコ。

 姉貴も中身はオトコということになっている。

 つまり実際はオトコ同士のデートということになる。

 ああ、キモイことこの上ない。

 もっともみつきさんにしてみれば、単にフレと話しているつもりでしかないだろうけど。


 とりあえず、みつきさんもイヴにネトゲするしかない寂しい人なのはわかった。

 実はPCの向こう側が怪しげな妄想に浸りながらチャットしているオンナだとしたら、きっと喜ぶだろう。

 いや、実の弟すらドン引きするこの様。

 しかも顔に眉毛はなく、どてらにジャージ。

 コレを見たら百年の恋も醒めそうな気がする。


 まずは姉貴を現実に引き戻そう。

 ヘッドホンに指をかけてと。


「あっ! 何をする!」


「何をするじゃない。時間だ、行くぞ」


「……小町、独りで行ってこい」


 このオンナ……。

 そうしてやりたいのは山々だが、俺一人じゃ運べないだろうが。


「さっさと行くぞ!」


「わかった。わかったから、挨拶だけさせてくれ」


 姉貴がカタカタとチャットと打ち込む。


【みつきさん、ゴメンなさい。姉からケーキ買ってこいって命じられちゃいました。イヴに独り身なものだから、もう不機嫌で……行ってきます】


 それはお前だろうが!


 姉貴がクライアントを落とし、すっくと立ち上がる。


「では小町、ケーキ争奪戦に向かうぞ!」


「はいはい……」


                   ※※※


 アパートから十五分程歩いてスーパーに着く。思ったより人が少ない。

 家族と過ごすならとっくにパーティー始めてる時間だものな。

 恋人同士で過ごすならお洒落なお店で予約して買うだろう。

 スーパーの半額ケーキにきっと用はない。


 まずは本日最大の目当てであるクリスマスケーキ売り場に。

 大きいのから小さいのまで結構残ってる。


 姉貴が小さめの生クリームケーキを手に取る。


「どうせ半額なんだから、もっと大きいのにしない?」


「私達二人だけなんだぞ? 残りを明日の朝ご飯にするとしてもこれで十分だ」


「朝っぱらからケーキかよ……」


「嫌なら食うな。私はサラダを入手しにいくから、小町はグリルチキンを探してこい」


 クリスマスときたらやっぱり骨付き鳥の足。

 二本食べたいけど、そんなこと言ったら怒られる。

 ラベルを見比べてグラム表示が一番多いのを選ぶ。

 これが俺のささやかな反抗。


 姉貴のところへ戦利品を持っていく。


「姉貴、これでいい?」


 姉貴がパック二つを手に取って頷く。

 よし難関をクリアした。これで一〇gは多く食べられる。


「こっちも終わった。レジ行くぞ」


 ──続いてケンタ○キーフライドチキンへ。


 時間が遅いせいか、行列はさほどでもない。

 姉貴が最後尾に並びながら、ボソリと呟く。


「クリスマスのフライドチキンだけは、ここで買わないと落ち着かないからな」


 黙って頷く。

 スーパーの半額惣菜にもフライドチキンはあった。

 グリルチキンだって買ったわけだし。

 だけど何というか、これもイベントの内。

 この時間まで買物するのを待ったのは行列を避けるためなのもあるだろう。

 七時頃だとどれだけ並ぶかわからないから。


 レジに着くと姉貴はフライドチキンを三ピース注文。


「今日は特別。小町には二ピース食べる事を許してやろう」


 一ピース余計に食べられるクリスマスにささやかな幸せを感じてしまう。

 フライドチキンが買えない程貧乏なわけではない。

 単に俺がデブだから、普段は許してくれないだけで。

 何だかんだ言ってもこういうところは昔と変わらない。

 これだから姉貴を憎めないんだよな……。


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