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13/06/07(4) 自宅:可愛い♪

 姉貴がアイスコーヒーを作って持ってきてくれた。

 湿気が肌にまとわりつきそうな天気だけに、なんかすっきりしそうだ。


 しかし今日の姉貴は珍しい。


「姉貴、何かあった?」


「ん? どうして?」


「いや、姉貴がここまで具体的に職場の話をするなんて珍しいなって」


 振ったのは俺。

 だからといって、いささか話しすぎの感がある。


「別に大した事話してるわけじゃないだろう。これで次から次にキャッチャーやギャルゲーマニアが公安庁受けに来る事態を招くわけじゃあるまいし」


 本当にそうなったら、それはそれで見てみたい。


「いや、その大した事すら話さないし持ち出さないのが姉貴じゃん」


 イオに就活。

 どっちかだけならまだしも、二つ重なればさすがにアウトだ。


 姉貴がコーヒーのグラスを傍らに置く。 


「……確かにそうだな。家と職場の切替ができてないのかもしれん、すまん」


 頭下げられても困るのだが。


「俺はいいんだよ。ただ少し心配になっただけで」


 姉貴が頭を起こし、くすりと笑う。


「心配してくれてありがと──」


 素直に振る舞われても困るのだが。


「──大丈夫だよ。単にみつきさんのやってる仕事が山場ってだけ。私が指揮してシノと旭も手伝ってくれてるんだけど、うまく行きそうな感じになってきててさ」


「ほう」


「今だから言おう。先週末の野球観戦のとき、内野席と外野席を仕切るフェンス際で『本当の理由は?』って聞いてきたよな」


「……聞いたな」


 よく覚えてるなあ。

 そんなのとっくに忘れてたぞ?


「あの日は今後の鍵になる調査の回答待ちをしてたとこだったんだ。それで私もシノもじりじりしててさ。私は気晴らししたかったし、丁度いいと思ってシノも野球に呼んだ。それが本当の理由だよ」


「なるほどな」


 あの日シノさんが現れたのは、ずっと不思議でならなかった。

 だって俺にも美鈴にも関係ない人なのに。

 でも話を聞いて、ようやく納得。


「実際にあの日のあいつはお前から見てもハイだったろ?」


「ハイというより壊れて見えたな」


「うむ……まあシノは、元々まともに見えて壊れてるんだけどさ」


 酷い事をさらっと言う。

 壊れてるって、「姉貴と類友」と同義なんだが。


「旭さんは?」


 名前が出ないと変にのけ者にされてるっぽく感じる。


「まだ経験が浅いから先の展開が読めない。だから私達とは心境が違うよ」


「そんなに違うものなん?」


「要は私達の仕事ってギャルゲー攻略と同じなんだ」


 またギャルゲーに戻るのか。

 そうツッコみたい気持ちを抑える。


「それで?」


「ギャルゲーを何本もやりこむとフラグの立つパターンというのが見えてくるだろ? フラグの立った後の展開も読めるだろ? 一方でBADEND分岐に入ると雰囲気や文章でわかるだろ?」


「うむ」


 大昔のギャルゲーだと、最初にBADENDを一回経験しないと絶対にHAPPYEND分岐に入れないのもあったりする。

 だけど、そういう事も言ってはいけないのだろう。


「あれと同じだ。うちの仕事を繰り返すと何がフラグかというのも見えてくるし、フラグが立った後の展開も見えてくる。旭はまだギャルゲーを試行錯誤しながらやってる段階だから先が見えないというわけだ」


 ギャルゲーに挑戦する旭さんね……。

 攻略する前にPCモニターをぶん殴ってそうだ。


「わかった様な気はする。だけどキャラ攻略と姉貴達の仕事は違うだろう」


「全く同じだぞ? 美少女口説くもスパイ口説くも、人を口説くのは変わらん」


「その論理だとギャルゲー神は最高のスパイ工作員って話になるよな」


「そうだよ? 実際にみつきさんは我が庁を代表するギャルゲー神だからその素質がある。伊達にEVEの魅力を説いて公安庁に採用されたわけではない」


 えっと……さっきの話って……。


「みつきさんかよ!」


「そうじゃないなんて一言も言った覚えはない」


 この女、にやけてるんじゃないよ。


「そんな人を好きって言ってる自分が恥ずかしくならないか?」


「みつきさんの場合はヲタってより多趣味だからなあ。ギャルゲーもラノベも趣味の一つってだけで、痩せてた頃のみつきさんはオタと程遠いし」


「確かになあ」


 外見リア充なオタも最近は多いけど。

 少なくともみつきさんが凝り性で極端な性格なのは、これまでの言動からよくわかる。


「久しぶりに見てみるか。かつてのみつきさんを」


 姉貴がスマホを取り出して画面を見つめる。

 そして、ぽっと顔を赤らめた。


「可愛い♪」


 近くにあったイオの束を掴み、姉貴の頭をぶん殴る。


「いたいなあ。何するんだよ」


「自分の部屋でやれ! キモイ!」


「だって可愛いんだもん。このくりくりお目々がたまんない」


「いいからちゃっちゃと裁断してスキャンしろ。付箋は全部外したから」


 姉貴が裁断作業に取りかかる。

 しかし、動作の一つ一つがゆっくりゆっくり。

 ほんっとわざとらしいなあ。

 いじけて構ってもらいたいのが見え見えじゃねーか。


 ……仕方ない。


 PCに向かう。

 ちょうどマッシュが付けっぱなし。

 ワールドに入り、適当なダンジョンに入る。


「姉貴、戦い方がよくわかんないから教えて欲しいんだけどさ」


「ああ、これはだな……」


 姉貴が飛びついてきて、嬉々と説明し始めた。

 まったくもう。

 手がかかるったら。


                ※※※


 結局俺は、ゴミとイオが散らかった部屋で寝る羽目になった。


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