12/12/24(1) 自宅:カップルと同じ値段で買ってたまるか
我がアパート「宮島荘」。
東急田園都市線二子玉川という一等地。
六畳の和室が二間に四畳半のDKという広さながら家賃は六万という好条件。
姉妹二人で住むには十分な広さだ。
俺達の母さんより、さらに年上なアパートだからだけど。
それでも陽当たりよくて住み心地は最高だ。
……もう夜の七時だけどね。
半年前にも同じことをやっていた気がするんだけど、きっと錯覚だろう。
だって今日は台所に立っているわけではない。
やっぱり溜めたアニメは見てるんだけどさ。
ダークフレイムマスターと眼帯娘の中二病でも恋をしたくなったりなラブコメ。
いかにもな痛々しさを笑うアニメのはずなのだが……。
スパイというリアル中二な姉を持つ身としては、正直洒落にならなかったり。
本日はクリスマスイブ。
昨日の日曜日が祝日だったので今日は代休。
さらに姉貴は宿直。
「私は仕事だからクリスマスイブにデートできなくてもしかたない」
今朝はスキップしながら出て行った。
やっぱり似たような台詞を以前に聞いた気がしてならない。
──ギイっとドアの開く音が聞こえてきた。
どすどすと足音を立てながら、姉貴がリビングに入ってくる。
「あー、もう! 右も左もカップルばっかり。みんな死ねばいい。爆発すればいい。どこぞの国は今すぐ東京にミサイルを打ち込めばいいんだ!」
もう予想はついていた。
どうせそろそろ叫びながら入ってくる頃だろうと思っていた。
用意しておいたぬるめのお茶を姉貴に差し出す。
「おかえり、姉貴。少しは落ち着けよ」
姉貴は湯飲みを一気に煽った。
「ぷはーっ。ただいま」
湯飲みを置くや部屋に飛び込んだ。
そしてすぐに飛び出してきた。
どてらにジャージないつもの格好。
「もう着替えたのかよ!」
「うーさむさむ。早着替えは広島っ子の取り柄ってよく言うじゃないか」
「言わねえよ、江戸っ子じゃあるまいし」
「お、中二病なアニメやってるんじゃん、私これ好きなんだ」
姉貴がコタツに潜り込みながらテレビにかぶりつく。
アニメなんて見そうなキャラじゃないのだが、姉貴の趣味は幅広い。
仕事で色んな人に話を合わせるためらしいが、このアニメは結構本気で見ていたりする。
──つまり姉貴も恋してるから。
これが以前とは絶対に異なる点。
姉貴としては今の自分と色々重なって仕方ないらしい。
自分で自分を中二病と自覚してるのはどうなのかと突っ込まずにいられないけど。
「で、姉貴」
「現在礼拝中なんだから邪魔するな」
「アニメ観るのを礼拝とか、俺みたいなオタクですら言わんわ! メシは!」
姉貴がタバコに火を点ける。
銘柄は「バージニアスリム デュオ メンソール」。
おまけを色々つけて売ってた販促キャンペーンが嵌るきっかけになったとか。
どこまで「オトク」に弱いんだ。
「九時まで待て。そうすればケーキもグリルチキンも全部半額だ」
「今日くらい定価で買え!」
「カップルと同じ値段で買ってたまるか。それが私の女としての矜恃」
「そんなくだらない矜恃捨てちまえ! あひゃ、あひゃ、膝小僧らめえ」
「いい加減黙れ。テレビが聞こえん」
台詞と裏腹に姉貴の表情はにたにた。
いったい何を思いながら観てるのかしらねえ……。