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夏の再会  作者: 夜の桜
2/4

初夏

「で?……ここはどこだ?」


田畑に囲まれた、民家がいくつか点在している、畦道の真ん中に俺とユウキは立っていた。


「あれ〜?おかしいな…」




結局、いく場所が決まらなかったため、俺たちは車で旅に出ていた。


「どうせなら、十日間位、行く宛も決めないで、風の赴くままに旅をしようぜ!車は俺が出す!」


「あぁ…良いんじゃねぇの?」




ユウキの提案に適当に返事したのが間違いだった……


「なんで、ナビか地図くらいは用意してなかったんだ…」


「ナビなんて付ける金無いし、地図を見たら、行く場所を決めちまうじゃねぇか!」


俺はため息をつくしかなかった……


二日目でこんな田舎で立ち往生するとは…


せめて、地図くらいは持ってくれば良かったと、今更ながら後悔している……


「とりあえず、誰かに道を聞こう…」


俺は周りを見回すが、


「誰もいないな……」


ユウキが乾いた笑いを浮かべる。


こんな暑い中、立ち往生なんて勘弁してほしい……


俺が再びため息をついたとき、ふと、視界の端に人影が見えた。


「…!ちょっと、ここで待ってろ!」


俺はユウキの返事を聞く間もなく、走り出していた。




俺は汗をかき、息を切らせながら、先程見えた人影に向け、走っていた。


なぜか分からないが、人影が見えたとき、俺は走り出していた。


今、『彼女』に会わなければ後悔すると思った。


はっきり見えなかったにも関わらず、俺は『彼女』と断言できた。




「ちょ…ちょっと…そこの君……」


息が上がり切って、途切れ途切れに姿が見えた女子に声をかける。


まだ、30メートル程離れていたが、その女子は振り返り、俺に気づいたようで、ゆっくりとこちらに歩いてきた。


「どうしたんですか?」


女子の姿がはっきりと見える目の前まで歩いてきて、女子が俺を下から覗きこんだ。


水色のワンピースに白いカーディガンを羽織い、セミロングの黒髪の女子は、優しそうな笑顔を俺に向けていた。


「かわいい……」


思わず、俺は思ったことを口にしていた。


その言葉を聞いた女子は、顔を赤くして、立ち上がった。


ゴツン


お互いの頭がぶつかる音がして、俺と女子が頭を抱えて、その場に屈む。


「…〜ごめん…変なこと言っちまって……」


俺はばつが悪くなったので、とりあえず謝ることにする。


「いえ、かわいいと言われて、気を悪くする女性はいませんよ…ただ、ちょっ とビックリしてしまって…ごめんなさい」


女子は笑顔で謝った。


俺がその笑顔に見とれていると、


「それで、どうしたんですか?」


再び、同じ質問を女子がした。


「あ……ちょっと道に迷ったから、ここがどこか聞きたいんだけど……」


俺は本来の目的を思い出し、答える。


女子は唇に人指し指を当てて、首をかしげながら、教えてくれた。


「ここは○○県の××村ですね」


と聞いたところで、地理に疎い俺はいまいち場所が分からなかった。


「ここから、大通りに出るには車でも六時間ほど掛かりますよ」


俺が分かってない顔をしていたためか、分かりやすく教えてくれた。




「それで、この子の厚意に甘えたのか…?」




俺がとりあえず、ユウキにも意見を聞かないと、と言うことで、女子こと、白浜 美空…しらはま みそらさんを連れて、ユウキのところに戻ってきた。


「今からですと、大通りに出て、旅館につく頃には夜中になってしまいますし、本日はわたしの家に泊まってはいかがでしょう?」


ミソラの提案に、俺が勝手に決めるわけもいかず、戻ってきたわけだ。




「オレは構わないぜ!こんな美少女の家なら大歓迎だ!」


ユウキが本心を隠すことなく、はっきりと言った。


ミソラが俺の裾を掴んで、背中に隠れる。


うん…こうはっきり言われたら、女子は引くよな……


悪いやつじゃないけど、こういうところが彼女ができない要因だろう……


「とりあえず、俺もミソラの家に世話になることには賛成だけど……ミソラは大丈夫なのか?」


くっついているミソラに振り向きながら、俺が聞くとミソラは小さく頷き、


「お母さんも、久し振りのお客さんで喜ぶと思います…シン君が泊まってくれると、わたしも嬉しいですし……」


最後の方は顔を赤くして、俯いて小さい声で言った。


「なぁ…お前らって、知り合いってか、恋人同士?」


俺とミソラのやり取りを不思議に思ったのか、ユウキが訊ねる。


まぁ、初対面で下の名前で呼んでたり、ミソラの行動を見れば、当然の疑問だよな……


「初対面だとは思うんだが、なんか初めて会った気はしないんだよな……」


「わたしも人と話すのは苦手なんですが、シン君は大丈夫みたいです…」


俺とミソラが首をかしげる。


「それって、二人ともすごい昔に出会ってるじゃねぇの?」


ユウキの言葉に俺とミソラはお互いの顔を見た。




「ミソラと俺が会ったことがある……か……」


俺は見知らぬ天井を眺めながら、一人呟く。




あの後、俺とユウキはミソラの家にお世話になることになった。


ミソラが言った通り、ミソラの母は俺たちを快く受け入れてくれた。


その時のミソラ母の言葉が少し気になった。



「…これも運命なのかね……」



運命か……


俺とミソラは過去にあっていて、何かがあってお互い忘れているだけなのか……


それとも、ただその言葉を口にしただけなのか……


そんなことを考えながら、俺は隣で寝ているユウキを起こさないように部屋を出た。


外は都会では見られない星空が広がっていた。


「綺麗だな……」


「あれ?…シン君…」


縁側に座り、星を眺めているとミソラが俺に声をかけた。


「よぉ…こんな時間に起きてると美容によくねぇぞ…」


「はは……ちょっと、眠れなかったので、夜風にあたりに来たんです!」


ミソラは笑いながら、俺の横にちょこんと座る。


「シン君は、どうしてここに?」


「俺もなんか寝れなくてな…星でも見ようと思ったんだ…」


俺が数多に煌めく星空を眺めて答える。


ミソラも空を眺める。


「わたしもね、星を見ると落ち着くんだ…」


「……ミソラはずっとこの村に住んでるのか?」


星を眺めながら、俺は気になっていたことを聞いた。


「そうですね…たぶん、ずっとこの村にいます…」


「たぶん?」


「わたしは小さかった時の記憶があまりないんです…」


少し寂しそうな声…


「そうか……俺と同じだな……」


「…シン君も…なの?」


「……何があったか分からないけど、俺は十年以上前の記憶がない…」


「……わたしと同じですね…」


再び、二人は沈黙する。


「…なんで、ミソラは敬語なんだ?」


気まずくなり、俺は話題を変えるために聞いた。


「癖…みたいなものです…」


「でも、俺と話すときはたまに普通に話すよな?」


「何ででしょうか?シン君は安心するんです…だから、かな?」


「不思議だな…」


「そうだね…」


そのまま二人は星を眺めていた。




チュンチュン…


「ん……?」


雀の鳴き声と夏の朝日により、俺は目を覚ました。


「…そうか……あのまま、ここで寝ちまったのか…」


一人呟いて、体を起こそうとすると、胸に重さを感じ、視線を下に向ける。


そこには、寝息を立てて、無防備な寝顔のミソラがいた。


「……これは……誰かに見られたら、ヤバイ状況だな……」


いい年の男女が二人でこんな状況を見られたら、誰だって勘違いするだろう……


「おい!ミソラ!」


俺が空いてる方の手で、ミソラを揺らしながら声をかける。


「…ふに……シン君だ〜…あと、五分……」


起きたと思ったら、再び、夢の世界に旅立とうとするミソラ…


「ダメだ!起きろ!」


「……キスしてくれたら、起きるよ〜……」


「っ…!」


一応、俺も男だから、そんなこと言われたら、ほんとにしちまうぞ……


俺は深呼吸して、なんとか理性を保つ。


そして、起こし続けること十分ぐらい経って、ようやく、ミソラが起きた。




「ごめんなさい…」


ミソラが俺に頭を下げる。


「いや、俺も悪いし、お互い様だ…」


朝食前に顔を洗って、今に行く途中にミソラとはちあい、お互い最初は戸惑った。


隣でユウキが訝しげに俺たちを見て いる。


「でも、わたしがあそこで寝なければ、シン君に迷惑かけなかったですし…」


「ストップ!この話はこれでおしまい!……あと、敬語禁止な!お互いタメだし、もっと気楽に行こうぜ!」


「ふぇ…シン君がそう言うならいいで…いいけど……」


「なぁ…お前らって、昨日の夜なんかあったん?起きたら、シンはいなかったし…」


俺たちのやり取りを見ていた、ユウキが我慢しきれなくなって、聞いてきた。


「別に…ただ、星を見てただけだよ…」


俺は適当に答え、


「んなことより、早く飯食いに行こうぜ!」


話を無理矢理終わらせた。




「たまには、こういう朝食もいいな!」


ユウキが遠慮することなく、二杯目のご飯をおかわりする。


少しは遠慮しろよ!


俺は心の中でツッコミつつ、


「それより、これからどうする?」


今後の予定をユウキに聞く。


「ふぉんなのひぃまってふぁい」


「飲み込んでから喋れ!」


「んぐ…ごくん……そんなの決まってない!」


「だろうな…」


俺はため息を漏らす。


「…シン君たちは何か予定があるの?」


ミソラが少し沈んだ声で聞く。


「いや、これといった予定はない…特に目的もなく旅してる感じだ」


「目的は彼女を作ることだ!…てことで、ミソラちゃん!付き合ってください!」


ガンッ


とりあえず、ユウキの頭を殴っておく。


「いってぇ!何をする!?」


「お前が変なこと言うからだ!」


「オレはマジだ!」


「なおのこと、ダメだ!」


「ミソラはシン君がいいんだものね!」


俺とユウキのやり取りを見ていた、ミソラ母が微笑みながらとんでもない爆弾を落とした。


「ちょ…ちょっと!お母さん!何言ってるんです!」


ミソラが顔を真っ赤にして、ミソラ母に抗議する。


「く…またなのか……なぜ、シンなんだ……」


ユウキが打ちひしがれて、頭を垂れ る。


ミソラはまだ、何か言おうとするミソラ母を必死に止めている。


「平和だな……」


俺は一人呟くのだった。


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