支配下選手
『投球練習を見る限りでは問題なさそうです!この五回を投げ切れば勝利投手の権利を得ますが……』
能登はここまで4失点。タイムリー内野安打の全力疾走も気がかりだった。球数はすでに90球、ルチャリブレ打線の猛攻を前に、長い1イニングになりそうだった。
「くそっ!」
『三振!スリーアウト!意外と言っては能登に失礼ですが、今日初の三者凡退!』
一発狙いの若いバッターたちを嘲笑うかのように緩い変化球で抑えていった。この内容なら六回も任せたくなるが、100球を超えた。欲張ると墓穴を掘ると判断し、ここで交代だ。
「このリードは絶対に守る。万が一あなたの勝ちを消すようなやつがいたら二軍に閉じ込めてやる」
「プレッシャーに弱いやつらばかりなんだ。逆効果だからやめたほうがいいぞ」
あと4イニング、4人のピッチャーたちの責任は重大だ。追いつかれたピッチャーがいたら、つばめは本気で二軍に落とすつもりでいた。
『ツーアウト満塁!バッターは4番のギアニー!八回表、8対4と4点リードのペンギンズですが、ホームランなら同点!』
順調に追加点を重ね、楽に逃げ切るかと思ったら山場がきた。ホームラン以外ならまだ大丈夫という場面でも、今日のつばめはいつもと違った。
『ピッチャー交代です!小西に代わって……安岡だ!クローザーの安岡を八回に投入!回跨ぎです!』
1イニング限定だった安岡を使い、絶対に抑えるという強い意志が伝わってきた。現在3連敗中、何より能登の通算193勝目がかかっている。奥の手をを解禁した。
「グッ…!!」
『空振り三振っ!スリーアウト、三者残塁!この試合の大勢は決しました!』
安岡が難なく抑えてピンチを凌いだ。ルチャリブレ側もこれが最後のチャンスだとわかっていたので、熱が冷めていった。
「今日はどうしても勝ちたい試合だったのはわかる。しかしいいのか?シーズン終盤でもないのに抑え投手を回跨ぎなんて……」
「問題ない。明日は安岡の出番は絶対にない」
つばめはそう断言した。ベンチからも外して休養日にする予定だった。
「どうしてそう言い切れるんだ?明日の予告先発は……あっ、なるほど。そういうことか」
「気がついたか、国村さん」
ペンギンズはベテランの小山が先発するが、ルチャリブレの先発はやはりベテランの市川だった。しかも今季初登板だ。
「滅多打ちにできるからセーブがつくような接戦にはならないってわけだな。しかしどうして明日投げるんだろうな?小山ならまともなピッチャーをぶつけたら勝つのはあいつらなのに」
「さあな……相手も苦しいのかもな。先発ピッチャーが何人か離脱して、上位争いから脱落している。すでに私たちの射程圏内だ」
つばめが来るまでは5強1論外だったド・リーグだが、ルチャリブレが急失速していた。5位のルチャリブレと最下位のペンギンズのゲーム差は3まで詰まり、このまま試合が終われば2ゲーム差になる。
「監督、安岡のプロ初打席ですが……」
「三振でいい。ピッチングに専念させろ」
安岡もバッティングに興味はないので、つばめの指示に従いわざと三振してベンチに戻ってきた。4点もリードがあれば、九回のマウンドは簡単な仕事だった。
『ペンギンズ、連敗を3で止めました!能登は通算193勝目、最下位脱出も見えてきた貴重な白星!』
『しかも明日は市川でしょう?この大事な時に彼しかいなかったのだとしたら、ペンギンズの5位浮上は近いでしょうね』
小山と同じく市川も30代半ばだが、弱小チームで100勝以上している小山とは違い、市川は6勝65敗と大きく負け越している。なぜこんな成績のピッチャーがこの歳まで現役でいられるのか、球界七不思議の一つだった。
早い回に先発が故障したので緊急登板、直前で予告先発を回避した投手の代役、絶対に勝てない試合の捨て駒……損な役割が多く、派手に打たれて負けることも多かった。
『連敗ストップ、おめでとうございます。打線は復調、能登にも勝ちがついた……横浜戦の悪い流れは完全に消し飛びましたね』
『ああ。この勝利は大きい。しかも明日、相手の先発は市川……油断は禁物とはいえ勝ったも同然、もうすぐ5位だな』
会見の場でも市川の名が出た。今年は二軍でもほとんど出番がないだけに、どうしていきなりここで先発なのか、疑問だらけの起用だ。
『誰か理由を知っている者はいないのか?』
つばめのほうから記者たちに質問した。市川なら難なく勝てるだろうが、突然の登板は不気味だ。ルチャリブレの担当記者や関西のマスコミなら知っているかもしれないと聞いてみると、1人だけ手を上げた。
『裏が取れているわけではない、噂話ですが……』
『構わない、話せ』
『はい。支配下登録の期限が今月末に迫っているのは監督もご存じのはずです。龍門ルチャリブレの支配下選手は現在69人、あと1人で枠は埋まります』
一軍の試合に出場する権利があるのは、支配下選手と呼ばれる正式に契約された選手だけだ。その上限は70人と決まっている。
『ルチャリブレは外国人ピッチャーと契約がまとまったのですが…育成選手にも1人、すぐにでも支配下に上げたい絶好調の内野手がいるんです』
新橋という大卒ルーキーは育成2位でルチャリブレに入団し、怪我で出遅れたものの二軍の試合に出始めると大活躍、攻守において即戦力間違いなしだと皆が口を揃えるほどだった。
『なるほど……それは気の毒だったな。どうしてもそいつを上げたければ誰かを金銭トレード、もしくは無償譲渡して枠を空けるしかないな。だが……』
『ルチャリブレの事情はどのチームも知っています。中途半端な選手を出したくらいでは応じませんよ』
こうならないためにも、7月末の最終日まで68人くらいにしておくのが賢いやり方だ。しかし様々な要素が重なり、その結果こうなってしまった。今さら悔やんでも仕方がないので、龍門ルチャリブレはとんでもない策を実行に移した。
『だから市川です。どうせ今年でクビは確実、それなら少し早く辞めさせてしまおうってわけです。本人も合意しているので、任意引退選手となるでしょう』
会場は騒然とした。確かにそれなら枠が空き、ルール違反にもならない。しかし他球団が来年以降これを真似して、無理やりシーズンの途中に選手を引退させる悪例の始まりになるかもしれない。物議を醸しそうだ。
『なるほど。明日はやつの引退試合というわけだ。こんな形で追い出すのだから記念の引退試合ぐらいしてやろうと……しかしそれなら金曜日まで待てばよかったのに。週末はやつらの本拠地だろう』
『そうですよね。一日でも早く市川を引退させて2人を支配下に……というわけでもなさそうなんですよ。外国人のほうはこれから来日して二軍で一度は調整するはずです。急ぐことはないと私も思います』
なぜ外苑球場で引退試合なのか。つばめたちにはわからないことだが、ルチャリブレの球団関係者たちにはすでに知らされていた。
「……悪いな市っちゃん。最後までチームのために犠牲になってもらって………当然金はシーズンの最後までいた時と同じ、満額払う」
「余計な金なんていりませんよ。でもこの俺を少しでも哀れんでくれるのなら、一つだけわがままを聞いてもらえませんか」
プロ野球選手にしては小柄で迫力もない市川だが、最後の頼みをする瞬間だけ、その目は野獣のようになった。
「ペンギンズ戦……正一つばめとやらせてください!数多の大物と対戦してきましたが、そのラストを飾るのはあいつしかいません!」
新日本プロレス、退団者多すぎませんか?ノア、BUSHI以外がかなり厳しいあのチームをいつまで使うつもりですか?GLEAT、祝日であの観客数は……そしてシャーマン様が元に戻ってしまいました。
日本のプロレスを救う団体は、やはりSUGAMOプロレスしかなさそうです。




