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13/06/10 K大三田キャンパス:キモイと言われるのは慣れてるよ

 K大三田キャンパスは生協書店。

 そして例のごとくラノベ売場。

 現在は授業時間だけあって人もまばら。

 おかげさまで心置きなく集中して表紙漁りができる。

 俺って学校に来ればラノベ売場にしかいない様に思えてしまうのだが……。


 いや、そんなことはない。

 逆だ。

 ラノベ売場いるとき以外は授業を受けてるからそう思うんだ。

 ひたすら出席してノートをとりつづけたおかげで、給費奨学生の選考は無事通った。

 それだけじゃない。

 K大文学部は一~二年生の間に単位をまとめ取りしてしまえば後は楽なシステム。

 だからこそ、今はやらねばならぬのだ。


 ──背中をポンと叩かれる。


 この感触は……後ろを振り向く。

 やっぱり見晴。


「またラノベの物色中?」


「うん。と言っても、今回は自分のじゃないんだけどさ」


「と言うと?」


 見晴も書棚に手を取ってぱらぱらと中身を見る。

 俺もチェックしないと。


「これからラノベ読もうって女の子いてさ。非ヲタでも読めそうなラノベ教えてくれって」


 昨日の約束は流れたけど、頼まれたことは残っている。

 こないだの旭さんの電話からすれば、いわゆる主人公最強系以外ならなんでもいけそうではあるけど。

 昨日チラっと話した感じだと、シ○ナについては「ヒロインの役に立とうと特訓頑張る主人公がけなげです~」だった。

 やっぱり狙い通り。

 だったら、できるだけそれに応えるのが男でありオタとしての意地だ。


「……どんな関係?」


「友達だけど?」


「そうなんだ。具体的にはどんなの探してんの?」


「できるだけ萌え系なイラストじゃなくて、話も性格的にハーレム物とかH系は避けた方がよくて、努力とか根性物」


「あっきれた。ラノベを全否定してんじゃん」


 いやいやいやいや。


「別に怒ることじゃないだろう。もともと俺達の趣味は一般人から理解されないんだし」


「まあ、そうだけどさ」


「むしろ現実しか直視せぬ愚かなる悪魔の下僕にラノベという夢を与えてこそ、俺達が二次元神から現世に遣わされた意義があろうというものだ」


「ボクは天使の羽もがれちゃったからなあ……」


「はい?」


「ううん、なんでもない。でもそれじゃ選びようがないじゃん」


「シ○ナ渡したら好評だったから。一気に全巻読破したらしいし、ああいう路線で何かないかなって」


「ああ、好きな人に頑張る系か……だったら普通に『魔王さま』でも『変態王子』でもいいと思うけど」


「どこにも努力出てこないじゃん」


 見晴がちっちと指を振る。


「どっちも最終フラグ立ちそうなヒロインは確定してるじゃない?」


「うん」


「そして確固たるアテ馬ヒロインが存在して、主人公に好かれようと頑張ってる」


「うん」


「シ○ナで特訓がどうのは序盤だけ。それでも全巻読破したってところは、努力そのものより純粋で真面目で一所懸命なところに共感したんじゃないかなあ? アテ馬ヒロインはその点で共通するから、多分いけると思う」


 目からウロコだ。

 やっぱこの辺りは女の子ならではの視点かも。


「見晴、ありがと」


「……『見晴も女だったんだな』とでもからかってくるかと思ったけど?」


 ニヤッとイヤミっぽい笑い。


 以前ならそうしたかもな。

 でも見晴は栗原の彼女。

 他人の物という言い方もなんだけど、気軽に接するのも少々抵抗がある。

 まして栗原は独占欲強いし、要らぬ誤解もされたくない。


「考えすぎだよ。素直に感謝してるって」


「そう。だったら、どういたしまして」


 さて、これで努力物の方は片付いたな。

 次は日常物か。

 こっちは探しやすいと思うんだけど」


「どれがいいかなあ……」


「小町、聞いてる?」


「ん? 『どういたしまして』って後に何か言った?」


「……もういいや。それで、他にも何か探してるわけ?」


「日常物。部活物とかそんな感じ?」


「だったら『俺ガイル』って鉄板あるじゃん」


「もう渡した。で、反応よかったから言ってるんだよ」


「だったら──」


 見晴が平積みのラノベを一冊手にとる。

 そして差し出してきた。


「──『はがない』でいいじゃん」


「断る!」


 見晴がずずっと後ろに下がった。


「わ、わ……いったい何なのさ。そりゃ確かに旬は過ぎ──」


「そういう政治的文言を口にするのはやめろ。それに今年の正月からNEXTやってだろうが」


「それにこれ、俺ガイルのネタも──」


「だから政治的な文言を口にするのはやめろと言っている。仮にそうだとしても、既に本家追い抜いてしまってるだろう」


「じゃあ怒る必要ないじゃん。しかもこのヒロインって小町に──」


「言うな! だからイヤなんだよ!」


「なんでさ」


 俺や姉貴みたいな冷酷顔系統のヒロインは確かに好きになれない。

 むしろ嫌いだ。


 しかし似てるからこその思い入れというものもあるのだ。


 このヒロイン、最初は主人公と結ばれてエンドの設定だったはず。

 実際にそうした見え見えの伏線もあった。

 それがライバルヒロイン、いや、サブヒロインにすら人気劣る始末。

 薄幸としか言いようのない人生。

 俺の目には、作者がこのヒロインを弄んでいる様にすら映る。

 商業出版だけに色んな大人の事情が絡んでしまってるんだろうけど。


 主人公が小さい頃からずっと好きで。

 根暗なコミュ症を押し切って部活まで作って。

 すごくすごく健気な子。

 それだけに、このヒロインには幸せになってほしい。

 愛でることはできないけど、応援はしたいのだ。


 ……などと言うのはくどいな。


「なんとなく」


「もったいないね。ボクなら小町にコスプレさせてコミケつれていくのに」


「好きに言え。面白がられるのは慣れてる」


「別に面白がってなんて。もっと早く痩せ──」


「見晴!」


 振り返ると栗原。

 まあ予想はしていた。

 前回もそうだったし。


「また、こんなキモイ売場に。やめろって言ったろうが」


「えーっと……」


 見晴の目が泳ぐ。


「俺まで同類に見られたらどうすんだよ。イメージ壊れるだろうが」


 二人の間の事情は察した。

 天使の羽がどうとか、訳わからない台詞はこういうことか。


 でも何も言うまい。


 見晴をかわいそうとも栗原をバカとも思う。

 だけど俺が口を出したら、余計にややこしくなるだけだ。

 そもそも俺と見晴はそんな関係にない。


 栗原が睨んできた。


「しかもまた小町と一緒かよ」


「たまたまだよ。知っての通り、俺はオタなんでな」


「こんなキモイヤツと」


 珍しい。

 そう思っているのは知っていたが、口に出すとは。


 ま、どうでもいいや。


「あいにくこんな顔なもので。キモイと言われるのは慣れてるよ──」


 さっさと退散させてもらおう。

 踵を返す。


「じゃあな、栗原」


「おい、小町!」


 何か聞こえるがほっとこう。


 思えば旭さんと出会ったのは、やっぱり同じ様に栗原と会って間もなくだったか。

 あの時は口惜しくもあり、悔やんでもいて、やるせない気持ちが溢れていた。

 だけど今は何とも思わない。

 ただ旭さんにラノベを探し直すため、次の本屋へ行かないとって思うだけだ。


 やっぱり、恋してるって楽しい。

 一ヶ月前と同じような状況だけに、余計ハッキリと感じられる。 

 旭さんと今後どうなるかわからない。

 でも、だけど……こんな嬉しく思える時間が少しでも長く続くといいな。


 いや、違う。

 美鈴に打ち明けた時言われた言葉を思い出す。


 ここで『どっちのENDもない。絶対に旭ENDを迎えてみせる』くらい言ってみせたらどうですか。


 そうだな、美鈴。

 俺は絶対に旭ENDを迎えてみせるよ。


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