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13/06/01(5) 秋葉原某メイド喫茶:むしろ大歓迎させていただきます

 ──店員がやってきた。


「お客様、よろしければメイドのコスプレをしていただけませんか?」


 御指名は美鈴。

 外見だけなら妥当な選択かも。

 可愛さという点でシノさんよりもメイドらしいし。


「僕、男なんですがそれでも構いませんか?」


「むしろ大歓迎させていただきます。店内のお客様にもその様に案内します」


 何でやねん。

 何が「むしろ」だ。

 世の中間違ってるだろ。

 他のテーブルにだって女性客いるだろうに。

 やっかみ生むだけだぞ?


「えー、本当に男の子? きれい~。こっちきて~」


 俺の見立ては間違っていた。

 店員の言った通り、需要があった。

 それも男性ではなく女性客。

 自分が選ばれるより愛でる方が楽しいらしい。


 美鈴が次から次に呼ばれては、ぱたぱたとテーブルの間を駆け回る。


「まあ美鈴君なら仕方ないかな」


 シノさんが美鈴を眺めて嘆息をつく。

 なんだか見下されてる様でむかつく。

 でも元々は姉貴とシノさんの勝負、無理はないか。

 俺と姉貴は同じ顔。

 俺に負けるのは姉貴に負ける様なものだし。


 ──しばらく経って、店員が再度やってきた。


「お客様、よろしければメイドのコスプレをしていただけませんか?」


 店員の視線は……俺?


「僕も男なんですが」


 自分を指さしながら念を押す。

 本当に俺に言ってるの?


「むしろ大歓迎させていただきます。先程の方と男の娘コンビでメイドしていただければ、店内も盛り上がるかと」


 絶対世の中間違ってるから!

 そう叫ぶ前に姉貴が叫んだ。


「絶対間違ってるだろう! 同じ顔をした女性がここにいるんだぞ? しかも私の方がこいつよりも美人だろうが!」


 姉貴が俺と自らを交互に指さしながら力説する。

 「同じ顔」と言ってる癖に「こいつよりも美人」とか。

 もう支離滅裂じゃないか。


「当店では三〇歳以上の方にはコスプレを御遠慮いただいておりますので」


 うあっ、思い切り地雷ふんじまった!


「私はまだ二九だ! なあ、小町? シノ?」


「ああ……」


「そうですね……」


 姉貴が必死に年齢をアピールする。

 シノさんの目はいかにも気まずそう。

 俺の目もきっと同じだろう。

 今回に限っては七歳と強がらなかっただけ褒めてやりたい。


「実年齢がどうであろうと、お客様の雰囲気では……失礼ながら、執事はともかくメイドは似合わないかと……」


 ああ、まさに全否定。

 姉貴がテーブルに顔を突っ伏した。


「あの……私は? 私も三〇歳未満なんですけど……いや、私が美人とか綺麗とか決してそんなのじゃなくて……」


 今度はシノさん、店員へ恐る恐る問う。

 俺に負けたのがかなりショックの様子。

 もちろん俺もそう思うよ。


 店員が気まずそうに口を開く。


「本来お客様は……他の店員から制服を奪い取ってでも、真っ先にコスプレをしていただきたいところなのですが……」


「が?」


 シノさんが店員に厳しい視線を向け、詰問する。

 少々の理由じゃ納得しないと言わんばかりに。


「残念ながら、当店にはお客様のサイズに合う制服がございません……その……はっきり申し上げまして……お客様の胸の大きさじゃ入らないかと……」


 シノさんもテーブルに顔を突っ伏した。


「もうこんな胸は嫌……巨乳は嫌……」


 うわごとの様に繰り返してる。

 しかもテーブルに突っ伏すのすら胸が邪魔そう。


 ──結局、美鈴と一緒に各テーブルを回るハメに。


「写真いいですか?」


 あえて言おう。

 ちゃんと断ってから撮影する分、ヲタの方がそこらの一般人より礼儀正しいんだぞ。


「御自由に……」


 だからと言って、撮影される側のヲタが礼儀正しいとは限らないけどな!


 ──と思いきや美鈴が腕を組んでカメラにピースサインで笑顔。


「どうぞ~、何枚でも撮っちゃって下さいねっ!」


 えらい調子に乗ってるなあ。

 浮かれてるというべきか。


 美鈴がぼそっと耳打ちしてくる。


「こうなっちゃった以上は開き直って楽しみましょうよ。そんな仏頂面してると声を掛けてくれる御主人様に失礼ですよ?」


 まさか、そんな台詞をお前の口から聞くなんてな。


 ──三〇分経過。


 コスプレを終えて席に戻る。

 二人はまだテーブルに突っ伏していた。

 いい加減に起きろよ。

 それとももしかして寝てしまった?


 テーブル上の姉貴のスマホがぶるぶる震える。

 姉貴が気怠そうに起き上がり、電話を取った。

 起きてはいたのか。


「ああ、旭か……無事に終わったか……そうだ、お前も秋葉原に来るか? 今、シノと私の弟とその友達の四人でいる。……来る? なら秋葉原駅か末広町駅についたら連絡しろ、弥生は?……うん、そうか、わかった。それじゃ待ってる」


 姉貴が俺達に向き直る。


「これから旭も来るって。約束通り二人には私達二人がお酒奢ってやるから。シノ、なんかいい店あるか?」


 おおっ、まさかの展開!


 でも、旭さんは来て大丈夫なのか?

 姉貴と俺を同時に相手することになるんだけど……。


 いや、むしろ心配なのは俺の方か。

 ばれない様に、果たしてうまく振る舞えるだろうか?


 シノさんも起き上がった。

 こちらは気怠いというよりも眠たげ。

 半目開きで瞼が重そう。

 どうやら落ち込んだ振りして仮眠を取ってたっぽい。


「……すぐ近くに有名なコスプレ居酒屋がありますが。それで弥生は?」


 だから、どうしてシノさんはそういう店がすぐに出てくる。


「仕事終わると同時に電話かかってきて『皆実に呼ばれた』と帰ったそうだ」


「あのブラコ──かわいい妹ちゃんめ……」


 きっとシノさんに会わせないためやったのだろう。

 皆実……さすがとしか言いようがない。


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