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ソルジャー・ブルー  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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14/29

血の臭い

「また殺しか……オレは何なんだ……ただの人殺しなのか……」

 ガロードは低い声で呟いた。


 ガロード宅のリビングには、ガロード、ルルシー、キーク、クリスタル・ボーイ、そしてジュドーが揃っていた。

 ボーイとジュドーは、虎の会での競りを終え、その報告と仕事の打ち合わせをするべく来たのだが――


「ガキ……これが仕事なんだよ! それ以外、てめえに何ができる! 言ってみろや!」

 ガロードの呟きにすぐさま反応し、罵声を浴びせるボーイ。

 ルルシーの表情が険しくなる。

「ボーイさ――」

「まあ待てルルシー。ボーイ、今やることは仕事の打ち合わせだ。ガロード、お前は少し黙っていろ。いろいろ思うことはあるだろうが、打ち合わせが先だ」

 キークの言葉で、みんな一旦は静かになった。

 間を置いて、ボーイが説明する。


 今回の的となるのはカンジェルマンといい、三十二歳になる。クメン国の王家剣術指南役を務めていた男だ。しかし、ある日突然、山奥にある小さな村の人間を次々と斬殺し、エメラルドシティに逃げ込んで来たのだという。


「要するに頭のブチ切れたサイコ野郎ってことだ。大した奴じゃねえ。今回は楽なもん――」

「いや、そうとも言えないぜ」

 ボーイの言葉をキークが遮る。

 そして、今度はキークが語り始めた。


 クメン国の王家剣術指南役は、一子相伝の不思議な剣術を使う。

 その刀剣を用いた独特の闘い方は驚異的で、クメン国では伝説や神話の類いと同じレベルで語られているのだ。戦場において、銃を所持した兵士と剣で相対し、斬殺したこともあるらしい。

 他にも、飛んでくる銃弾を一刀両断した、古代の戦において隣国の侵略を一人の力で阻止した、暴れていた巨象を剣だけで仕留めた、など――


「んなもん嘘に決まってるだろ。仮に本当だとしてもだ、オレがコイツで仕留めてやる」

 ボーイが腰から下げた改造拳銃を軽く叩きながら、吐き捨てるような口調で言う。

「……なあキークさん。あんた、妙に詳しいな。昔クメンにいたのか?」

 それまで黙りこんでいたジュドーが、不意に口を開いた。

「いや、オレがいたのはメルキアだよ。ところでジュドー、あんたも仕事に加わるのか? だったらアイザックと――」

「すまないが、あの二人は使わない。オレが個人的に手伝うだけだ。しかし、あんたは不思議な奴だ」

 そう言って、キークを見つめるジュドー。

 その瞳には、どこか陰があった。

 キークはその視線を平然と受け流す。


「こいつは殺して構わない奴なんだな? 殺人鬼なんだな?」

 妙な空気になりかけた時、ガロードがおずおずと口を開いた。

「……知るか! これは仕事なんだよ! いざとなったら神様でも殺さなきゃならねえんだ!」

 さっそくボーイが噛みつく。

「オレは……本当にバカだったよ。殺し屋は、そんな甘いもんじゃなかった……わからなくなってきたんだよ。生きるために殺す、何でそんな生き方をしなきゃならないのか……」

 そう言うと、ガロードはキークの方を向いた。

「キーク、オレは一体、何をやってんだろうな……何のために生きて、何のために殺す――」

「なあガロード、黙ってオレの話を聞いてくれ」

 言ったのはジュドーだった。

 いつものヘラヘラした雰囲気が消え失せている。

 昔の顔に戻っている。

「ガロード……この稼業の先輩として言わせてもらうぜ。人にはそれぞれ生き方がある。それはそれでいいだろう。しかしな、お前はもう、この稼業に片足突っ込んじまってるんだ。オレたちは人間のクズだ。だがな、クズにはクズなりの生き方がある。それがこの稼業なんだ。オレたちは金をもらい、許せぬ人でなしを消す。オレたちでなきゃ、できない仕事だ。だから……いい加減に腹をくくれ、ガロード」

 ジュドーはそう言うと、ポケットから札束を取り出した。

 そして、ガロードの手に掴ませる。

「前金だ。ガロードよう……お前、どうやってこの家の頭金を払った? どうやって、今まで食ってきた? 人を殺して得た金で、だろうが。お前の手はな、相手の流した血で真っ赤に染まっているんだ。そしてお前の骨の髄まで、この金の匂いが染み込んでいるんだよ。今さら、良心の呵責も――」

 言い終えることはできなかった。

 ガロードは突然、言葉の途中で立ち上がる。

 金を床に叩きつけ、そしてジュドーの顔面を殴りつけた。

 ジュドーはそれをまともに喰らい、後ろにひっくり返る。

「!! ガキ! 何しやがる! ブッ殺すぞ!」

 それを見たボーイはすぐさま反応し、改造拳銃を抜こうとする。

 が、キークに腕を捕まれた。

 一方、

「ガロード! 止めるのです!」

 ルルシーは小さな体で、ガロードの前に立ちふさがり、仁王立ちになる。

「ガロード! 殴る相手が違うのです! ジュドーさん、今日はお帰りになった方がいいのです!」

 ルルシーの言葉を聞いたジュドーは、ゆったりとした動きで立ち上がる。

「いいかガロード、お前がいくら善人ヅラして悩んだところで、オレから見たらお笑い草なんだよ。じゃあな」

 ニヤリと笑い、背を向けるジュドー。

「なんだと!」

 またしても、ジュドーに殴りかかろうとするガロード。

 しかし――

「ガロード! いい加減にしないと怒るのです!」

 ルルシーの一喝。

 ガロードは不満そうな顔をしながらも、動きを止めた。

 そして座り込む。

「いったい何なんだよ、あの野郎は! 友だちだと思ってた――」

「友だちだから言ったんだよ、ガロ」

 そう言うと、キークが椅子を持ち出し、ガロードの正面に座る。

 静かな口調で、語り始めた。




 Z地区にある、古い研究所跡。

 かつて、そこでは様々な研究が行われていた。

 強化人間を作り出すのも、その一つだった。あちこちから集めてきた、親のない子供や、親から売られた子供。そんな子供たちを、まずは薬漬けにした。

 筋肉増強剤や免疫力強化剤、さらにはナノマシンまで……。

 ほとんどの子供は、薬に耐えられず、次々と死んでいった。

 そして生き残った子供たちには、さらに過酷な運命が待っていたのだ。

 体内に埋め込まれる武器……暗殺のために用いる、特殊合金製の刃物など。

 そして戦闘訓練。

 子供たちは、凄まじい殺傷能力を身につけた。


 だが、ちょっとしたことで殺し合う、キチガイ集団にもなっていたのだ。

 少年たちは――少年と言った方がいい年齢になっていた――仲間同士であろうと、お構いなしに傷つけ合い、そして殺し合った。

 研究者たちは、どうにか少年たちをコントロールしようと様々な手段を用いたが、全て失敗に終わる。

 そして遂に、上層部は決断を降す。

 リセットボタンを押すことを。そして、最初からやり直すことを。


 少年の死体の山。

 毒ガスで全員死んだ……はずだった。

 だが、死体を数えてみると二体足りない。

 徹底的な捜索が行われたが、発見されなかった。




「その発見されなかった二体……いや二人のうちの一人が……実はジュドーなんだよ」

 キークは言葉を止め、ガロードの反応を見る。

 ガロードは――

 何も言えず、ただただ呆然としていた。

「ジュドーはな、お前と同じ強化人間なんだよ。それどころか、ある意味お前の命の恩人でもある。ジュドーたちの失敗のデータがあったから、副作用のほとんどない薬を作れたんだ」

「オ、オレ……行ってくる! 行って――」

 ガロードは立ち上がろうとしたが、キークに止められた。

「ガロ、まあ待て。話はまだ終わってない」

 キークは話を続けた。


 研究所を脱走し、エメラルドシティをさまよっていたジュドーを拾ったのが、テツという殺し屋だった。テツは虎の会でも一目置かれる男であり、ジュドーに様々なことを教えこんだ。そしてジュドーは独立し、一匹狼の殺し屋となって活動していくようになっていった。

 傍らには、研究所のもう一人の生き残りであるマリアがいたが、絶対に殺しはさせなかった。殺しに関わることもさせなかった。


「ジュドーはいつもヘラヘラ笑ってるが、奴は奴なりに色々あるんだよ。それに……この稼業に妙なこだわりがあるんだよな、奴は。オレたちには――」

「キークさん、あなた随分と詳しいですね」

 それまで黙って聞いていたルルシーが、不信感を露にする。

「……ま、こんな商売してると、な」

 キークはそう言って、自らの制服を指差す。

「では、そういうことにしておくのです」

 ルルシーは渋い顔をしながらも、一応は納得の素振りを見せる。

「ガロ……奴は奴なりに、お前のことを気にはかけている。そこは忘れるな……あと、奴はオレなんかより、ずっと頼りになる男だ。いざとなったら、二人で奴を頼れ」




 一方、『ジュドー&マリア』の事務所では――

「あんの野郎! ふざけた真似しやがって! あのガキの頭フッ飛ばしてやりたかったぜ!」

 すでに一時間以上経ったのに、未だ怒りの収まらぬボーイがわめきちらす。

 まるでボクサーのシャドーボクシングのように身ぶり手振りを加えつつ、ガロードをいかにひどい目に遭わせるかを罵詈雑言を交えながらジュドーに説明していた。

 ジュドーは、殴られた頬をさすっている。

「あいつ、いいパンチしてたな。アイザックより強いかも」

「ああ?!」

 ボーイの動きが止まる。ついでに、悪口も一瞬ではあるが、止まる。

「ジュドー! お前なに言ってんだ! いいか、今度あんな真似しやがったら、オレが――」

「いいよ、オレも言い過ぎ……いや、言い過ぎではないが、言い方ってもんが……そういや、昔カルメンにも同じこと言ったんだよな、オレ」

 ジュドーは頬をさすりながら、昔を懐かしむかのような口振りで言った。

 だが、そのカルメンがいきなり入って来た。

 そして困った顔で、口を開く。

「ジュドー……あのね、表のアレ……何とかならないかな?」


 ジュドーとボーイが表に出ると――

 ドアの前で、ガロードがひざまずいていた。

 その横で、ルルシーが口を手で覆い、肩を震わせている。

 どうやら、笑いをこらえているようだ。

 さらにアイザックが、ドアの前で困った顔をしている。

「なあ、あんた。そこにそうしていられると――」

「だったら早く、ジュドーを呼んできてくれ!」

 アイザックに怒鳴りつけるガロード。

「お、おいガロード……お前、何をやってんだ?」

 ジュドーが表に出てきたとたん――

「ジュドー! さっきはすまなかった! お詫びに、好きなだけオレを殴ってくれ! あんたが殴ってくれるまで、オレはここを動かない!」

 わめきながら、土下座するガロード。

 こらえきれなくなり、笑い出すルルシー。

 初めは面食らった顔をしていたジュドーも、ガロードの真剣な表情を前にこらえきれなくなり――

 笑いながら、ガロードの頭を小突き始める。

 無法地帯であるはずのエメラルドシティの夜空に、明るい笑い声が響き渡っていた。




 一方、キークは――

 ガロードたちの家を出た後、人通りのほとんどない廃墟跡を歩いていた。

 そして、一軒の廃ビルに入っていく。

 崩れかけた階段を慎重に昇り、時間をかけて一番上の階にたどり着く。

 そして、奥の扉を開けると――

 中には一人の男と、大きめのカンテラが一つ。

 男は中肉中背だが、肩まで伸びた長髪と、妙に落ち着いた雰囲気が特徴的だった。

 キークは口を開く。

「なあドラゴ、ここで待ち合わせすんのは勘弁してくれよ」

 キークがそう言うと、男は大げさに首を振る。

「そう言うなよ。まだ大っぴらに会うわけにもいかないだろう」

 ドラゴと呼ばれた男は真面目くさった顔でタバコをくわえ、火をつけた。

 煙を吐き出す。

 そして言った。

「なあキーク……ゴメスとタイガー、どっちが先に潰れるんだ?」

「オレに聞くなよ」






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