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13/07/22(5) 自宅:一〇年経とうが二〇年経とうが一〇〇年経とうが、お前は私の弟だ

 楽しいデートを終えて帰宅。

 腕時計は二一時前。

 デート。

 ああ、この単語をついつい反芻してはにまにましてしまう。


 姉貴はとっくに帰っているだろう。

 あっちはどうだったのかな?

 きっと今頃は俺と同じく浮かれ気分だろう。

 まさかマッシュをやっているなんてことはありやしまい。


 ドアのノブに手をかける。


「ただい……ま?」


 ドアを開けたら、姉貴が立っていた。

 まるで俺を待ち構えていたかのように。

 確かにマッシュはやっていなかった。

 だけど……これは?


 姉貴が冷酷目を釣り上げ、睨みつけてくる。


「よう。旭との監視ごっこは楽しかったか?」


「な、何のこと?」


 姉貴がおでこにぺたっと何か貼り付けた。

 取ってみる……セロテープ?


「車のドアに貼り付けて置いた。何か物色された気配はないから物盗りじゃない。だったら、私の他にドアを開けられるのはお前しかいないだろ?」


「どうしてそんなスパイみたいな真似をする!」


「スパイですが、何か?」


 そうだった。


 立て続けに姉貴が捲し立ててくる。


「お前らは何度言わせれば……」


 はっ!

 またしても仕事中に!


 両脚を地につけ、両手つきつつ頭を下げる。


「小町が悪うございました。今度こそ申し開きのしようがありません」


「なーんてな」


「えっ?」


 頭を上げる。

 姉貴は笑っていた。

 いつも通り、意地悪げに。


「漫画じゃあるまいし、そんなことするわけないだろ。もし帰り際にテープが剥がれてたら、気持ち悪くて眠れないじゃないか」


「は……はは」


 乾いた笑いしか出ない。


 テープを貼っていたのが本当かどうかはわからない。

 だけど姉貴は珍しく語るに落ちた。

 剥がれてる事態を本当に考えないといけないのが姉貴の仕事なのだ。


 ……そんなの、あまりにイヤすぎる。


「でもまさか、本当にそんな事やってたとはな。しかも旭まで」


 そうだ。

 俺達がまたやらかした事には変わりない。

 再び土下座をつく。


「ごめんなさい、許して下さい、簀巻きにして多摩川に沈めるのだけは勘弁して下さい。いや、俺はいいです。せめて旭さんだけは!」


 姉貴が俺の脇に腕を差し入れ、抱え起こしてきた。


「今日は日直、二人でマッシュしてただけだし構わないよ」


 せっかくの二人きりに、それはそれでどうなのか。

 ま、この恋愛偏差値だけは七歳児の姉貴に言うだけムダか。


 さて、今度はこちらから問う番だ。


「姉貴、どうして玄関に立っていた?」


「鏡丘から伝授してもらったラプラスの魔で、お前の帰る時間がわかったんだよ」


「嘘つけ! ハッタリかけてびびらせようと、ずっと立ち続けてただけだろうが!」


「わかってるんなら聞くなよ。いい加減、足が疲れてきてたんだから」


 ──ちょっ!


 いきなり玄関から押し出される。

 さらに姉貴はヘッドロックを噛ましてきた。


「そろそろスーパーの半額タイム。買物行くからお前も来い!」


「今帰ってきたばかりなのにかよ! 少しは休ませろよ!」


「私の足が疲れる前に帰ってこなかった小町が悪い」


 ヘッドロックを掛けられたまま、さっき上ったばかりの階段へ。


「姉貴が勝手に立ってた癖に無茶苦茶言うな!」


「そう言うな。ガリ○リ君買ってやるから許せ」


 ガリ○リ君はアイスキャンディ。

 一本六〇円。


「ガリ○リ君ごときでこんな横暴を許すと思ってるのか!」


 ムリヤリ階段を引きずり下ろされる。

 この女はどんな怪力だ。

 これまで何度同じこと思ったかわからないけどな!


「つれないな。昔はガリ○リ君一本でどこまでもついてきてくれた癖に」


「一〇年も昔の話を持ち出すな!」


 姉貴が立ち止まった。


「一〇年経とうが二〇年経とうが一〇〇年経とうが、お前は私の弟だ。私の小町への愛は変わらん」


 姉貴、お前って奴は……。


「そんな言葉で誤魔化されないからな! 都合のいい時だけ姉貴面するんじゃねえ!」


「わかった。じゃあ今日はハー○ンダッツにしてやろう。ガリ○リ君からハー○ンダッツなら一〇年分の差を埋めるだけの価値はあるだろ?」


 ハー○ンダッツは一個三〇〇円。

 ガリ○リ君の五倍なら文句は言えない。


「仕方ないなあ」


「ただし、太るから半分っこな」


「おい!」


「たまにはいいだろう。姉弟仲良く分け合ってアイスを食べようではないか」


「まったくもう。それで許してやるよ」


 ようやく姉貴が放してくれた。

 ああ、やっと普通に歩ける。

 腰を叩いていると、姉貴が駅の方角を指さし高らかに号令を掛けた。


「わかったらスーパー行くぞ、ついてこい!」


(了)

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