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13/06/01(4) 秋葉原某メイド喫茶:ちっ

「あの、シノさん」


「なあに?」


「なんで俺はこんなところで座ってるんですか?」


 ここは秋葉原某所のメイド喫茶。

 隣に座ったシノさんに問う。

 美鈴も半ば呆けた顔。

 なんで僕も座っているんだろうとばかりに。


「私が誘ったからに決まってるでしょ?」


「そんな事はわかってます。なんで俺達がわざわざ神宮から秋葉原まで連れてこられてメイド喫茶で座っているのか聞いているんです」


「観音さんを誘ったら『小町と美鈴が行くなら私も行く、なんで私がお前と休日に二人だけでメイド喫茶に行かなければならないんだ』って言われたから」


 さすが姉貴の部下。

 説明になってるようで全然なってない台詞を平然と口にしやがる。

 野球が始まる前に二人が話してたメイド喫茶の話題はこれだったのか。

 ひそひそ声だったのでよく聞き取れなかったけど。


 シノさんの説明によれば、このメイド喫茶は可愛い女性客にメイド服のコスプレを勧めてくるらしい。

 それで二人が勧められるか勝負しようという話になったらしい。


 このメイドは本人さえよければ客に給仕までするとか。

 そのため店内は素人メイド目当ての世に言うヲタ客で埋まっている。

 世に言うというのは俺も同類だから。


「で、俺達にも負けないってのは?」


「二人とも見た目は女の子じゃん」


「ああそうですか。そうですね。俺達は確かに見た目女の子ですよね。つまり中身は男の子な俺達に、メイドのコスプレをさせようってのはイジメと言わないんですかね」


「僕は別に構わないけど……」


 美鈴がぼそっと呟く。

 そりゃお前はそうだろうよ。

 普段から女装してるんだし。


 シノさんが、ちっちと指を振る。


「何か勘違いしてない? いくら見た目が女性だからって中身は男性の小町君が見た目も中身も女性の私に勝てるとでも思ってる? 女性の魅力は外見だけじゃないんだよ?」


「自信満々なのは結構ですけど、勘違いしてるのはシノさんですから!」


 例え俺が女でも勝てるか!

 というか、誰があんたに勝てるんだ!


「もっと空気読もうよ。他のお客さん達、みんなこっち見てるよ? もし私より先にコスプレ勧められたら、お酒奢ってあげるからさ」


「のりました」


「おい、美鈴!」


 シノさんが姉貴にちらっと目を遣る。


「ま、観音さんの方は二人に勝つ自信ないかもしれませんけどね」


「随分と煽ってくれるじゃないか。私もその賭けに乗ってやろう」


 あーあ、こうなると思った。

 もう勝手にしてくれ。


 みんながこっち見てるのはシノさんと美鈴が目立つからだろうが。

 しかも残り二人は同じ顔。

 そりゃ好奇の目もひくだろう。


 この店のコスプレ用の貸出制服は二着。

 一回三〇分を上限とする任意の時間の貸出で、フルタイム勤めた場合は時給の代わりとして飲食代がサービスになるんだそうな。

 現在は二着とも貸し出されているとか。

 というわけでオーダーした特大バケツパフェを四人でつつきつつ、待機がてらの雑談中。


「シノさん、少し聞きたいんですけど」


「何?」


「前も姉貴とメイド喫茶行ったんですよね。シノさんがメイド喫茶に行くってイメージにそぐわないんですけど。別にヲタじゃないでしょう?」


 美鈴が更に付け加える。


「僕もそう思います。物見遊山なら一回来れば十分でしょうし」


「うちの仕事ってね、色んな人を相手にするから話題をたくさん仕入れておかないといけないの。メイド喫茶好きなお客さんがいれば連れていくのもその一つだけど、予め自分で確認しておかないと怖いからさ」


 旭さんと同じ事を言う。

 仕事相手の事は「お客さん」って言うのか。

 まさにセールスマンかその類だ。


「ふん。どうせお前の言う『メイド喫茶好きなお客さん』とやらは、私の目の前に座る肉大福の事だろ。一緒に行くのは構わんがダイエットの邪魔したら怒るからな」


 姉貴が面白くなさそうに毒を吐く。

 本音では「みつきさんを誘おうものならタイラップで両手両足を縛ってから横浜港に沈めてやる」くらいは言いたいのだろうけど。


「あの~、弥生が太ろうと太るまいと観音さんには関係ないと思うんですけど」


「上司が部下の健康心配して怒られる筋合いこそ、ないと思うんだが?」


「本人が食べたがってるんだから食べさせてあげればいいじゃないですか。糖尿病の管理が必要なら私がやります」


「ふん、生憎だが弥生も本気でダイエットに目覚めたっぽいぞ」


「えっ? 弥生に限ってそんなのあるわけないでしょう」


「本当だぞ? あいつは日々の体重の動きをグラフにしてるんだが『右肩下がりの印をつけた瞬間は絶頂感じる様になりました』って。変態はどこまで行っても変態だな」


 絶頂は多分ウソだと思うが、それらしいことは本当に言ったのだろう。

 同じ道を通ったものとして、そこはわかる。


「ちっ」


 ごくごく小さく、本当にすごく小さく、でも確かに、シノさんが舌打ちを鳴らした。

 隣の俺以外には聞こえなかったろうけど。


 いい人には見える、実際にそうなんだとも思う。

 だけど皆実、きっとお前の言う通りだ。

 この人、何か……怖い。


今回は架空の店です

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