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13/05/26(5) 二子玉川:色の濃さが全然違うだろ。グリーンティーだ

「御来店ありがとうございました!」


 あー、耳がキンキンする。

 でも心も懐も満たされてほくほく。


 巨乳なノブナガ様のポスターに釣られてパチンコ屋へ。

 わけのわからないままパチスロを打ってみると、いきなりリールが止まった。

 スマホで検索してみると「フリーズ」とかいう超レア役だった。

 確率1/65536だとか。


 当然終わったら即ヤメ。

 景品にライトブルーが置いてあったので、姉貴へのお土産として交換。

 残りは換金して諭吉様が三人。

 ああ、幸せ。

 ついている日はどこまでもついているものだ。


 ここまでツイていれば足取りも軽やかになろうというもの。

 いつものアパートの階段も跳ねる様に……。


 って、それはまずいな。

 近所迷惑だ。


「たっだいま~」


「おかえり。えらく上機嫌じゃないか。晩飯は食べたか?」


 おっと、いけないいけない。

 迂闊な態度で旭さんの事がバレてはまずい。


「ううん、まだだけど?」


「そっか。デートなら食べて帰るかもと思ったんだが……じゃ、これから作るわ」


 あ、そうか。

 連絡するの忘れてた。

 俺が帰るかどうかで、夕食の準備も全然違ってくるし。


「電話しなくてゴメン。でもデートって程じゃないってば。これ、お土産」


 香水を手渡す。

 受け取った姉貴はチラっと


「ありがと……小町がパチンコって珍しいじゃないか」


「たまたまだけど、よくパチンコってわかったな」


「そりゃ包装してないし、交換玉数示すシール貼ってあるんだからわかるよ。つまりビギナーズラックで大儲けしたってところか。なるほど、上機嫌なわけだ」


 勝手に一人で納得してくれた。

 本当にどこまでもついてるなあ。

 これで後は誤魔化すのも苦労しなさそうだ。


 姉貴が冷蔵庫を開く。


「小町、今日はパスタでいいか?」


「うん」


 特にすることもないし、手伝うほどでもない。

 ぼーっと後ろから、調理している姉貴を眺める。


 パスタを茹でた後は、色々入れて炒めている。

 合間を見ては調理具を洗ったり、ゴミを捨てたり。

 相変わらず手際がいい。


「よし、あがり」


 調理が終わったらしい。

 流しがキレイに片付けられている。

 俺が料理を終えた後は汚れ物だらけだというのに。

 味はもちろんなのだが……これを見る度に家事スキルの差を思い知らされる。


 ──皿が差し出される。


 ペペロンチーノ? 和風?


「姉貴、これは?」


「『ぺぺろんちりめんパスタ』。新しい広島土産として発売されたんだよ」


「へえ……」


 上に乗っている広島菜はいいとして。

 ちりめんが広島名物なんて知ってる人がどれだけいるのかな?

 だからこそ開発したんだろうけど


「売ってる品その物ではないが、見よう見まねで作ってみた。食べてみてくれ」


 つるっと一口食べてみる。


「うん、美味しい」


「よかった」


 姉貴がにっこりと笑う。


「広島菜が乗ってるから和風に見えたけど、食べてみるとちゃんとペペロンチーノしてる。広島菜のシャキシャキ感が、これまた」


「ちりめん入ってるし、栄養バランスも取れてるぞ」


 姉貴が自分のをよそう。

 夕食だからか量は少なめ。

 油料理してるとそれだけでお腹いっぱいになるからというのもあるだろうけど。

 こういうところ、本当に家庭的なんだけどなあ。


 ──食べ終わる。


 姉貴が「口直しに」と、氷を入れた緑色の飲み物を差し出してきた。


「これは……青汁?」


「色の濃さが全然違うだろ。グリーンティーだ」


「グリーンティー?」


 旭さんの香水と同じ名前じゃないか。 


「旭が好きでさ。職場でその話になって飲みたくなった」


 なるほど。

 香水から飲み物の名前を連想したわけか。


「グリーンティって、さっぱりしてて癖のない匂いでいいよね。旭さんって写真でしか見たことないけど、なんとなく似合ってそう」


 姉貴がくすりと微笑む。


「実際似合ってるぞ。大人に見せようと頑張ってるのが、『私にもこんな時期あったな』って思い出させてくれてさ」


 姉貴の目にはそういう風に映ってるんだな。

 文字通り、見ていて微笑ましくなる後輩。

 一回り違うんだから当然か。


 というか、この女。

 俺の目にはずっとこんな感じで映ってるんだが。

 旭さんみたいな時期が本当にあったのか?


 ま、いいや。

 美味しいパスタ食べさせてもらったことだし、毒づくのはやめておいてやろう。 

 

「御馳走様、後片付けするわ」


「その前に一つ頼みがあるんだが」


 またかよ!


「いつもみたいにろくでもない頼みなら、すぐさま却下するぞ」


「私がいつろくでもない頼みをした。今回は小町にとっても悪くない話だ」


 「今回は」って言ってる時点で自覚してるじゃないか。


「じゃあ何? 聞くだけは聞いてやろう」


「私とみつきさんのギルドに入れ」


 あれ?


「珍しく真っ当な頼みだな」


「だから言ったじゃないか。『私がいつろくでもない頼みをした』と」


 お前は『珍しく』という言葉が聞こえなかったのか。

 まあいい。ツッコむとまた話がそれてキリがなくなる。

 スルーして話を進めよう。


「入るのは構わないけど……姉貴はいいの?」


「どうして、そこで問い返す」


「だって姉貴のギルドって、みつきさんと二人だけだろ。俺が入ったら邪魔じゃない?」


 二人の、正確には姉貴一人だけのラブラブワールドを邪魔する気はない。

 むしろそんな空間、全力で避けて通りたい。


「本来ならそうなんだけどさ……みつきさんが『新規ギルメンを募集したい』って言い出してるんだよ。より効率を追うなら、やっぱりギルドも力入れないとだから」


「賛同はできないが理屈はわかる」


 「効率を追うなら」という辺り、やっぱりみつきさんは廃人だ。

 俺はみんなと仲良く遊びたいからギルドに入るって考えだし。

 でももはやみつきさんと姉貴は、マッシュでもトップクラスの有名廃。

 二人でやれることには限度があるし、その発想に至るのが自然ではある。


「当然、私は嫌だから反対してたんだ。でも……みつきさんのリアルって現在かなりハードでさ。マッシュの事で負担かけたくないから折れる事にした」


「ふむ」


 これも姉貴にしては珍しく真っ当な選択だ。

 上司でもあるのだから、ある意味当然だろうけど。


「しかし、その代わり新規ギルメンは私の身内で固めさせてもらう。誰にも私達の関係を邪魔させない様にな」


 真っ当と思いきや結局これかい。


「結局、正月と同じじゃないか」


「でも小町にとっても悪い話じゃないはずだぞ。私達と一緒に行動すればゲーム内収入はかなり安定するし、レベル上げも楽になるし」


 確かにその通りだ。

 廃人が作るギルドは三つに大別される。


 廃人同士が寄り集まって効率を極限まで求めるギルド。

 廃人が取り巻きを集めて自らの利益をのみ追求するギルド。

 廃人が面倒を見てくれる一方で何らかの見返りを求めるギブアンドテイクなギルド。


 今回のケースは3番目。

 だけど姉貴にとっての見返りは他者の介入阻止。

 つまり俺にとってはメリットしかない。


 と言うより……今回の頼みについては、もともと俺の側に断る理由がない。

 姉貴さえいいのならそれでという話。

 どこまでも珍しく真っ当な頼みだった。


「わかった。じゃあメインキャラとサブキャラどっちで入ればいい?」


 MMOで一つのキャラだけで遊ぶ人は少数派。

 大抵は別途何かしらの理由で他のキャラも育てている。

 ちなみに俺の理由は、着せ替える妹がいっぱいいるに越したことないから。


「正月に遊んだフレって事で紹介するからメインキャラで頼む。美鈴の了解も既に取り付けたし、皆実もいるからこれで五人。これで予定人数は埋まった」


 うげっ、皆実もいるのか。

 俺はまだいいけど、美鈴もよく受けたな。


 そういえば……。


「都さんは?」


「さすがに今回は私から遠慮したよ。リアルでもみつきさんと知り合いなんだし、正月とは訳が違うよ」 


 姉貴にしては気がきくじゃないか。


「ま、きついよな」


「でも大丈夫。マッシュで一緒に遊べない分は、その分カラオケに誘うし」


 それ、きっと都さんはギルドに入る道を選ぶと思う。


 これで話は終わりだな。


「じゃあ食器洗うよ。姉貴のも寄越せ」


パチスロは「戦国コレクション」を想定しています。

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