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13/06/23(4)自宅:そうか、お前か

 美鈴が店に到着。

 旭さんが美鈴への情報提供を装いながら言いくるめていく。

 そしてこの言葉が決め手となった。


「美鈴君の外見がシノさんのタイプじゃなくても、中身で勝負すればいいんです~。美鈴君だってタイプでもないシノさんを好きになったんじゃないですか~」


「それもそうですよね」


 美鈴って案外単純なんじゃなかろうか。

 それとも恋は男を単純にさせるのか。

 「シノさんはタイプを超越した存在」とお前自身が口にしたんだろうに。


 美鈴が姉貴に電話する。


「やっぱり中身で勝負します。特製メニューごめんなさい」


 この後は三人で食べて、雑談して解散。

 これで一件落着。







 ──したはずだった。


                   ※※※


 我が家に帰宅。


「ただいま」


 あれ? この匂いは?


「おかえり」


 いつもと変わらない挨拶が返ってきた。

 とりあえず座卓に座る。


 姉貴はキッチンに立っている。

 どうやらカレーを作ってるっぽい。


 昨晩のカレーは今日の昼に俺が全部食べてなくなってしまった。

 その時残っていた量からすると、姉貴と美鈴は朝もカレーだったらしい。


 ……でも、今晩もカレー?


「カレーができてるけど食べるか?」


「いらねーよ。飯喰ってくるって言ったじゃないか」


 姉貴はスルーして、カレーをついで持ってきた。

 姉貴も食べるらしい。

 嫌そうに少なめに自分のをよそう。


 仕方ない。

 とりあえず一口食うか。


「いただきます」


 一口すくって口に入れる。


 ……ん? 結構美味いじゃん。

 どんな地雷かと思ったけど、思い過ごしだったか。


 しかし二口三口と進めるごとに、口の中がどんどんしつこくなっていく。

 だめだ、四分の一で限界。

 胸がムカムカして受け付けなくなった。


「おかわりするか?」


「しねーよ! 全然食べきってもないだろうが! こんな油っこいカレー、これ以上食えるか!」


「食え!」


「食えるか! 一体何が入ってるんだよ!」


「野菜を極力少なめにして鳥の皮だの牛や豚の脂身だのバターだのを片っ端から入れた。その上で水は極力使わず牛乳を足した。他にも普段使わない物も入れてるし何を入れたかすら覚えてない。カロリーの固まりになる様にあれこれと思いつくままに手をかけていったらこうなってた」


 つらつら長々、平然と答えるんじゃねえよ。


「そんな物を食わすな!」


「作ったからには食う。農家の人に悪い」


「自分一人で責任とれない物を作るな!」


「本当はこれにトンカツを載せて、さらハンバーグを角切りにして入れるつもりだったんだ。美鈴が直前になって来ないと電話してきたからヤメにしたが。私の崇高且つ遠大な計画が御破算になってしまった」


「何だよその計画って」


「三キロほど太ったところで目論見をばらして『ざまあ』するつもりだったんだ。美鈴は自分に絶対の自信を持っている。三キロ太らされただけでなく手玉にとられてしまったとなれば、きっと地の底まで落ち込むはずだ。一方で美鈴なら三キロ程度はすぐに落とせるから、十分洒落になる範囲だし。よくも私の渾身のボケを台無しにしやがって──」


 旭さんの推測が一言一句違わず当たってる。

 この女も旭さんも怖い。


「──しかし今朝まではすごく乗り気だったのに何で急に心変わりしたんだろ? 小町なんか心当たりあるか?」


「ううん? 何も言ってない」


 首を振る。

 その瞬間、姉貴の冷酷目が釣り上がった。


「そうか、お前か」


 ──姉貴の顔色が変わる。

 え? なんで?


「『何も言ってない』って言っただろうが!」


「私は『心当たりあるか』と聞いただけだ。何故その答えが『何も言ってない』で返ってくる? 心当たりがなければ最初から『言う』って発想も浮かばない。従って『言ってない』と言うのは『心当たりがある』って事を意味するに他ならない──」


 その頭の回転の速さは別の所で使え!


「──そして美鈴はお前が寝てる内に出て行った。だったら今日は一度も二人で会話してないはずだよなあ?──」


 やばい、この流れは本気でやばい。


「どこで気づいた! そしてどこで何を話した! 吐け!」


「知らない、俺は本当に知らない!」


 旭さんの推測というのは死んでも吐けるか!


「このままシラを切るなら、ただですむと思うなよ?」


「やれるものならやってみろ。顔もボディーも殴ったら、また家出してやるからな!」


「そんな事はしない。こうするだけだ」


 姉貴の右手が俺のこめかみを包む。


「痛い、マジ痛い! 頭が割れる!」


 この女、握力どれだけあるんだ!


「その昔、あるプロレスラーはな。こうやって次から次へと対戦相手を病院送りにしていったそうだ。この技を『鉄の爪(アイアンクロー)』と呼ぶ。ここは試験に出るから覚えておくといいよ?」


「珍しく本当の事を言ってるけど試験には出ないからやめろおおおおおおおおおおお!」


 魔法のカレーならぬ悪魔のカレー。

 それは姉貴の怨嗟と憎悪でできていた。


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