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13.07/19 自宅:こんな醜悪なグロ写真を食事前に見せないで下さい!

 今日の夕食はつけ汁素麺。

 姉貴の作る付け汁素麺はとにかく絶品。

 これは是非是非、美鈴にも食べさせてやりたい。

 というわけで俺達二人は座卓に座り、姉貴の帰りを待っている。


 しかし美鈴は俺の優しさを無碍にするかのように仏頂面。

 あまつさえ睨んできた。


「最近、小町さんの家に来ると体重が増えてる気がするんですけどね」


「気のせいじゃね?」


 目をそらす。


「月曜日、僕が来るなり後ろ手にして、さらに椅子に縛り付けて、フォワグラのガチョウがごとく次から次へとおかずを無理矢理流し込んだのは、どこの家のどの姉弟かって言ってるんですよ」


「天満川家のみねこま姉弟に決まってるだろ?」


 美鈴が座卓をドンと叩いた。


「開き直らないで下さい! そのせいで今日までジム通い、一日六時間バイクを漕ぎ続ける羽目になったんですからね!」


「美鈴ってすごいよな。心から尊敬する」


 それだけの目に遭わされて、今なおここにいるって事実にも。


「……小町さんもやっぱり観音さんの弟でしたね」


「お前はそれがどれだけ失礼な言葉かわかってるか?」


「ボケてるつもりかもしれませんが、本当に罵ってるんですよ!」


 ──ギイっとドアが開く音。


「ただいま……」


 姉貴が帰ってきた。

 しかし元気がない。


「おかえり」


「おかえりなさい」


「今作ってやるからちょっと待ってろ」


 姉貴はよたよたと部屋に向かっていく。


「何かあったんかな?」


「さあ?」


 姉貴が部屋から出てきて流しへ。

 相変わらずの調理の手早さ。

 俺は作り方を覚えるため、横に立って観察。

 美鈴は黙ってテレビを眺めている。


「つけ汁の下ごしらえはこれでよしと。二人とももうしばらく待て」


 姉貴が麦茶を差し出してきた。


「はあ……」


 そして溜息。

 さて、そろそろ聞いてやるか。


「何かあったの?」


「実はな、よりによって一番借りを作りたくない人間に借りを作ってしまった」


 その言葉だけで全てがわかってしまった。

 たった一度しか言葉を交わした事ないのに。


「もしかして『あれ』?」


「そう『あれ』」


「二人だけでしかわからない会話を進めないでもらえません?」


「これを見ろ」


 姉貴が美鈴に写真を差し出す。

 美鈴はそれを受け取って眺めた──瞬間、写真を引き裂いた。


「腹を揺さぶりながらニタニタ薄ら笑いしてる……全身で他人を見下してるのがはっきりわかる……こんな醜悪なグロ写真を食事前に見せないで下さい!」


 俺は先日の一件の直後に見せてもらったけど、もう二度と見たくない。


「私がアメリカ行き断った余波で、こいつがEU代表部にいくことになってな……」


「EU? アメリカじゃなくて?」


「玉突きがごとく、色んなアクシデントが重なってさ」


「なるほど。でも、それってまずくね?」


「こんなのが外交官として日本を代表しちゃうんですか?」


「霞ヶ関って怖いよな。どんな奴でも国家一種受かって採用されれば絶対に出世できちゃうんだから」


「まるで他人事みたいに言うな!」


 美鈴が首を傾げる。


「実はこう見えても人物的に優れてるとか?」


 俺と姉貴が二人揃って首を振る。


「せめて国家一種の順位だけはいいとか?」


 姉貴が首を振った。


「いいとこないじゃないですか!」


「まあ、そういうな。そんなヤツでもEUに行けば一等書記官。肩書に釣られて結婚したがる女はいるんじゃないの?」


 完全に棒読になっている。


「でもさ、姉貴。EUって俺が聞いても何かカッコイイんだけど。それでどうして姉貴が借りを作ったことになるわけ?」


「ヤツが『天満川のせいで行きたくもない国に行かされることになった』と言い張ってるからだ」


「ただの言いがかりじゃないか!」


「それだけならいいんだけどさ……問題は、仮にそいつに食事を誘われたら私は断る事ができないということだ。断れば私は職場の皆から不義理の烙印を押される」


「そんな必要ないだろ。むしろ自ら左遷選んだ様なものなのに」


「栄転だろうと何だろうと、行為だけとればワガママには変わりない。この機に乗じてそこだけ論いたがる人はいっぱいいるし。自分でやった事の後始末だから仕方ないけど……よりにもよって、あんなヤツに……」


「なんて理不尽な」


 姉貴がどこか遠くに目線をやる……いや違う。

 単に目が死んでしまっただけだ。


「それが大人の世界。二人とも笑って理不尽に耐えられる様になれよ?」


「それが大人っていうなら」「絶対なりたくありません」


「私も少女に戻りたい。本当に今日は素麺でよかった。こんな気分でもつるつる食える」


「んだな。じゃあ素麺は俺が茹でてやろう」


「じゃあ僕は食器並べます」


 準備ができて三人で素麺をつるつるっと。

 不快な話の後ではあったが、やっぱり素麺は美味しかった。


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