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13/05/31(4) 某洋食店:私のメンチカツも手伝ってもらえませんか~

 旭さんがそれぞれのメニューを半分ずつ取り分ける。

 さあチャレンジ開始!


「昼間が○郎だっただけに不安じゃあるけど、頑張ってみるよ」


 まさかこんな店とは想像もしなかったし。

 しかし旭さんの口から意外な台詞が飛び出る。


「私も今日のお昼は関内の○郎でしたよ~」


「はあ?」


 女の子が?


「観音さんと一緒に~」


「はあ?」


 あの姉貴が?


「スーツもお揃いでお手々つないで仲良くてくてく歩いていきました~」


 そこは微笑ましい。

 別に驚くところじゃない。


「あの女、『小町が○郎なんか行こうものなら殺す』とか言ってた癖に」


「○郎食べたら何で殺すんですか~?」


「俺って春先まで太ってたからさ。当時は姉貴からカロリー制限食らってたんだ」


「太ってたとか全然想像できないですね~。どのくらいで何キロ痩せたんですか?」


「八〇キロから現在五〇キロ。だから五ヶ月で三〇キロかな」


 旭さんが食べる手を止め、目を見開いた。


「すごい! それはすごすぎます~。どうやったらそんなに痩せたんですか~」


「筋トレと有酸素運動と……姉貴と友人による食事制限。要するに正攻法」


「友人?」


「姉貴と友人がぐるになって俺をはめてさ、それで強制的にダイエットさせられた」


「観音さんは大のデブ嫌いですからね~。でも友人さんってのは~?」


「元家庭教師先の教え子で現在は大学の後輩。友人というかツレに近いかな」


「関係はわかりました~。ですけどそれでダイエットってのがピンと来ません~」


 それもそうか。


「ちょっと待ってね?」


 まだ残ってたかなあ。

 あの脅迫に使われた写真。

 同時にダイエットの励みにしてた写真。

 スマホを操作して画像を探す。

 

 あったあった。

 開いて旭さんに差し出す。


「この太った男が俺。隣が友人」


「えええええええええええええええええええええええええええええええ~」


 旭さんが見た瞬間に絶叫した。

 店内から注目浴びてるからやめてください。


 旭さんも慌てた様に口を抑え、きょろきょろしてから口を開いた。


「ご、ごめんなさい~。あまりのショックでびっくりしました~」


「まあ、そうだよね」


「使用前から使用後ってダイエット広告みたいな小町さんにも、なぜか振袖姿というのにも、そしてこの隣の人って男性……ですよね~?」


「うん、それも『旭チェック』とやらの能力?」


 そもそも旭チェックとやらがよくわからんが。

 鏡丘さんのラプラスの魔スキルに近いのかそうでないのか。


「いくら私でも写真からはわかりませんよ~。この話の流れでこの人が女性だったら、小町さんは今ここにいるわけありませんから~」


「ああ……ごもっとも」


 鏡丘さんなら写真からでも見抜きそうだが。


 一方で旭さんは歓喜している。


「すごい美人。これは相手がシノさんでも対抗できます~。実物見たら飛びついて離れなくなっちゃうかもです~」


 ですよね。

 だから見せたくなかったんだけど。


「うんうん」


 とだけ相槌を打つ。


 でも見せてみた。

 やっぱりいずれは紹介したいから。

 これがいわば、俺の「自然体」への挑戦だ。


 ふと気づいた様に旭さんの笑顔が強張った、そして気まずそうに尋ねてくる。


「あ、えーと……気を悪くしちゃいました……よね~。ごめんなさい~。男性と食事している時に他の男性を褒めるなんて~。本当に気にしないで下さい~。私の飛びついたり抱きついたりは発作みたいなものなんで~」


「ううん。大丈夫。その発作がなければ今こうしてないわけだし」


 にっこりと笑ってみせる。


「ありがとうございます~。広く大きな心で見ていただけると助かります~」


 ここでさっきルノアールで聞いた美鈴の言葉を思い出す。


(推測ですけど、旭さんのその挙動って「自分より上の美人なら安心できる」というのがあるんじゃないですかね。人付き合いで腐心してきたのが窺えますし。単純に美しい物が好きなのかもですけど、それだけじゃ突飛すぎますから)


 本人が話さない以上、美鈴の推測が当たってるかどうかはわからない。

 でもそう思えば自分にもゆとりができる。

 美鈴ありがとう。


「しかし○郎よく完食できたね」


「私も観音さんも『麺半分』でしたから~」


「そんな注文方法あるの?」


「ありますよ~、女性は大抵それです~」


 スマホでぐぐってみる。

 三田本店も麺半分はあるっぽい。

 自分には全く縁がないから知らなかった。

 すまん美鈴。

 無駄な戦いさせちまった。


 ──ふう。


「このオムライスの量すごかったなあ」


 何とか完食した。

 ついついおなかをさすってしまう。


「ごめんなさい~、私のメンチカツも手伝ってもらえませんか~」


 ──そして、まだ戦いは続いた。


「任せろ」


 いや、本当はきついっす。

 だけど旭さんの食べかけなら喜んで食ってやろうじゃないか。

 こういうワイルド系を売りにした店で残すのは、店主に対して失礼。

 出された以上は全部食べなくてはいけない。

 それが何に変えても守らなくてはならぬ小町ルールだ。


 ──ふう。


 今度こそ完食。

 お腹が苦しい……俺も衰えたものだ。


「やはり小町さん男の子ですね~。本当に助かりました~」


「いえいえ」


 にっこり笑ってみせる。

 そして美鈴がさっき持たせてくれた物──「胃薬」の封を切る。

 「大井町で普段着で待ち合わせ」と聞いて渡してくれたのだが……どうやらこの展開まで読んでいたらしい。

 なんて恐るべき洞察力、そして情報力。


 美鈴、ありがとう。


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