表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/156

12/10/08 自宅:生まれて初めて、恋というものをしてしまったかもしれない

「姉貴おかえり」


「ただいま……」


 姉貴の顔は役所に向かう時と同じく青ざめたまま。

 「休め」と言ったのだが「ネトゲのことで休めるか」と一喝された。

 そこだけはいつもの姉貴だったのだが……生真面目にも程がある。


 姉貴がよろよろと座る。

 いつもなら帰ったらまず着替えるのに。


 何かとっかかりは掴めないものか。

 昨日は結局天の岩戸されて全然話せなかったし。


 あっ、そういえば。


「みつきさんとは、あれから話したの?」


「優勝報告してから話してない……」


「どうして?」


「合わせる顔がない……」


「仲いいんだろ?」


「みつきさんだって、きっと私がチートしたと思ってるんだ……」


「そんなのわかるかよ!」


「話しかけようとは思った……だけどあの後インしたら、あちこちからメッセが届いてた……あのスレと同じ様な……フレにもかなり切られてた……私はクライアント落として固まるしかなかった……」


 ひでえ……そこまでやるか……。

 でもここで同調してはいけない。


「みつきさんまでそうとは限らないだろうが!」


「わかるもんか! つい一昨日まで、みんな愛想良く接してくれてたのに! 私だってチャット慣れしてるわけじゃないけど、最低限の礼儀は守ってたつもりなのに!」


 もう支離滅裂だ。

 でもとっかかりは掴めた。

 姉貴の腕を掴む。


「何をする!」


「いいから来いよ」


 ひきずる様にして姉貴を部屋に。

 PC前に座らせて、マッシュのクライアントを立ち上げる。


「姉貴、みつきさんにチャットで呼びかけろ」


「できるか!」


「やれよ。やんないなら俺が打つ」


 キーボードに手を伸ばす。


「わかった! やめろ! 私が打つから!」


 姉貴が俺の手を払い、キーボードを叩き始めた。

 よし、これでいい。

 俺がいたら邪魔だろうし部屋から出よう。


 ここはバクチ。

 だけどこれまで姉貴から聞いている限り、みつきさんとは本当に仲がよさそう。

 似た者同士っぽいし、きっと姉貴を信じてくれてると思うんだ。

 俺の勘に過ぎないが……。


 もしダメだったら、その時は仕方ない。

 そんな夢のない世界に姉貴をこれ以上いさせる必要はない。

 俺も何だか嫌気がさしてきたし。

 姉弟揃ってマッシュを引退しよう。


 ──姉貴が出てきた。


 恐る恐る顔を見る。

 泣いている。

 姉貴の泣いているところなんて初めて見た。


「小町」


「ん?」


 でも安心して返事できる。

 だって姉貴は笑っているから。

 いわゆる泣き笑い。

 さっきまでの張り詰めた感じはすっかり消えてしまっている。


「みつきさんさ……」


「うん」


 あとは何が飛び出すのかだ。


「ギルドやめたって」


「へ?」


「『お前のいないギルドなんかいる意味ないじゃん』って」


「うん」


「『相方信じるのに理由がいるのかよ』って」


「うん」


「『俺はお前とお前を見てきた自分の目を信じるよ』って」


「うん」


「『ずっと待ってる』って」


「そっか」


 よかった、みつきさんがそういう人で。


「じゃ、姉貴座ってろよ。祝いがてらにメシ作ってやるから」


「私が作るよ。一段落ついた以上は普段通りの生活にしないとな」


 先に着替えてくる、と姉貴が背を向ける。

 それと同時に声が聞こえてきた。


「小町、私……」


「ん?」


「生まれて初めて、恋というものをしてしまったかもしれない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ