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13/06/01(11) 秋葉原某コスプレ居酒屋:二人とも闇丼食べたからな

「さて二人」


「へ?」「はい?」


 姉貴が俺と美鈴に目を向けてきた。


「お前らは国家機密を聞いてしまった」


「国家機密?」


「お前らは私の部下がエロ本読んでることを知ってしまった」


 今度は美鈴が問う。


「どういうことですか?」


「さっき美鈴が自分で言ったんじゃないか。『役人たるもの、聖人君子じゃないければいけないんです。まかり間違ってもロリペド一八禁漫画を読んでるなどと思われてはいけないんです』と。よって口止めをさせてもらう」


「横暴な!」「理不尽な!」


「だが私は寛大だ。お前らがある行為をすれば見逃してやろう」


「ある行為?」


 目の前の悪臭放つ物体を指さしてきた。


「食え」


「食うか!」「食べませんから!」


 姉貴がニヤリと笑う。


「何を誤解している? 食べるのは小町だけでいい。美鈴は父君の手前があるからな」


「ほっ」


「ほっ、じゃねえ! 何をさりげに脇固めやがる! 大体食わなくたって、俺に何のデメリットもないだろうが!」


「食わなければ『新こまっち日記』の内容をここでバラすぞ」


 えっ!?


 シノさんと旭さんが不思議そうな顔をする。


「新こまっち日記って?」「なんですか~?」


 どうして姉貴が「新こまっち日記」の存在を知っている。

 旧こまっち日記がばれたから、ファイルの名前も場所も変えた上で鍵まで掛けたのに。


 ああ、そうか。

 いつものハッタリか。


「何それ? 俺まるでわからないんだけど」


 姉貴が目を瞑る。


「五月二十日、午後二時頃。生協で立ち読みしていると晴海が──」


「なんで知ってるんだよ!」


「漁ったからに決まってるだろう」


「当然の様に答えるな! パスワードはどうした!」


「管理ソフトに入ってた」


 最悪だ……。


 姉貴が目で返答を迫ってくる。

 闇丼を食べるか?

 それともさっきの続きを話されたいか?


 冗談じゃない。

 今ここには旭さんがいる。

 妄想を暴露される恥ずかしさマックスだけじゃない。

 見晴のことまで知られてしまう!


 なら、答えは一つだ。


 皿とスプーンを掴む──一気に流し込む。


 ぶふぉ! トイレ! トイレ!


 ──はあはあ。


 胃の中の物が全部逆流どころか、涙まで噴き出した。

 その味はまさに名伏し難い闇丼の様なもの。

 まさかこの世にカレーの缶詰と渡り合う食料兵器が存在するとは思わなかった。


 ふらふらになりつつ席に戻ると美鈴が駆け寄ってきた。


「小町さん、大丈夫です──か?」


 語尾の違和感に気づくと、目の前に姉貴が立ち塞がっていた。


「美鈴、お前が小町を抱き受けることは許さない」


「どうしてですか!?」


「お前は闇丼食べなかったじゃないか。そんなチキン野郎が、果てしなく長い姉弟坂を打ち切るなど許さない」  


「『食べるのは小町だけでいい』と言ったのは観音さんじゃないですか!」


「そりゃ、他人の美鈴に無理強いはできないだろう。だが私は小町の保護者。小町がつきあう友達については、私に選ぶ権限がある」


 美鈴が皿とスプーンを掴み──一気に煽った。

 口を手で抑え、ぱたぱたと駆け出した。


「ふん」


 姉貴が鼻を鳴らし、席へ戻る。

 やっと椅子への進路が空いた。

 これで座れる……。


 椅子の背にもたれかかると、シノさんが旭さんにちらっと目をやる。


「シ、シノさん~! その目はなんですか~!」


「別に? ただ一人だけ……ううん、なんでもない」


「そんなイヤらしい言い方やめてください~」


「イヤらしい言い方なんてしてないよ。今日は私が温泉の一件で観音さんから虐められたかなんてことも、もちろん旭ちゃんに言うつもりなんてないし」


「言ってるじゃないですか~」


「だって今日『は』じゃないもの。今日『も』だもの。だいたい最初に『メールしてあげましょう~』って言ったのは旭ちゃんなのに」


「写真までつけたのはシノさんと弥生さんじゃないですか~。私になすりつけるのはやめてください~」


 そうだよ、旭さんを困らせるんじゃないよ。

 はっきり言おう。

 シノさんが姉貴に虐められるのは自業自得、もしくは自爆だ。

 今日俺が見てただけでも半分以上はそうだ。


「少なくとも止めなかったんだから同罪じゃない」


「意地悪言わないでください~。まるで今日のシノさん、観音さんみたいです~」


 姉貴がニッと笑う。


「私になるならいいことではないか」


 シノさんが「またかよ」とばかりに目を細める。


「ええ、仕事面『だけは』是非とも観音さん化したいですね」


「お二人ともじゃれあってる様にしか見えませんけど~。私には入り込めない何かがあります~。何だか私のけ者です~」


「二人とも闇丼食べたからな」


「旭ちゃんも闇丼食べれば仲間に入れるよ?」


 旭さんが皿とスプーンを掴み──一気に煽った。

 口を手で抑え、ゆっくりと歩き始める。


「シノひどすぎるだろ。これを旭に勧めるとか何考えてるんだ」


「ひどいのは観音さんの方です。最初に煽ったくせして何言ってるんですか」


 いや、そこ、なすりつけあうところじゃないよ。

 あんたら二人、最悪だ。


次話でコスプレ居酒屋回終わります。

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