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13/6/14(2) 自宅:あの野郎、腹に一三連撃食らわせてもまだ足りないのか

 我が家で固定電話が鳴るのは非常に珍しい。

 実家の母さんからかな?

 でも母さんだって用事があれば俺や姉貴の携帯に掛けてくる。

 誰だろう?

 何はともあれ、電話に出る。


「もしもし」


「天満川さんのお宅でしょうか?」


「どちら様でしょう?」


「公安庁の比婆ですが観音さんはいますか?」


 職場の人か。

 だったら取り次いでも大丈夫だろう。


「少々お待ち下さい」


 姉貴の部屋に行く。


「姉貴~、比婆さんって方から電話~」


 その瞬間、姉貴が布団を抱えながら盛大にすっ転んだ。

 哀れ、そのまま布団の下敷きに。


「いないって言え」


 姉貴が思い切り嫌そうに顔をしかめながら、小声で伝えてくる。


「お待ち下さいって言っちゃったよ」


「いいからそう言え、言わないと貴様から沈める」


 姉貴が睨み付けてくる。

 「貴様」とか「沈める」とか。

 これは逆らったら何をされるかわからない。


 ……仕方ない、電話口に戻ろう。


「すみません、どうも買物に出たみたいでして。御用件ございましたら伝えますが」


 あの調子じゃ「掛け直します」も使えないしなあ。


「ふっふっふ。さっき声が聞こえたから居留守を使っているのはわかっている。照れなくてもいいから出てこいと伝えたまえ」


 耳がいいな。

 どうやったら隣の部屋の小声が聞こえるんだよ。

 しかも、このでかい態度は何だよ。

 仕方ないから姉貴のところに戻る。


 姉貴は布団から這いだし、その上にどっかり股を広げて座っていた。

 不機嫌なのは表情からありあり。


「『本人がいないと言っている』と伝えろ」


「無茶言うな。会社の人だろ? 勘弁してくれよ」


「いいから言ってこい。言わないとお前から殺す」


 嫌だなあ、もう……。


「あのー、本人が『いないと言え』と言ってますが」


「ふっふっふ。いくら俺の事が好きだからって恥ずかしがる必要はない。観音もそういうツンデレな所が可愛いんだよな。今度一緒に食事してやるから早く電話に出ろと伝えたまえ」


 キモっ!

 何こいつ!?


「少々お待ち下さい」


 再び姉貴の所に戻る。


「この人すんごい気持ち悪いんだけど。ありえないんだけど。まさか姉貴ってストーカーに狙われてる?」


「ストーカーの方が打撃が効くだけましだ」


 ……デブなのね。


 公安庁の男性はデブしかいないのか。

 女性は姉貴除いて全員綺麗なのに。


 ──姉貴がのそっと立ち上がる。


「仕方ないから出る。このままじゃ小町の精神が汚染されてしまう」


「なら、最初から出てくれ!」


 でも姉貴が逃げ回るのは、たったこれだけのやりとりでよーくわかった。


「もしもし、何でしょう……挨拶はいいです。とっとと用件言ってください。わざわざ自宅の方に掛けてきたからには、どこかの国が日本に宣戦布告してきたくらいの緊急且つ重大な用事でしょうね?……携帯がいつも話し中だから? そうですか、それは残念ですね。あいにく仕事で忙しいものでして客から電話が多いものですから……」


 姉貴の声のトーンが低い。

 いつもより二段も三段も低い。

 姉貴が他人に対し、ここまで不快感を露わにするのは珍しい。

 いつもは内心どう思っていようと、外面だけはすまして振る舞うのに。


 会話から察するに、携帯は着信拒否してるのか。

 気づけよ。

 いや、気づいてなおかつ自宅に掛けてきてるのか。

 なんてふてぶてしい。


「……キャリアの飲み会? 部下の弥生が誘われもしないのに私だけ出ろと?……今回は派閥作りの『勉強会』? 豚が派閥を作っても養豚場になるだけだと思いますけど?……そんな台詞は一本でも登録なさってから吐いたらいかがですか? そんなんだから『キャリアは口だけ番長』ってノンキャリアからバカにされるんですよ」


 盛大に毒を吐いてる。

 一応は敬語だし会話の内容から多分キャリアの先輩なんだろうけど。


「……それで裏では『観音使えない』だの『女は体使えば成果あがっていいよな』とか言いふらしてる偉大なる比婆様が、どうして私を勉強会とやらに?……『人寄せのマスコット』? 本人に向かってよくそんな事が言えますね……その命令口調どうにかなりませんかね? すっごくイライラするんですけど」


 姉貴って、そんな陰口叩かれてるのかよ。

 二九歳処女に体なんて使えるわけないだろうが。


「……『観音は俺の嫁だから』? 虎ノ門病院で頭を診てもらったらいかがですか?……本当に相変わらずだな。今すぐ死ね!」


 姉貴が受話器を床に叩きつけ、電話線を力づくで引き抜いた。

 あーあ、コネクタが……。


「小町。奴の声で電話が汚れたからさっきの除菌用アルコールで受話器を消毒しとけ!」


 大人しく言われた通りにする。


「今の人は何者?」


 何様?と聞くべきだろうか。


「真性の勘違いなチビデブ野郎だ。あの野郎、腹に一三連撃食らわせてもまだ足りないのか」


「一三連撃って……よくクビにならなかったな」


「それだけのことをしてくれたんだよ。ヤツは都を騙し、私と二人きりの食事をセッティングしてな。しかもその席で都の悪口を言いまくったんだ。それでブチ切れてテーブルひっくり返し、蹴りを入れまくった」


 サイアク……。


「公安庁ってコミュ力ある人が好まれるんじゃなかったの?」


「例外はいくらでもいる。その除菌用アルコールは奴を蹴った後、薬局に飛び込んでヒールを消毒した残り。全くもって汚らわしい」


「姉貴、気持ちはわかるけど落ち着いて」


 何とか宥めないと。

 姉貴の顔がどんどん真っ赤になっていく。

 興奮していくのがわかる。

 せっかくさっきまでイライラも収まって落ち着いてたのに。


「あー、もうっ! ただですら雨で鬱陶しいってのに。死ね、死ね、死んじまえ!」


 姉貴が転がっている布団をすごい勢いで蹴りまくる。

 竹シーツで癒されるはずだったわくわく気分はもはや台無し。


 どうしよう……そうだ!


 自室に戻り、マッシュのスクリーンショットを漁る。

 正月の時のみつきさんの画像をプリントアウト。

 姉貴の部屋に戻り、紙を突きつける。


「姉貴、みつきさんが見てるぞ」


 姉貴がハッとした顔を見せ、俺から紙を奪い取った。


「やん、みつきさん。これは違うんだから。いつもの私はこんなんじゃないんだから」


 紙を抱きしめながら髪を振り乱している。

 いつもこんなんだと思う。

 しかもみつきさんに対してすらこんなんだったと思うが、そこは突っ込むまい。

 キモイというのも今日ばかりは言うまい。


 比婆さんとやら。

 もし再び掛けてくるなら、次は迷わず居留守を使わせてもらう。

 その前に二度と電話してくるな!


比婆は以前のキノスパに登場していたキャラ。

今回のみの登場となります。


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