12/10/01(1) 自宅:八時間ぶっ続けで招き猫狩ってるのを見て、この人なら合うと思った
スポンジでお皿をきゅっ。
おはしをきゅっ。
おわんをきゅっ。
擦っては流しに重ねていく。
洗剤を使いすぎないのがポイントだ。
現在は夕飯の後片付け中。
宿日直や残業の日を除き、作るのは姉貴、片付けは俺が担当。
姉貴は炊事・掃除・洗濯の完璧超人。
俺も家事はそれなりにできるが、料理の腕だけはどうにもならない。
なので素直に甘えている。
掃除・洗濯は俺が担当。
別にやれと言われたわけじゃないけど、手伝えるものは手伝って当然だろう。
もっとも姉貴も手伝ってくれたりするから、担当といっても曖昧なものだ。
そんな姉貴は既に自室。
夕食が終わったらすぐにマッシュが姉貴の日課だ。
あのゴールデンウィーク以来……。
あの浮かれざまは何かと思えば、単にフレ《友達》が一人できただけだった。
「みつき」さんというらしい。
それはいいけど、理由が呆れる。
「八時間ぶっ続けで招き猫狩ってるのを見て、この人なら合うと思った」
バカじゃないのか。
聞いてみれば姉貴はトータル三二時間狩り続けていたとか。
バカ同士似合いのコンビだと思う。
それ以来、姉貴とみつきさんはコンビを組んで腕を磨き合っている。
そして今や二人は準廃──廃人予備軍にまでなってしまった。
恐らく年末には立派な廃人となっているであろう。
あーやだやだ。
でも、姉貴が嬉しそうに付け足した一言。
「自分から『友達になってください』って言えるのいいな」
ネットの匿名性ならでは、そう言いたいのかなと思った。
でもなんか違う気もする。
そういうのは人見知りでコミュ症な人の言う台詞だから。
姉貴は人見知りともコミュ症とも縁遠い。
仕事の制約さえなければ、そんなの平気で口にするだろう。
それ以前にスパイなんてできるわけがない。
家を一歩出さえすれば姉貴は完璧超人。
家事だけじゃない、外面を含めた全てにおいて。
でもMMO初心者ってそんなものなのかもな。
俺はクラスメイト達と一緒に始めたから、最初はフレ=リア友──現実の友人だったし。
感覚が違うのかもしれない。
微笑ましいには違いないので、推薦者冥利に尽きるってやつだ。
ただ俺はあの日以来、ほとんど姉貴とはマッシュ内で遊んでいない。
それは姉貴がゲーム内で「俺」を騙っているから。
ウソを吐ききるには手本がある方がいい、と言われれば納得するしかない。
万一にも身元がバレるわけにはいかないんだし。
俺が教えなくていいのかと心配になりはした。
でも、みつきさんの妹がギルドの紹介をはじめ色々教えてくれたとか。
だったらいいやということで、後は任せて手を引くことにした。
というか、もう俺は付き合いたくても付き合いきれるレベルにないし。
ただ最近の姉貴はちょっと様子が違う。
マッシュにはまっているには違いないのだが、聞こえてくるのはダンスミュージック。
マッシュ自体をやっているわけではなかったりする。
流し終えた、吹き終えた。
コーヒーでも入れて、様子をみてくるか。
姉貴はブラックしか飲まない。
「コーヒーはブラック、私は中学二年生からずっとそうだ」。
この台詞を聞いた時はバカかと思った。
でも実際の理由は、背が高いから肉をつけないように糖分を控えているだけ。
だから胸もぺちゃんこなんだろうし。
俺は砂糖とクリームどっぷり。
俺も元々はブラック派だけど、太ってからそうなった。
体が求めてやまないからだけど、特に我慢するつもりもない。
自然の摂理には大人しく従う。
これもまた大人への階段をのぼるというやつだろう。
「姉貴、入るぞ」