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13/06/28 K大三田キャンパス:べっぴんさん言うな!

 三田キャンパス生協食堂。

 黒瀬、福富、大柿のクラスメイト三人と一緒に昼飯を食べている。


「そろそろ前期末試験だなあ」


 黒瀬、それはあまりにも棒読でわざとらしいぞ?


「時間割発表まで後二週間もあるじゃないか」


 しかも試験は一ヶ月後だ。

 そんな遠回しに念押ししなくてもノートくらい回してやるぞ?


「そがあな言うたらいけん。早めに対策するに越したことはあるまあや」


 同郷の福富がまるで学生の鏡であるかの様な台詞を吐く。

 普段は全く授業に来ないけどな!


「今回も小町には『デブ』ノートあてにしてんねんで」


 大阪出身の大柿がわざわざデブを強調しやがる。


「デブ言うな! もう痩せただろうが!」


「まあまあ。ところで小町、来週の金曜って空いてるか?」


「今のところ予定はないけど?」


「んじゃクラス有志で前期末試験の打ち入り焼肉行くべ。小町の分はみんなで出してやるよ」


「え!?」


 大学入って一年二ヶ月。

 遂に友達から焼肉に誘われたぞ。

 しかも全オゴリだって!?


 ああ……目から自然に涙が溢れてきた……。


「のう、何泣いとんや」


「だって、みんな焼肉行くとき、俺だけハブ《仲間外れ》にしてたの知ってるんだぞ」


「えっ!?」


「ほんま?」


「小町に喋ったん、誰やねん!」


「やっぱり……」


「い、いやそうじゃなくてだな」


「どうせ俺はいじめられっ子だよ。ノートのためだけに利用される情弱だよ」


「小町、いじけたらあかん」


「ほんまよ。そようにはぶてんさんな。わしらの話聞きんさい」


「いじけたくもなるわ。話って何だよ」


「だって、小町、正月からずっとダイエットしおりよったろうが」


「あれ? それって俺言ったっけ?」


 もちろん痩せた今ならダイエットしたことはわかるだろうけど。

 いつからか、まではわかるはずない。

 正月に「痩せた?」って聞かれた時も隠したはずだし。


「あがあに大食いじゃった小町が、ぶち食べるの減ったんに。わからんわけあるまあ」


「一気に外見も痩せてきてたしな」


「せやねん。せやからうちらも焼肉なんか誘って失敗させたらあかん思うてん」


「わしらもどんどん女性化していく小町を見て完全体小町が見たいのう思うてよ」


「その代わり小町が痩せ終わってリバウンド期間も超えたら焼肉奢ってやろうって。俺達もクラスのみんなも、お前のノートには世話になってるしさ」


「せやかて小町知ったら気ぃ悪うすんねんか? せやからみんなで黙ってようって事にしたし。その分、小町とは他のカロリー低そうな物行く機会作ってんか」


「そうだったのか」


 そう言えば焼肉に限らず、年が明けてから俺がクラスの奴からカロリー高そうな物って誘われた記憶がない。

 誘われるのは自然食バイキングだの、豆腐居酒屋だの……ヘルシーな物ばかりだ。

 せいぜいが寿司か。

 もちろん回るやつ。


「せや、その甲斐あって、うちは小町を毎晩のおかずにできてん」


「するんじゃねえええええええええ! マジきもいからやめろ!」


 俺にとって、その台詞は洒落にならないんだよ!


「俺はむしろデブの時の方が」


「死ねや!」


「わしゃあ、こんなら二人と小町がやりおる所を毎晩妄想しおるけどの」


「「「お前が一番キモいわ!」」」


 三人揃ってツッコんだ。こいつらマジかよ。


「小町、それはいいとしてだ」


「よくねーけど何だよ」


「誰から聞いたの? 俺らが焼肉誘うの小町『だけ』仲間外れにしてるって」


「誰って……」


 もちろんみんなが俺を置いて焼肉に行ってたのを知ってるのは、教えてくれたヤツがいるからだが。

 しかも俺は「小町だけ」と聞いていた。

 焼肉以外は誘われてるっぽいから気にしない様にしてただけで。


「わしらが小町おらん時を狙って行ったんは事実よ。ほいじゃけど、クラスの正式な会合ゆうわけじゃなし。特にみんなに連絡を回したわけでもないしのう。たまたまその辺にいた奴らで一緒に行ったって程度の話なんじゃが」


「えっ?」


 そうなの?

 もっと大きな話っぽく聞いていたが。

 ただ、連絡すら回ってこないものを問い詰めるわけにもいかないし。


「せや、別に小町『だけ』除け者にしたわけちゃうで? 小町には悪いけど、うちらだってこってりした物をたまには食べたくななんねん。せやからこっそり行かせてもらってんけどな」


 そこまで気を使せてたかと思うと、逆にこちらが申し訳なくなる。

 ダイエット成功してよかったと心から思う。

 こいつらの期待と気遣いを裏切らずに済んで。


「俺が聞いたのは柞木ほうそぎからだよ」


「ああ……」


「あんなあか……」


「わかるな……」


 三人は揃って得心のいった顔をする。


「どうしたの?」


「いや、あいつって小町を恨んでんねん」


「なんで?」


「いやな、柞木の奴って以前にレア物のノート集めて売りさばく事で金稼ごうとしてねんか。せやけど小町がデブノートばらまいてんから台無しにされてん」


「噂には聞いてたけど、それ本当だったの?」


「せや。そっからあいつ裏でお前の悪口言いまくってんねんけどな。うちの学校でそんな狭い事する奴なんて滅多おれへんやん? せやから柞木の方が逆にみんなの不興を買ってん。それでもうちらはクラスメイトやと情かけて焼肉も声を掛けてんけど……違ってたな」


「小町に不信の種を植え付けてニヤニヤしながらざまあしてたんだろ」


「ほんまあ柞木はクラス内では永遠に『見えない君』にするしかないのう。ぶちはがええわ。あんなあにはこれから何も誘わんしノートも回さんけえ。デブノートの表紙には『柞木除く』って書いといちゃる」


「そうか──」


 人間どこでどう恨みを買うかわからない。

 まさか自分が陥れられる側に回ってようとは。


「──でも『柞木除く』はいいよ。欲しければ奴にも回してやれ」


「え?」


「なんでな?」


「どうして?」


「無駄に敵を作っても仕方ないしな。柞木には柞木の論理があるんだろうし、あいつが間違ってればどこかで天罰が下るさ」


 別に格好つけるつもりはないんだけどな。

 実際に少し前の俺なら本当に「柞木除く」と書いたと思う。

 でも何故か、自然に言葉が口をついた。


 ……ここのところ色々あったせいかな?


「お前心広いなあ」


「お人好しすぎるし」


「惚れたけえやらせえ」


「福富、ぶちしばくぞ! カバチぃゆうんもたいがいにせえや!」


 興奮の余り、俺まで広島弁になってしまったじゃないか!

 福富こそ『除く』って書いてやるぞ!


「小町からかうとおもろいのう。そのまま広島弁で話せえや」


「べっぴんさんやねんから、スルースキルを磨くんは大事やねんで?」


「大柿、べっぴんさん言うな!」


 大阪人から「べっぴんさん」言われるのはトラウマになんだよ!

 あのヤンキーめ……。


「ま、小町。そんな訳だから店のリクエストあれば聞いてやるぞ? ただ俺らは知っての通りみんな貧乏な外部入学者だから、高い店は困るけどな」


 内部生の男子は大抵経済か法学部。

 なので文学部の男子はほぼ全員が外部生。

 田舎者で外部生の俺にとっては過ごしやすくて助かる。


「んじゃ俺達貧乏人にとっておきのおすすめ店が一件あるぞ」


 姉貴ありがとう。

 いつぞやの心遣い、役に立つ日が来たぞ。


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