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CHAPTER18『深海監獄の闇と消えた囚人』

理想は刃となり、

秩序は壁となる。

そして――その狭間で、構造を見抜く者が静かに笑っていた。


深海監獄アビスロックの静寂は、

次の瞬間、再び破られる。





レヴィアスの細い瞳が、ゆっくりとレクスへ向けられた。


わずかな沈黙。


やがて、低い声が落ちる。

「……フン。貴様が何者かは知らんが、囚人が看守に秩序の講釈とはな。だが――結論は変わらん」


細い瞳が鋭く光る。

「秩序が無ければ、この監獄は一瞬で戦場と化す」


通路に冷たい声が響いた。

「だから看守(われわれ)がいる。この監獄の均衡は、そうして保たれている」



レクスが肩をすくめ、くくっと笑う。

提灯の光が、ゆらりと揺れた。

「なるほどな」


「つまりあんたらは――“地獄を管理してる”ってわけだ」


わずかに首を傾ける。

「弱ぇ奴が踏み潰されるのは仕方ねぇ。ただし均衡だけは保つ」


鼻で笑う。

「それが秩序か」



レヴィアスの瞳が細くなる。

「……そうだ」


一歩、踏み出す。

「それでも秩序を壊すと言うのなら――」


ジルたちを見据える。

「貴様らは、この監獄を戦場にする覚悟があるのだな」



ジルが前へ出た。

「……ある。覚悟はできている」


通路が静まり返る。


拳を握り、レヴィアスを真っ直ぐ見据える。

「俺たちは、この監獄の論理に従うつもりはない」


低い声が落ちた。



バレルが鋏を鳴らし、低く吐き捨てる。

「ケッ……もともと、ここは地獄みてぇな場所だ。 今さら戦場になったところで、何が変わる」



その横で、ヴォルグの視線が静かに通路を走る。

看守の配置、瓦礫の位置、抜け道の距離。

(……三十歩)

わずかに息を吐く。


(だが、あのレヴィアスがいる限り――隙はない……)


ヴォルグの視線が静かに細められる。




通路に、短い沈黙が落ちた。



レヴィアスはしばらくジルを見つめていた。


やがて、小さく息を吐く。

「……いいだろう」


細い瞳がジルたちを見据える。

「弱者共の連携も――悪くはなかった」



レヴィアスは静かに背を向けた。

(今ここで潰すには――少し惜しい)



看守たちがわずかに動く。



レヴィアスは振り返らない。

「だがここは看守しか入れぬ封鎖区域だ」


冷たい声が落ちる。

「我々の仕事の邪魔をするな」


顎で通路の奥を指す。

「消えろ」



そして最後に一言。

「ここで生き残れるのなら――その理想とやらを、この監獄で証明してみせろ」



わずかに目を細める。

「この監獄はな……理想が死ぬ場所だ」



ジルは覚悟の宿った目で、レヴィアスを睨み返していた。



短い沈黙。



その横で、バレルが低く唸る。

「……チッ。どういう風の吹き回しだ」


鋏を鳴らす。

「俺たちを見逃すってのか?」



レヴィアスはわずかに目を細めた。

そして静かに言う。

「……見逃す? 違うな」


背を向け、ゆっくりと通路の奥へと歩き出す。

「貴様らの結末がどうなるのか――見届けてやろう」



その刹那――


レヴィアスがふと足を止めた。


わずかに首だけを傾ける。

細い瞳が、バレルを射抜いた。

「……バレル」


低い声が落ちる。

「その連中に賭けるつもりなら――最期まで付き合うがよい」


細い瞳がわずかに細められる。

「中途半端な覚悟で選んだ道なら――いずれ自分を呪うことになる」



バレルが低く吐き捨てる。

「ケッ……当たり前だ」


鋏を鳴らす。

「自分で選んだ道だ、後悔なんざしてたまるか」



わずかな沈黙。


レヴィアスの口元が――ほんのわずかに動いた。

だがそれが笑みだったのかどうか、誰にも分からない。



レヴィアスはそれ以上は何も言わず、そのまま通路の奥へ進んでいく。



看守たちも松明を掲げながら黙って後に続き、足音が徐々に遠ざかっていった。



ジルは、ゆっくりと息を吐く。

(……あれが看守長レヴィアス……)


胸の奥に、重い何かが沈む。



やがて、静寂が戻る。


誰も動かない。



その沈黙を破ったのは――

レクスだった。

「……クク」


肩をすくめる。

「どうやら看守長さんは、俺たちの続きが見たいらしい」


わずかに口角を歪める。

「この地獄で、どこまで生き残れるか――ってな」


提灯の光が、ゆらゆらと通路の壁を照らしていた。



その揺れる光の中で、ジルは静かに拳を握る。




やがて――


四人は互いに目を交わし、言葉を交わすことなく踵を返す。


錆びた鉄格子と湿った石壁が続く長い通路の奥へ、足音が静かに吸い込まれていく。


第二階層 封鎖地帯の闇を抜け、彼らは一度、蒼海の解放軍のアジトへと戻ることにした。


この監獄で生き残るための、次の一手を考えるために。






第二階層 蒼海の解放軍アジト――



古びた木の壁と梁に囲まれた旧補給庫の中で、提灯の淡い光がゆらゆらと揺れている。


四人は奥へ入り、ようやく足を止めた。



しばらくの沈黙のあと、バレルが大きく息を吐く。

「……ふぅ」


鋏をだらりと下げる。

「結局、収穫ゼロかよ……」


力の抜けた声が木の壁にぼんやりと響いた。



その横で、ヴォルグが静かに首を振る。

「……いや、看守長レヴィアスと正面からやり合えた」


ゆっくりと言葉を選ぶ。

「それで分かった。

俺たちが――どこまで戦えるのか」




バレルが顔をしかめる。

「クソッ……。レヴィアスの野郎……体のあちこちが痛え……!」


鋏を鳴らし、忌々しそうに吐き捨てた。



その横で、ジルが拳を握る。

「……四人がかりで、ようやく一発返せた」


低い声が落ちる。

「それでも、あいつは余裕だった」



ジルの視線が床に落ちる。

「看守長――か」


静かな声がこぼれた。



その時、レクスがくくっと笑う。

「いや、俺は戦力に入れなくていい」


三人の視線が向く。


レクスは提灯を揺らしながら言った。

「俺はただ――見てただけだ。 この監獄が、どういう場所かをな」


レクスは天井の梁を見上げ、わずかに笑う。

「面白い場所だぜ。ここは――生き残る奴と、消える奴がはっきり分かれる」


静かな声が落ちた。



バレルが笑う。

「ハハッ……確かに。妙な場所だな、この監獄は」


鋏を鳴らす。

「強ぇ奴があっさり死ぬかと思えば――」


レクスを指す。

「戦えもしねぇおめえが、まだ生きてやがる」



レクスの眉がぴくりと跳ねた。

「うるせぇ! だから面白ぇんだろうが!」


――そして、ふと顔をしかめる。

「……って、おい」


レクスの視線がバレルに向く。

「そういえばお前、元看守って――どういうことだよ……!」



バレルが頭をかく。

「お、おお……やっぱりバレちまったな」


少しばつが悪そうに笑う。

「俺の黒歴史ってやつだな」



レクスの眉が跳ね上がる。

「黒歴史だと!? 看守から囚人にジョブチェンジって……とんでもねぇ経歴じゃねぇか、おい! それに普通は、囚人になる方が黒歴史だぞ!」



その横で、ジルが静かに口を開いた。

「……何があったんだ」


視線はまっすぐバレルに向いている。




バレルはしばらく何も言わなかった。



やがて――

「……昔の話だ。 まだ俺が看守だった頃――第二階層で、妙な囚人に出会った」


鋏を肩に担ぎ直す。

「罪状は軽いもんだった。反政府運動に関わったとか、そんな程度のな。

だが……あいつは妙に静かな奴だった」


鋏を鳴らす。

「他の連中みてぇに騒ぎもしねぇ。

ただ、黙ってこの監獄を見てやがった」



ヴォルグが眉をひそめる。

「……それで?」



バレルは鼻を鳴らす。

「ある日、気づいた。このままじゃあいつは、もうすぐ処刑に回される」



ジルが低く問う。

「……何でだ?」



「……俺がここ(第二階層)の巡回してた時、少し話したんだ」


鋏を鳴らす。

「そしたらあいつ、妙なこと言いやがった。 “この監獄はおかしい”ってな」



ヴォルグの瞳が細くなる。



バレルは続ける。

「囚人が死ぬ順番が、出来すぎてる。

まるで何かを試してるみてぇだ、次は俺の順番だと」



バレルは肩をすくめた。

「最初は馬鹿な話だと思った」


低い声が落ちる。

「だが……この監獄を長く見てりゃ、笑えなくなった。確かに不可解な処刑が多すぎる」


鋏を鳴らす。

「ある日もな。罪状の軽い囚人が、いきなり処刑に回された。理由も説明もなしだ。上からの命令だとよ」


吐き捨てる。

「ふざけてやがる。もっとやべえ奴らなんて、山ほど野放しだってのによ」



バレルは鼻で笑う。

「それが一度や二度じゃねぇ。そんなのが何度も続きゃ、さすがに気づく」


一拍置く。

「ここじゃ、罪の重い軽いなんて関係ねぇ。政府の都合ひとつで、処刑に回される」


低く吐き捨てる。

「……この監獄は、腐ってやがる」



その言葉を、誰も否定しなかった。




「だから――そいつを逃がそうとした」



ジルの瞳がわずかに動く。



バレルは続けた。

「看守服を着せてな。

一緒に巡回してるって顔で、第一階層まで連れてった」



ヴォルグの目が細められる。



バレルは淡々と言う。

「ちょうどその日、補給船が来てたんだ。食糧を持ち込む船だ」


短く息を吐く。

「そいつを紛れ込ませた……それで終わりのはずだった」



「……だが、すぐバレた」

鋏を鳴らす。



レクスが笑った。

「そりゃそうだろうな」



バレルは下を向く。

「ケッ……で、俺は捕まった」


低い声が落ちる。

「看守が囚人を逃がした……当然の処分だ」



アジトの中に静寂が落ちた。



ジルが静かに口を開いた。

「……それで、その逃がそうとした囚人はどうなったんだ?」



バレルは少しのあいだ黙り込んでいたが、やがて鼻を鳴らした。

「……さあな。俺はすぐ捕まって、ぶん殴られてそのまま第二階層送りだ」


鋏をだらりと下げ、肩をすくめる。

「その後のことは知らねぇ。ここじゃそいつの姿も見てねぇしな……処刑されちまったのかもしれねぇ」



短く息を吐く。

「もしそうなら――そいつを逃がそうとしたことは……やっぱり後悔してるのかもしれねぇな」



アジトの中に、しばし静かな空気が流れた。



やがて、その沈黙を破ったのはレクスだった。


提灯を軽く揺らし、鼻で笑う。

「……処刑、か」


肩をすくめる。

「この監獄じゃ、死体でも転がってなきゃ本当に死んだかどうかも分からねぇ」


口角をわずかに歪める。

「消えた囚人なんざ、いくらでもいる」



その横で、ヴォルグが静かに口を開いた。

「……だが、看守だったお前が、命令に背いてまで逃がした相手だ」


わずかに目を細める。

「それだけの価値がある人間だったということだろう」



ジルが小さく息を吐いた。

そして、まっすぐバレルを見る。


「……だったら、そいつはきっと生きてる」


静かに続けた。

「お前が命がけで逃がしたんだ。 簡単に終わるような奴じゃない」



バレルがぼそりと呟く。

「……だといいがな」



提灯の火が、静かに揺れていた。





深海監獄アビスロック。

この監獄では、理想は――簡単に折れる。

だがそれでも、誰かがまた理想を掲げる。

そしてこの監獄の闇は、そんな理想さえも静かに呑み込み続けていた。


《蒼海の解放軍》より、深海監獄から感謝を込めて。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


もし物語を面白いと感じていただけたら、

あなたの一票(=★評価・ブックマーク)が、

監獄で抗い続ける仲間たちの力になります。


▼作者Xはこちら

https://x.com/00aomiray00?s=21


これからも『半魚囚人ジル』をよろしくお願いします。

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