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プロ失格

『龍門ルチャリブレ相手に2勝、5位を狙った昨日は引き分けでしたがチーム状態は上昇中!オールスター前最後の3連戦は名古屋ドラマティックドリームスを迎え撃ちます!』


 先週も戦った相手だが、先発投手が違う。前回はDD軍がエース級を2人用意したが、今回はペンギンズが土曜日に田富、日曜日に加林を投げさせる。横浜戦でプロ初黒星を喫した2人の巻き返しに注目が集まっていた。


『DD軍の高木兼任監督、今日はスタメン出場!』


「日本全国でテレビ中継されているペンギンズ戦だからだろうな。目立ちたがり男の本領発揮だ」


「でも明日と明後日はベンチだろうよ。田富と加林なんてあの親父じゃ打てっこない。勝てる確率が一番高い今日だけ出るつもりだぜ」


 DD軍の選手たちの言葉は冷ややかなものだったが、本気で彼を嫌っている者はいない。監督に聞こえるようにこんなことを言っても笑って許される、新しい時代の上下関係だった。



『笑顔の高木兼任監督とは違い、ペンギンズの正一つばめ監督は険しい表情!いくら先発が3年目にして一軍初登板、しかもどうしても他にいなかったという理由で使う東舘(ひがしだて)とはいえこれは……』


 即戦力と期待されて入団した東舘だったが、二軍から抜け出せないまま肘の手術を行いリハビリ生活に入った。復帰後もアマチュア時代の出来には戻らず、ペンギンズのピッチャーにありがちな『ドラフトで指名された瞬間がピーク』の男だ。


「二軍でも不調が続いていますが、投げている球そのものは悪くないと報告を受けています」


「私も映像を何度も見ている。あれで悪くないのなら、プロ野球のレベルも落ちたものだ。高校生がいきなり投手五冠に輝けるぞ」


 たまたま全てがうまくハマれば勝つかもしれない。しかし数多の要素が一つ残らず東舘の有利に働くというのは現実的な話ではない。宝くじを1枚しか買わずに1等を当てるくらいの確率だった。



「今日のファンは運がいいな。デビュー戦と引退試合を同時に見ることができるんだ」


「………」


 投げる前から東舘を見限っている。しかも東舘に聞こえるように話しているのだから、一切期待していないことを隠さなかった。


「監督はお前に発奮してもらいたいからあえて尻を叩いたんだ。燃えなきゃ男じゃないぞ」


「はい。もし監督にそんな気持ちはなく、ただ罵倒しているだけでも構いません。見返してやりますよ」


 つばめの真意はどうでもいい。気迫を前面に出し、このワンチャンスをものにしてローテーション入りする。目標達成のために東舘は改めて気合いを入れた。この様子ならいけるかもと思わせる熱があった。





『ポール際!入るか、入るか!?入った!ホームラン!まさかまさか、高木がホームラン!スリーランホームランでペンギンズをぶっちぎる!』


「よっしゃ!ファイヤ――――――!!」


 兼任監督が今季初ホームランを放ち、レフトスタンドはお祭り騒ぎだ。逆にとても静かになってしまったのはライトスタンド、ペンギンズの応援席だった。


『三回表が終わって7対0!東舘、もう泣きそうな顔でベンチに戻ります!』


 実力は発揮できたが、順当に打たれた。少し発奮した程度では一軍の壁を越えることはできなかった。



『8番の大矢木からですので、東舘には代打が出るでしょう!おや?ベンチの様子が……』


 頭を抱えながら座る東舘の前につばめが仁王立ちだ。テレビカメラはつばめの横顔しか映せなかったが、その目から冷気を放っているのはわかった。



「立て。バットを持って出ろ」


「……勘弁してください。降板させてください」


 心が折れたピッチャーを無理やり打席に向かわせ、四回以降も続投させようとしていた。


「ここまでの失態は緊張していたものとして見なかったことにしてやる。挽回のチャンスを与えてやるぞ、喜べ」


「………無理です。今日はもう限界です。次回、力をつけ直してから……」


「一生に一度の晴れ舞台かもしれないというのに、このまま終わっていいのか?」


 東舘は立ち上がれない。ついに返事もできなくなった時、つばめの氷は炎に変わった。



「腑抜けが……!あなたの長いリハビリは今日この時のためではなかったのか!」


「うわっ!」


 突然怒鳴られ、東舘は怯えた。自分のバットをつばめが手にしたので、叩かれるのではないかとますます恐れた。


「無駄な3年を過ごしたな。最初からプロにならなければ私のような小娘に罵られる屈辱を味わうこともなかったものを……」


 さすがにバットで殴ることはしなかったが、つばめの迫力を前に東舘はすっかり小さくなってしまった。



「死ぬまでリハビリしていろ!育成選手のまま一生を終えるんだ!」


 東舘の持ち物を残らず放り投げ、散乱させた。大矢木が凡退しても誰もネクストにいなかったので審判が確認しに近づいてくると、


「代打……誰でもいい!さっさと行け!」


 たまたますぐ近くにいた丸田を行かせた。準備など全くしていないが、行けと言われたら行くしかない。


「何をしている!早く拾え、愚図が!」


「は、はいっ!」


 自分で荒らしておいて東舘に回収させる。そしてすぐに帰宅を命じ、試合途中で帰らせた。



『つばめ監督、荒れています!今の彼女には誰も近寄れません!』


 つばめを恐れたのはペンギンズの選手たちだけではなかった。DD軍の選手たちも殺伐としたペンギンズベンチを見て震えた。以前は自分たち以上に緩かったはずのペンギンズが、18歳の少女が監督になっただけですっかり変わってしまったからだ。


「監督をネタにする冗談なんか言ったら即終了だな」


「学生のサークルが軍隊になっちまった」


 実際にはベンチ内の空気が息苦しいということはなく、皆がつばめの顔色ばかりを伺っていると噂されているのも誤解だ。勝負に有害となる緩さや甘さだけを取り除き、適度な緊張感をもたらしていた。






『序盤の大量失点が響き連敗……5位のルチャリブレが勝ったので再び2ゲーム差に広がりましたが』


『今日は仕方ない。あんなピッチャーで勝つのは無理だ。球場に来てくれたファンだけでなく、中継を視聴していた全国のペンギンズファンに謝罪したい』


 つばめがいきなり謝罪から入るのは異例だ。これまでは大敗でも開き直ることが多かった。

 

『しかしこれではっきりした。東舘には一軍で投げる権利がない。プロ野球選手を名乗る資格がない。野球で飯を食う能力がない。今すぐ退団させたほうが本人のためだが、シーズン終了まで待ってやろう』


 特定の選手を会見の場でこれほど罵倒するのも珍しい。東舘に将来性がないのは記者たちもわかっているが、ここまで痛烈に批判する記事は誰も書けない。




『……監督、お疲れですか?試合中からずっと言動が過激でしたが……』


『そうか?これでも我慢しているほうだが』


『今日だけではなく、最近は感情を露わにしている場面が多いと思います。ストレスや体調不良を心配する声も……』


 我慢や辛抱ができなくなると危険ラインだ。そのことを指摘されてもつばめは全く意に介さなかった。


『はっはっは!それなら心配無用だ!むしろ私の調子は上がっている!』


『はい?』 


『慣れてきたおかげで監督として最善の行動ができるようになった。緊張のあまり遠慮していたが、堂々とチームを指揮できるようになってきた!』



 つばめの言葉の真偽はわからないが、もし嘘や強がりでなかったとしたら恐ろしい。あれだけ好き放題振る舞っておいて、まだ底が見えないのだ。

 評価は言葉でなくポイントとブックマーク。別に自費キャンプでも構わない。

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