横浜スターヒーローズ
ペンギンズは横浜スターヒーローズの本拠地、ニュー・ベイスタジアムに乗り込んだ。つばめの就任後、まだ対戦がないチームはスターヒーローズだけだった。
『この数年、ペンギンズはビッグリーダーズと同じくらいにスターヒーローズを苦手としています!今年も3勝9敗と大きく負け越しています!』
『相性が最悪ですからね。大雑把ではありますがパワーと勢いのあるスターヒーローズに対し、小粒で非力なペンギンズは押し潰されてしまいます』
スターヒーローズのピッチャーは速球でどんどんストライクを取ってくる。前監督が重視した小技や四球狙いは通用しなかった。
一発狙いのバッターが多いスターヒーローズ打線は、球が軽くて遅いペンギンズのピッチャーが大好物だ。ペンギンズ戦の打率が5割を超えている選手がレギュラーだけで3人、控えも含めたらそれ以上いる。
『しかしつばめ監督がチームを一新し、ペンギンズにも本格派のピッチャーたちや長打力のあるバッターが何人もいます。以前よりはいい勝負になりそうです』
野球のスタイルやパワーの差で強引に押し切られることはもうないはずだ。ここから逆襲が始まる。
「だいたい10年前くらいか。あの頃のスターヒーローズは今のペンギンズよりも弱かった。選手もフロントもちっともやる気がなかったからな」
「しかし親会社が変わってから強くなっていった。適切な補強やドラフトの成功で成績を上げ、興味を引くイベントを毎週のように開催して新しいファンを増やし続けている」
優勝こそできないが、毎年Aクラス入りが狙えるチームになった。もはやペンギンズとは別世界にいる。
「最近のスターヒーローズはとにかく打ちます。先発ピッチャーも難敵揃いですが、競り合いになれば中継ぎの脆さと守備のミスで負けています」
「最近…というよりずっとそんなイメージだな。細かい野球が苦手で、好き勝手振り回してくるバッターばかりだ。終盤まで僅差で凌げばどうにかなるか?」
チーム打率、ホームラン数はトップ。先発投手の防御率もリーグ1位だ。一方でエラー数最多、リリーフ防御率は最下位。スターヒーローズは長所と短所がはっきりしているチームだった。
「今日は相手がエースの我妻、こっちは村吉ですから厳しいです。しかし明日以降は……」
「田富と加林なら勝てるというわけか。辛抱できる2人とは違い、あいつらは我慢ができない。勝手に自滅してくれる……」
2勝1敗で勝ち越しを狙う。スターヒーローズへの苦手意識を捨て、対等に戦うことができれば再びペンギンズが上になる日は近い。現状のチーム力でどこまでやれるか、大事な3連戦が始まった。
『空振り三振!我妻、いきなりランナーを二塁に置きましたが池村を三振に仕留めて無失点スタート!』
「ピンチになるとギアを上げてくるか……」
得点圏での被打率はリーグで一番優秀な我妻だ。得点するとしたら、ランナーなしか一塁に1人だけの場面でホームランだ。油断して痛恨の一発を浴びてしまうのが、我妻の数少ない弱点だった。
「以前まではホームランを打てるバッターがほとんどいませんでしたが、今なら何人もいます」
「相手のバッテリーは追いこむまでほとんどボール球を使わない。積極的に攻めていこう」
コントロールが定まっている日の我妻を相手に待球作戦は逆効果だ。カウントを取りにくるところを叩く、そこに攻略ポイントを絞った。
『7球でノーアウト満塁!海老名、鍬原、そして砂野と3連打!不安定な村吉を攻めます!』
スターヒーローズも速攻を仕掛けてきた。好球必打が合言葉の彼らが、村吉の中途半端な球速の直球を見逃すはずがなかった。
『4番の『筒 剛』がゆっくりと左打席に入ります!筒は選球眼もありますので、ゾーン内で勝負するしかないでしょう!』
「ゴー!ゴー!ツツ・ゴー!ゴー!ゴー!ツツ・ゴー!」
いきなり正念場を迎えた。内野はバックホームもゲッツーも狙えるシフト、外野は長打に備えて後退していた。
『ボール!これでフルカウント!』
「……………」
2球で追いこむも、最後が決まらない。粘られた末にフルカウントとなり、投げる球がなくなった。
『ようやくサインが決まって…ピッチャー投げた!』
ストライクを投げるしかなかった。勝負球に選んだのはスライダーだったが、真ん中に入ってしまった。
「!!」 「ああっ!」
『痛烈っ!オズマ捕れない、一塁線フェア!』
一瞬で外野に抜けていく鋭い打球だった。ランナーが2人還って2対0、無死二、三塁のピンチが続く。
「この後は巻、宮碕、その次は山元か……」
「苦しい……いや、もう決まってしまったか?」
連打が始まると止まらないのがスターヒーローズ打線だ。最低でもあと1点は失うことを考えると、我妻を相手に3点を追う展開になる。早くも絶望的だ。
「元々今日は捨てゲームでしたから……」
「どうせ村吉はこの試合を最後に二軍行きだ。しばらく戻ってくることもないだろうから、思い出作りにたくさん投げさせてやろう」
巻にもタイムリーを打たれ、宮碕の犠牲フライと山元の内野ゴロで残ったランナーを掃除されてもペンギンズベンチは動かなかった。マウンドに行って励ます気にもならず、大爆発の村吉を放置した。
『この回も横浜打線が止まらない!早志、海老名のタイムリーなどで3点を追加、9対1となりました!』
(……も、もう代えてくれ………)
村吉が悲しい顔でSOSの視線を送る。コーチたちはさすがにかわいそうになってきたが、つばめは気がつかないふりをしてジュースを飲んでいた。
「打たれるだけ打たれたらいい。今日打ち過ぎたせいで明日は止まってくれるかもしれない」
「横浜はそういうチームじゃありませんよ。何試合も連続で二桁得点ができる、波に乗ったら止まらない打線です」
「そうか?そうかもしれないな。まあどっちでもいい。村吉には犠牲になってもらう」
最終的に六回まで投げて160球、13失点。役目を終えた村吉はつばめへの恨みの気持ちも消え、ふらふらとベンチの奥へ消えていった。
『途中から入った松生もタイムリー!今日は横浜スターヒーローズのための一日だ!』
敗戦処理のピッチャーたちもアピールに失敗し、ペンギンズファンの約半数が試合終了を待たずにベイスタジアムを去った。あまりにも見どころがなく、これ以上試合を見ていると怒りのあまり何をするかわからないので席を立った者たちもいた。
『スターヒーローズの水浦監督はこの展開なら楽な仕事です!何もしなくても点差がどんどん開いていきます!一方のつばめ監督も何をしてももう無駄ですから、ある意味ノープレッシャーです』
どう采配しても今日は勝てなかった。村吉を早々に下げたところで、ブルペンが疲弊するだけだっただろう。大敗を受け入れ、明日からの逆襲を誓った。
水浦……横浜スターヒーローズの監督。特徴的な髪型をしている。
吾妻……横浜のエース左腕。ピンチに強く、安定感のある投球で白星を重ねる。
海老名……遅咲きの外野手。攻走守いずれも堅実で、レギュラーを獲得するもなぜか応援歌が作られない。
鍬原……ガッツ溢れるプレーでチームを引っ張る。年齢を重ね安定感が増してきた。
砂野……首位打者に輝いたこともある中距離砲。ペンギンズ戦を大の得意にしている。
実在の球団、選手とはあまり関係はありません。




