13/06/07(1) 自宅:だったら、返事は『うん』か『ううん』だけでよろしくです~
夕食を終え、現在はマッシュで着せ替え作業中。
髪型をどうするかを悩んでいる。
現在は我が妹う○らを意識したお下げっぽい長めのツインテール。
しかし旭さんも長さは違えどツインテール。
それゆえ姉貴にバレやしないか、心配なのだ。
考えすぎとは思うけど、あの姉貴だけは油断ならない。
新こまっち日記に旭さんのことを書いてなくてよかったと心からホッとする。
──「コネクト」が鳴る。
旭さんだ、どうしたんだろ?
スマホをとる。
「もしもし、あ──」
おっと、いけない。
隣の部屋には姉貴がいる。
旭さん、と呼びかけたのをグッと呑み込む。
「小町さん、こんばんわ~。今は自宅ですか~?」
「うん」
「だったら、返事は『うん』か『ううん』だけでよろしくです~」
「うん」
隣に姉貴いるから、下手な返事すればバレてしまうということだろう。
気が回るなあ。
「次の土曜日、つまり八日はお暇ですか~?」
「うん」
「よかったら、秋葉原で買物につきあってもらえませんか~?」
へ?
「う、うん」
「それは『うん』なんでしょうか~、『ううん』なんでしょうか~」
しまった!
「うん、うん」
今度はちゃんと伝わるように、強調しながら「うん」を繰り返す。
「よかったです~。こないだ美鈴君と電化製品の話したものだから、お買い物したくなりまして~」
「うん」
「その後は、みんなで行ったメイド喫茶に連れていってください~」
ぶっ!
「う、うん」
「また~……どっちですか~?」
「うん、うん」
「じゃあ、お安く買物した後は二人でどっちが早く御指名されるか競争です~──」
ちょっ!
それって万一にでも俺が勝ったら最悪じゃねえか!
シノさんは勝てないとは思ったけど、勝っても負けてもどうでもいい人。
でも旭さんは違うのだから。
そしてシノさんが相手ですら、胸が大きくて入らないというオチが待っていた。
今度もどんなオチが待っているか……。
しかし、旭さんが続ける。
「──私は勝っても負けてもいいのです~。勝ったらもちろん嬉しいですけど、負けても小町さんのメイド姿をいっぱいいっぱい愛でられるのです~」
はあ……。
それはそれで嬉しくありませんけど。
いくら旭さんといえど、そんなので喜ばせたくもありませんけど。
といっても、電話の向こうからは「ふふ」と笑い声が聞こえてくる。
何を想像してるか知らないけど、答えは一つだよなあ。
「うん」
せめて精一杯力強く返事してみる。
「ありがとうございます~。では一三時にとらのあなA館の一階で~──」
なぜ、とらのあなA館?
「──いただいたラノベ一読み終えたので~。新しいの選んで欲しいのです~」
はやっ!
「うん」
「できれば次はS○O路線は外していただけると~」
「うん」
やっぱ合わなかったのかな?
主人公が努力もせず最初から強すぎるし。
キャ○テン好きってくらいだから正反対この上ない。
「本音ベースと言っても、薦めてもらった小説を無碍に否定するのも心痛むので言い訳させてください~」
「うん」
「主人公、どうしてコミュ障のくせして、あんなに女性に優しくできるんですか~」
ぶっ!
さらに旭さんは続ける。
「旭チェックによれば、主人公はまるで下心がありません~。しかし下心もなしに命まで賭けちゃう男なんて理解の範疇を超えてます~」
ちょっ!
しかしさらに旭さんは続ける。
「なのにヒロイン達はそこに疑問を抱いていないのが、女として納得できません~」
えっと。
とどめを刺すべく、さらに旭さんは続けた。
「一言で言えば『人形劇』です~。まるで主人公を持ち上げるために女が道具扱いされてるみたいで不快です~」
ひたすら主人公バンザイなのが、S○Oの魅力なんだけど。
読んでてストレスたまらないし。
そもそもそんなに深く考えないし。
と言っても、人には好みというものがある。
合わない物を押しつけても仕方ない。
なら、こう答えておこう。
「うん」
〔せっかく薦めてくれたのにごめんなさい~〕
「ううん?」
〔でも俺ガイルやシ○ナは面白かったです~。次のオススメ、楽しみにしてます~〕
「うん」
ま、三本中二本ヒットしたんだから上出来だ。
俺自身、持っているラノベが全部好きなわけでもないし。
さて次はどんなの選ぶかな。
襖の向こうから声が聞こえてくる。
「小町、いいか?」
げっ、姉貴!
「姉貴、いいよ~」
旭さんにもわかるように「姉貴」と入れて答える。
これで伝わったかな?
〔観音さん、いらっしゃったんですね~。では私はこれで失礼します~。またまた~〕
スマホから通話切れを報せる音。
同時に襖がガラリと開いた。
もったいつけたヒキに見えますが、特に次話で何かあるわけではございません。
しばし更新不定期になるかもです。
申し訳ございません。
7.25
日付を4→7に変更しました。