13/05/31(1) ラーメン○郎:僕だって男、○郎くらい完食してみせます!
只今、三田の「ラーメン○郎」で美鈴と行列中。
美鈴が○郎を食べてみたいということで付き合っている。
行列は三〇人くらいか。
いわゆる三田定理「行列人数×1.5分」だと、待ち時間は四五分ってところだな。
○郎は一番小さい「小」でも他のラーメン屋の大盛くらいある。
果たして小食の美鈴に食べきれるのか。
不安なので止めはした。
だけど、美鈴は言い張った。
「僕だって男、○郎くらい完食してみせます!」と。
どうも男の見せ所が違う気がする。
仕方ないから「○郎で食べるからにはスープを絶対残すな、それが○郎の鉄の掟だ」とだけ言っておいた。
一般にそんなルールなぞない。
だが小町ルールとしては存在する。
あえて言おう、スープの最後の一滴まで飲み干せないヤツはカスであると。
連れて行くからには守ってもらう。
それが店主への礼儀というものだ。
「そう言えば、美鈴って今日は香水つけてないな」
先週末の一件のせいか、他の人の香水に注意が向く様になってしまった。
「『迷惑かな』と思ったんです。○郎って男の戦場ですし」
なんかすっかりやる気になってるよなあ。
とりあえず、お前のそのファイティングボーズは似合わないからやめろ。
「小」食べるくらいで戦場も何もないから。
「普段つけてるのは何? かなり派手な香りだよな」
「JPゴルチェの『フラジャイル』です。香りも派手ですけど、中に女性が飾られたスノードームの容器は香水の中でも飛び抜けて個性的ですよ」
美鈴がスマホをいじって、画像を見せてくる。
「本当だ。香水というより、ちょっとした飾り物みたいだな」
「でしょう? でも珍しいですね、小町さんがそんな話題持ち出すなんて」
「ああちょっとな。後でお茶でもしながら話すよ」
ただしお前が無事に生きていればだが。
「ん? では後で」
──話してる内に到着。
食券を買う。
美鈴は当然「小」。
俺は「小ダブル」にしてチャーシューだけ増やす。
さすがに美鈴よりは今でも食べるし。
○郎は空いた席から順繰りに座っていく方式。
当然二人は別々に。
○郎のトッピングの注文方法は呪文みたいで、素人にはわからない。
だから美鈴には前もって「指を差されたら『野菜』と言え」と伝えてある。
俺は「ニンニク野菜」と告げる。
注文が届いた。
急いでかきこむ。
○郎は伸びない内に飲み込む様に食べるのがコツ。
食べ終わったので先に出て待つ。
しばらくして、美鈴がふらふらになりながら出てきた。
「小町さん……完食しました……スープも残さず全部飲みました……」
こいつにとっては本当に戦いだったようだ。
「美味かったか?」
「半分まではいかにもジャンクで……後は食べ切るのに夢中で覚えてません……」
だから言ったのに。
女性と比べても小食なお前だとそうなるってば。
だけどお前は男だった。
それは認めてやろう。
「仕方ないなあ、歩けるか? 何なら肩を貸すぞ?」
「いえ、もたれかかると吐きそう……お腹苦しくて……早く休めるところに……」
じゃあ田町駅前のルノアールにするか。
落ち着いて話をしたいし。
あそこのふかふかソファーは休むのに丁度いいし。
──ルノアール。
アイスコーヒーを二つ注文。
美鈴はソファーにもたれるというよりも半ば寝転がる様に座った。
常備しているらしき胃薬を飲み、おしぼりを目に当てて上を向いている。
普段は女子力の固まりみたいな美鈴が、この無様。
どれだけ苦しいか察しが付く。
「気持ち悪いならトイレ行って吐いてこいよ」
「吐いたら僕の負けです。スープを残さなかった意味がないじゃないですか」
……脅しすぎたかな。
ま、これから何か用事があるわけじゃない。
ゆっくり休むとするか。