優しいだけの天使
はい、予定を大幅に変更しまして次話更新でございます。
「茜」ヘタレヒーロー登場です。
お楽しみ下さい。
「茜くん、茜くん、起きて」
茜は控えめに肩を叩く母、柚希の声で目を覚ました。
「おはよう、茜くん」
「おはようございます、お母さん」
清潔に洗われた毛布をたたみながら起き上がる。
母は白色が好きで、ベットカバーから勉強机、壁紙、絨毯に至るまで、殆ど全ての家具が微妙にトーンが異なる白色で統一されている。
茜も白色は好きだが、何故かこの部屋に息苦しさを感じてしまうのは、茜が第17代のエデン王国国王になる人間だからだろうか。
不思議なものだ。
ただ父さんと母さんの間に生まれただけだというのに、将来は生まれた時から決まっているから。
――この時までは、そう思っていた。
寝巻を脱いで茜が通っている名門高校の制服に着替え、食事を取り、執事に学校まで送られる。
毎日の朝の出来事が、今日で終わりになることに、茜はまだ気づいていなかった。
「茜さま、私は車を持って参りますので、少々お待ち下さいね」
「うん」
茜は置いてあった椅子に腰掛けた。
「…… …………」
茜が座っている椅子の隣にあるドアの中から、話し声が聞こえる。
「何だろう」
茜は不審に思ってドアに耳を近づけた。
「……そこなら……うってつけ……」
「これで私は……」
一人は父であるエデン王国国王、笹玉の声。
もう一人は誰だか、見当がつかない。
何だろう、政治の事なら、もっと沢山の人数を集めて話すのに。
茜は首を捻った。
「お待たせしました、茜さま」
「今行くよ」
執事の声に振り返り、庭に止めてあった車に乗り込む。
父さんは何を話していたんだろう。
大丈夫だ。
自分に言い聞かせる。
父さんのことだ、ぼくが気に病む必要はない。その日の午後、学校からの帰り道。
茜は普段、執事に迎えにきて貰っていた。
今日は遅い。
茜は一人校門の前で執事を待っていた。
茜は別に成績が並外れて良い訳ではなく、容姿にも性格も取り立てて目立ったところはない。
それなのに、「エデン王国王太子」というレッテルのために、生徒には敬遠されていた。
廊下ですれ違う全ての生徒からは恭しい挨拶をされる。隠れて自分に賄賂を渡し、「御父様に宜しくお伝え下さい」と言う大臣の息子。
自分ではどうすることもできないのに、ただ茜は毎日に疲れていた。
心のどこかで、全て無くなってしまえば良いとさえ、思っていたのだ。
「茜さま、お待たせ致しました」
「だ……誰ですか?」
現れたのは中年の男性。
「執事代理の馬羅でございます。お迎えにあがりました」
そう言って恭しく礼をする馬羅の車の後部座席に、茜は乗り込んだ。
「怪しい者ではありませんよ、」
と、馬羅はアクセルをふかしながら言った。
「王太子さまを誘拐しようなんて酔狂な真似は致しません」
「う……うん……」
馬羅の目の奥、猜疑的な光が宿っていた。
「茜さま、もうすぐですよ」
「え?」
馬羅が車を止める。茜は窓の外を眺めた。まだ家……王宮には着かないはずだ。
「……地獄の入り口はね」
馬羅は運転席から身を乗り出して、茜の口にハンカチを押し当てた。
「ーーっ!!」
茜はしばらくもがいていたが、すぐに動かなくなった。
「はは……悪かったな、王子様あ……」
馬羅は口調をがらりと変えて呟いた。
そして力なく倒れ込んでいる茜の耳朶を摘む。
「この耳がある限り、棄てなきゃならない」
読んで下さってありがとうございます。
宜しければ感想書いてやって下さい。
次話更新は5月までにする予定です。




