リレー対決
『連敗中のペンギンズですが、つばめ監督が就任してから同一カード3連敗はまだありません!大型連敗がないのは強いチームの証です!』
ここで3連敗を喫すると、ビッグリーダーズを3タテした先週の快進撃が無意味になってしまう。絶対に落とせない一戦だ。
『今日は6勝負けなしの加林が先発です!一方のスターヒーローズは伊志田裕二郎、2勝3敗でホールドが2つあります』
伊志田は起用法が定まっていないピッチャーで、火曜日にリリーフで2イニング投げてから中4日で先発だ。我妻やジャックと比べたら遥かに楽な相手で、しかもペンギンズは加林を用意している。勝って当然の試合だった。
「勝てる試合を取りこぼさないのもエースの条件だ。心配はしていないが……」
「必ず連敗を止めます。期待してください」
加林の言葉は力強く、皆が勝利を確信した。昨日は田富が初黒星を喫したが、加林が負けるのは当分先のことだろう。
「頼もしいな。加林洋、あなたはペンギンズの救世主だ。あなたがいればAクラスどころではない……常勝球団になれると信じている」
「……ありがとうございます!まずは今日、そのお言葉に応えてみせます!」
投球練習の球も走っている。約1ヶ月半前に一軍デビューしたばかりの新人をここまで安心して見ていられるとは、まともなピッチャーが一人もいなかったこれまでのペンギンズでは考えられないことだ。
こんなピッチャーが埋もれていたことは大問題だが、つばめによって救い出された。ペンギンズが黄金期を迎えた時はつばめの活躍も思い出され、ファンの間で語り継がれるに違いない。
『センター前ヒット!先頭の飯館がさっそく出塁!続く2番ですが、今日は土場が入っています』
攻撃的な2番打者として結果を出していた秦野は5番に下がっている。土場は何でもできるので、打ってくるだけの秦野より厄介という考え方もある。スターヒーローズは警戒を強めた。
「えっ?」 「あれ?」
『送りバント成功!ランナー二塁!』
何の捻りもないバントにベイスタジアムの皆が唖然とした。こんな野球をやめさせたのがつばめのはずなのに、1球でバントを決めた土場を拍手で迎えていた。
「初回からバントだと?昨日の完封負けがそんなにショックだったのか?」
「いや、先発は加林だ。1点あれば勝てると思っているから確実にランナーを進めたのだろう」
正解は後者だった。つばめがバントをやめさせたのは、何点リードしていても足りない投手陣だったからだ。加林なら1点か2点で逃げ切れる。
『フェンスダイレクト!レフトの筒がもたついている間に飯館ホームイン、打ったラムセスも二塁へ!』
「おおっ!監督の采配バッチリだ!」
つばめの思惑通り初回に先制した。昨日は1点が遠かったが、早々に得点を奪った。試合前から今日は勝てると期待していたペンギンズベンチやファンは、これで九回まで安心して見ていられると安堵した。
ペンギンズは三回にも1点を追加して2対0。四回裏の終了後にはイベントが開催された。
『今日のリレー対決は特別編!両チームのパフォーマンスチームが真剣勝負です!』
ベイスタジアムではファンとパフォーマンスチームのリレー対決が恒例となっている。ファンが相手の場合は手加減するが、他球団のパフォーマンスチームが相手なら全力で叩き潰すので、ここまで全勝だった。
『スターガールズはYUTA、HIRO、KANAが登場!この3人が揃えば無敵だ!』
対するペンギンズはペン子の中に入っている呉崎みなみ、足の長いイナ、そして学生時代に陸上選手だったフリーターの国立の3人だ。メンバー全員で予選を行い、優秀な3人を選抜した。
『スタート!YUTAが突き放……いや、ペンギンズも負けていないぞ!』
「ナメんじゃねーぞコラァ!」
みなみが食らいつき、イナにバトンを繋いだ。
『ここで少し差が開いたか?しかしこれはアンカー次第だ!』
「あ……後は任せました!」
僅かに離されたが決定的なリードは許さず、国立に託した。外苑球場でのパフォーマンスでは元からのメンバーに次ぐレベルのダンスを見せていた国立だったが、真の本領発揮は今日この舞台だった。
『スターガールズ最速のKANA!忖度抜きの戦いなら負け知らず、代走として試合に出てくれと言われるほどの快速が……あっ!?』
国立が一気に追い上げ、あっという間に並んだ。
「このっ……くっ!」
「もらったぁ!」
国立が少しだけ前に出たところでゴール。どうせスターガールズの勝ちだと決めつけていた横浜のファンたちを驚かせた。
「やるじゃねーか!」 「国立さん!」
みなみとイナが国立に抱きつく。国立はペンギンズ愛に溢れた女なので、すぐにレフトスタンドに陣取るペンギンズファンのもとに向かった。
「この勝利をペンギンズの選手たちに捧げます!ゴーゴーペンギンズ!ゴーゴーペンギンズ!」
「ゴーゴーペンギンズ!ゴーゴーペンギンズ!」
ただのお遊びで終わらせず、チームに力を与えた。ますます勢いがつき、勝利は盤石に思えた。
『五回裏、スターヒーローズは5球でツーアウト!加林は今日も好調、攻略は至難の業です!』
宮碕、山元と簡単に抑えた。球数も完封ペースで、死角はないはずだった。
『ボール!フォアボールです!9番の伊志田まで打順が回り……代打が出ます、美森です』
8番の早志に粘られた末に歩かせた。ツーアウトからなので事は重大ではないと思われたが、これが悪夢の幕開けだった。
『叩きつけた!なかなか打球が落ちてこない!』
「くそ〜〜〜っ」
美森は内野安打。続く海老名を追いこんだが、
「ぐえっ!ううっ………」
『デッドボール!脇腹に当たったか!?トレーナーが出てきました!』
内角を抉りすぎてぶつけてしまった。これで二死満塁。悪い流れを変えるために内野手が集まり、投手コーチも出てきた。
「悪い流れだが気にするな。普通に投げれば問題なく終わる」
「はい。フォアボールと暴投だけ気をつけます」
加林は深呼吸でリズムを整えた。ピンチでも堂々としている姿を見て、皆は安心して自分の守備位置に戻っていった。
『ツーアウト満塁、バッターは鍬原!スタンドの大歓声が後押しするなかで、大事な初球!』
大矢木はど真ん中に構えた。コースが甘くても力で押し切れる、そう信じていた。
『投げたっ……ああっ!?』
鍬原の手に直撃し、ボールはその場にぼとりと落ちた。渾身のストレートがまさかのコントロールミス、押し出しになってしまった。
「す、すいません!」
「ぐぐっ………」
『押し出しだ!なんと連続でデッドボール!1点差にはなりましたがベイスタジアムは異様な雰囲気になっています!そして鍬原は……ベンチに下がります!』
鍬原の治療のため試合は中断した。加林はその間に投球練習をしたが、普段通りに投げられた。
(どうして2人続けてぶつけてしまったんだ!?)
見た目はいつもと同じでも、内面の冷静さは失われていた。ただの偶然なのだが、呼吸が荒くなり動揺している。
『上里が出てきました!鍬原は交代です。指が折れていないか心配です』
「代走……」
ピンチは続く。しかしここで加林を代える選択はない。将来のために、自力で乗り越える必要があった。
宮碕……安打製造機ぶりは健在なベテラン三塁手。熊のような外見で、独身。人気はチーム一、二を争う。
早志……堅実な守備と粘り打ちを武器とする内野手。粘るだけだと油断していると、思わぬ一撃を放つ。
伊志田……幼いころから横浜のファンクラブに入っていた若手投手。先発、リリーフの両刀タイプ。
ユタ、ヒロ、カナ……横浜のパフォーマンスチームが誇る俊足の3人。名前の元ネタは大洋のスーパーカートリオ、高木豊、加藤博一、屋鋪要。
実在の球団、選手とはあまり関係はありません。




