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ソルジャー・ブルー  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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11/29

いつもあなたは……

「キーク……今どうなっている?」

「今のところは順調だ。何の問題もない」

「本当か?」

「ああ。ドラゴは今、オトワ屋を仲間に引き入れようと動いてる。タイガーとゴメスに関しても、計画通りだ。多少アドリブは入れたがな」

「わかった。ところで、アリティーと吸血鬼はいつ始末する?」

「それは先の話だ。奴らにはまだまだ働いてもらわないと」

「……わかった」




「ったく、素晴らしい仕事だよ、組織の犬ってのは……素晴らし過ぎて泣けてくるぜ」




 ガロードは昼過ぎに目覚めた。

 ベッドで上体を起こし、頭をさする。

 ものすごく嫌な気分だ。今まで酒を飲んだことはないが、二日酔いの時はこんな気分なのだろう。

 昨日の男……

 あいつは……仲間を殺され、怒りと哀しみと絶望に満ちた表情で、オレに向かってきた。

 オレのやったことは、あの化け物どもと同じじゃないか……

 もう嫌だ。


 その時、部屋の扉が開いた。

「ねぼすけガロード、やっと起きたのです。仕方のない子なのです」

 ルルシーはガロードに近づき、頭を撫でる。

 普段のガロードなら「子供扱いするな」と言って、手をはねのけただろう。

 だが――

 ガロードは、されるがままだった。

 ルルシーは、その異変に気づかぬふりをした。

「ねぼすけさん、そろそろ起きるのです。でないと、私は怒るの――」

 言い終わる前に――

 ガロードに抱き締められた。

「オレは……もう……いやだ……」

「窓を閉め切ってるからわからないでしょうが、まだ昼の一時なのです。変なことをする時間ではないのです。変なことをしたら、噛みつくのです」

「お前になら、殺されてもいいよ……」




「キャラダイン! 急いで私のデスクまで……駆け足だ!」

 トランク署長は、今日も元気にキークを怒鳴る。

 そしてキークは、牛歩戦術を使う。

「貴様……」

 トランク署長は体をプルプルさせながら、それでもキークを待ち続ける。

 のんびり現れたキーク。トランク署長はこめかみをヒクつかせながら、一枚の写真付きの書類を突き出した。

「これを見ろ!」

 銀色の髪を短く刈り込んだ色白の、目つきの鋭い何者かが写っていた。

「なんか、いけすかないイケメンて感じですね」

「女だ! 彼女はティータニア・モンテウエルズ。鬼より怖い監査官だ。来週から、ここに来ることになった」

「ほう……いいじゃないですか」

 キークはのほほんとした表情で、なげやりに言葉を返す。

 トランク署長の顔が赤くなる。

 怒りの赤だ。

「貴様には、事の重大性が全くわかっとらんようだな……監査官がなぜここに来るか、それは――」

「失礼。時間なんでパトロール行ってきます」

「この野郎……」

 説教タイムの幕開けである。




 その頃。

 クリスタル・ボーイは、後金を受けとるため、タイガーと会うことになっていた。

 またしても、あの殺風景な部屋で、息がつまるようなやりとりをしなくてはならないのだ。


 ため息をつき、扉をノックする。

「入れ」

 男の声がする。

 死神の声だ。

 死神……本名は不明。ジュドーの話だと吸血鬼らしい。タイガーの行く所には影のごとく付いて歩くらしい。ということは、寝室にも付いて行くのか、そして夜のお相手もしてるのか……などと、ボーイは考えてみたりした。

 だが部屋に入った瞬間、そんなバカな考えは消え失せる。

 重苦しい空気。

「ご苦労だった、ボーイ。まさか、ここまで早く片付けるとは……大したものだな」

 タイガーの表情は、いつもと同じく冷ややかだったが、口調はいつもと違っていた。その声からは、本気で感心しているような雰囲気が感じられた。

「あ……いや、恐れ入ります……」

 ボーイはペコペコ頭を下げた。

 下げながら、心の中で呟いた。

 さっさと帰らしてくんねえかな、と。

「これからも、この調子で頼むぞ」

 タイガーはそう言うと、いつものようにカバンから封筒を取り出し、ボーイに手渡す。

「あ、ありがとうございます。こちらこそ……」

 ボーイはふと、ジュドーのことを思った。


 確かあいつ……。

 この状況で、タイガーの乳さわろうとして、ひっぱたかれたんだって聞いたが……。

 こんな状況で、よくできるな。

 ジュドー……。

 お前、やっぱ凄いわ。


 実際、ボーイはここに来ると、潜水しているかのような息苦しさを感じる。

 それも毎回。




 その頃、バー『ボディプレス』では――

「アンタ……何で開店前に来るのよ! どうせ来るなら営業時間中に来てよ! この寄生虫が!」

「そう言うなよ、姐さん。オレはここが好きなんだ、仕方ないだろ。夜は忙しいしな」

 キークはカウンター席に座り、肩をすくめる。

 アンドレは立ったまま、キークを見下ろしている。その巨大な顔には不愉快そうな、それでいてどこか嬉しそうな、何とも複雑な表情が浮かんでいる。

「ところで姐さん、ジョニーって奴が殺されたんだが……大丈夫か?」

「大丈夫かって、何がよ……」

 怪訝な表情をするアンドレ。

 キークは、しまった! とでも言いたげな素振りで口を押さえる。

 その態度に、アンドレはすぐさま反応した。

「……何よアンタ、隠してることがあるなら言いなさい!」

 そう言いながら、巨大な顔を近づける。

「ね、姐さん怖いよ」

「何隠してんの?! 言いなさい!」

 さらに顔を近づけるアンドレ。

「だ、駄目だよ姐さん……さすがにこれは……言えないよ」

「この野郎……」

 アンドレはキークの襟首を両手で掴み――

 そのまま持ち上げる。

 さらに、キークの頭を天井に打ち付けた。

「いて! マジいてえよ姐さん! わかった! 言うよ!」

 次の瞬間、キークは椅子に下ろされた。

「さあ坊や……正直に吐いちまいな」

 アンドレのドスの効いた声が響き渡る。

「わ、わかったよう……この前、トレホに絡まれてさあ……」

「トレホ? あの髭面がどうしたの?」

「よくわからないんだが、何かえらい剣幕で、マークを殺した奴は誰だ! なんて言ってきて……あれは昔気質のギャングの仕業だ! とも言ってたし……トチ狂った真似しでかしそうな雰囲気でさ……」

「マーク? ゴメスん所の? 確か地下道で殺されたのよね」

 そう言った後、アンドレは黙りこんだ。

 何やら、思案げな表情になる。

 しばらくした後、口を開いた。

「じゃあ……アンタは、ジョニーを殺ったのはトレホだって言いたいワケ?」

「そうじゃないよ! ただな……ゴメスの手下って、基本的に血の気が多い上にアホな奴ばかりだろ。だからさ、自分んとこの者がやられて……ピリピリきてる時に……わかるだろ?」

「アンタの言わんとすることはわかる……でもねえ……」

 アンドレは視線を逸らした。

「正直、アタシにはまだ判断できないわ……データが少なすぎる」




 そして夕方、ガロード宅では……。

「あなた、なぜここに来たのです?!」

「うるせえな! オレだって来たくて来たワケじゃねえ! キークの野郎に言われたんだ!」

「まったく、あのキークという男は……」

 睨み合うボーイとルルシー。

 一方、

「ガロード、遊ぼうぜ」

「遊ぼうぜ」

 愚兄弟に迫られ、困惑するガロード。

「あ、あの……遊ぶって何をする――」

「遊んでくれるのか?」

「くれるのか?」

 愚兄弟は、キラキラ輝く瞳でガロードに寄り添ってきた。

「あ、ああ……」

「うおおお! 外でレスリングやろうぜ!」

「やろうぜ!」

 愚兄弟はガロードの両腕を引っ張る。

 睨み合っていたルルシーとボーイも、その光景を前にすると、険悪な空気が消え失せた。

「良かったな兄弟、ガロードのお兄さんに遊んでもらえて」

 ボーイがニヤニヤしながら言う。

 お兄さんと言うが、見た目はガロードの方が愚兄弟より年下である。

 しかし、

「ボス、ガロードはいい奴です。遊んできます」

「遊んできます」

 真面目な顔でそう言うと、愚兄弟はガロードの腕を引っ張って行った――

 が、ルルシーに止められる。

「あなたたちの巨体で暴れられたら、近所迷惑なのです!」

 ルルシーはそう言って、愚兄弟を睨みつける。

「……ごめん」

「……ごめん」

 自分たちよりも、はるかに小さなルルシーに叱られた愚兄弟は、一瞬にしてテンションが下がる。

 その時、ドアをノックする音。

 そして声。

「おーい、オレだ。開けてくれ」

 キークの声だった。

 ガロードが鍵を開けると、キークは我が家に帰ってきたかのような顔でリビングに行き、ソファーに座った。

 そして一言。

「ふう、やっぱりここが一番落ち着くな」

 その言葉に、ルルシーが反応する。

「ここはあなたの家ではないのです! ましてや、あなたたちの溜まり場でもないのです!」

「まあまあ、そう言うなよルルシー。オレは本当にここが好きなんだよ」

「ここは私とガロードの家なのです! くつろがれては困るのです!」

「そんなこと言うなよ、ルルシー……あ、そうだガロ、お前に一つ土産があるんだよ」

「土産?」

「ああ、そうだ。フォックスの前に……」

 キークはそう言って、ガロードに顔を近づける。

「スネークを殺る、ってのはどうだ? 奴の居場所がわかったんだよ」





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