13/06/01(12) 秋葉原:口答えは許さん。二人とも目を瞑れ
へろへろになった美鈴と旭さんが席に戻ってくる。
姉貴がちらりと手首に目をやり、シノさんに目を向ける。
「シノ、そろそろお開きにするか」
「そうですね、そろそろ終電ですし」
俺も腕時計を見る。
二三時回ったところ。
もうこんな時間か。
「ここは約束通り、私とシノが奢ろう。お前らは先に外出てろ」
旭さんがきょとんとする。
「約束ってなんですか~?」
「ああ、旭ちゃんいなかったものね。旭ちゃんも一緒に出てて」
「よろしいんですか~?」
「ここは『若い』先輩達に任せなさい」
シノさんが「若い」とあえて強調する。
少しは学習した……というよりも早く帰りたいのだろう。
シノさんの家は長津田。
俺や旭さんよりもさらに遠いから。
──店外へ。
二人が出てきた。
「御馳走様でした」
三人揃っての礼。
しかし姉貴がニヤリと笑った。
「礼を言うにはまだ早いよな」
続けてシノさんまでニヤリと笑う。
「そうそうお仕置きがまだ残ってるからね」
「何のですか?」
美鈴が怪訝そうに問う。
俺達、なんかお仕置きされるようなことなんかしたっけ?
「じゃんけんに負けただろ?」
「そうそう。さっき会計しながら、観音さんと何やるか決めてきたんだ」
「あれって本気だったんですか!」
……忘れてた。
「ふっ、覚悟しておけ」
「姉貴、ちょっと待て!」
「恥ずかしさで悶え死にする様なお仕置きするからさ」
「シノさん、何するつもりなんですか!」
「二人とも目が怖いです~」
姉貴の声のトーンが落ちた。
「口答えは許さん。二人とも目を瞑れ」
瞑らないと余計に何されるかわからないので目を瞑る。
──手に少しひんやりした感触?
ってこれは……。
目を開ける。
そして下を見る。
俺は姉貴から手をつながれていた。
美鈴はシノさんから。
「どうだ恥ずかしいだろ?」
「美鈴君ってこういうの苦手そうだからねえ」
いや、何これ!
ホントに恥ずかしい!
まさかこの年になって姉貴と手をつなぐとは思わなかった。
顔が熱い。
美鈴はどうだ?
顔を見る。
やっぱり真っ赤になっていた。
「駅まで手を放す事は許さないからな」
「少しの間、私もお姉さん気分を味合わせてもらいますかね」
「みんな楽しそうです~。私もお仕置きします~♪」
旭さんまで俺と美鈴の空いた手を握ってきた。
うわ、はずかしい。
でも、嬉しい。
手の平に汗が滲んでくるのがわかる。
旭さんに気づかれないだろうか?
姉貴にも気づかれないだろうか?
びくびくもどきどきもしてしまう。
秋葉原で二十歳を超えた五人が手をつないで歩くとか。
俺達はいったい何やってるんだ。
でも夜中も近いせいか、周囲には全然人通りがない。
だったらいいか、迷惑にもならないだろうし。
姉貴が足を前に出す。
そのまま五人ならんで駅への道を進みはじめた。
ああ、ちきしょう。
悶え死にしそう。
だけど、こんなお仕置きなら仕方ない。
今日の所は許してやるよ。