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8番投手

『話題の絶えないつばめ監督、今日は8番にピッチャーを入れてきました!』


『8番武雄、9番村吉でいいと思うのですが……普通に打順を組んでいては勝てないと考えたのかもしれませんよ』


 龍門ルチャリブレの先発は来日2年目のルイス。渡辺ジュンと同じく、ペンギンズを大の得意にしていた。精彩を欠くピッチングが続く村吉ではまず勝てない試合だが、つばめはそれでも構わなかった。



「各チームのエース級が金曜日に揃っている。この日は捨てて確実に2勝を拾うという手もある」


「それなら村吉だ。あいつができる役目なんかもはや捨て駒しかない。間違って勝ってしまうならそれはそれでいいのだから……」


 ローテーションを再編し、敵の好投手には村吉をぶつけることにした。ここは落としても仕方がない代わりに、先発に転向させた田富を土曜日、加林を引き続き日曜日に投げさせることで勝ち越しを目指す。ルーキーの2人が投手陣の柱になっていた。




「うっ……!」


『ストライク!157キロのストレートに手が出ず!秦野の最初の打席は見逃し三振でした!』


 二軍のピッチャーとは全く違う、トップクラスのピッチャーの球。まずはこれに慣れるところからだ。


「映像が出たが、今のはボールだ。見送ったのは間違いではなかったぞ」


「いや……ストライクかボールかの判断もできませんでした。だからカットしなければいけなかったのですが……次の打席はもっといい勝負をしたいです」


 秦野は失敗を正直に語る。一軍に昇格して最初の相手がルイスだったのは不運だが、これ以上のピッチャーはなかなかいない。いい経験をしていると思うしかなかった。




「ぐっ……!!」


『入りました!4番の菊田(きくた)、久々のホームランは第7号、先制のスリーラン!』


 立ち上がりが弱い村吉はいきなり3点を献上。投高打低が顕著なこのドラゴンドームでは致命傷だ。


「……………」


 つばめは黙って席を立ち、ヘッドコーチの国村や他のコーチたちと話す前にブルペンと連絡するための電話を手にした。独断でリリーフを準備させようとしている。


『つばめ監督、どうしてしまったのでしょうか……』


『悪い意味で監督業に慣れてしまったのかもしれませんね。セオリーやコーチの意見、データを無視してまで自分の色を出そうとすると危険ですよ』


 監督の暴走はチームの崩壊に繋がる。監督への不信感だけでは済まず、選手やコーチの間でも対立が生まれる。つばめの行動はよくない未来を予感させた。




『二回も1点を失った村吉、三回表はその村吉から攻撃が始まりますが……町田が出てきました!』


 8番投手が正しかったのか、これでは判断できない。打順以前の問題だった。


『何点取られても限界まで投げさせることが多いつばめ監督ですが、この早い交代はまだ試合を諦めていない姿勢の表れでしょうか?』


『わかりませんね……』


 いつも通りの無表情なので、顔色からは何も読み取れない。実際にどんな起用をするかでつばめの心がわかる。まだ三回ではあるが、今日のルイスの調子を考えればすでに大勢は決した。つばめの行動だけが皆の関心事だった。





『ルチャリブレ打線が大爆発!接戦を守り勝つのが持ち味の龍門ルチャリブレ、今日は圧倒的!』


 六回が終わって12対0。三回以降に登板した清水谷と長谷部はそれぞれ2イニングで4失点。先発の村吉も含めて3人全員が同じ成績だった。


『ペンギンズは多く打席に立たせたい秦野と池村以外のスタメン野手は全員交代しています!』

 

『戦力の見極めをしたいようですね。つばめ監督にはこれがあったのを思い出しましたよ』


 観客のことを考えない捨て試合、醜態を晒せば即二軍落ちのデスゲーム。3連戦の初戦は最悪の展開になった。


「交流戦のいい流れがぜんぶ吹っ飛んじゃったよ。前途多難だなぁ」


「明日からどうなるんだ?」


 秦野はノーヒット、池端はこの点差では出番なし。全てが不発に終わって完敗だった。






『ハハハ……弱すぎだろ、正一つばめのペンギンズ。弱々しくて惨めで……お金が取れる野球じゃないよ』


 試合終了後、ルチャリブレの渡辺は生配信を行った。つばめを嘲笑う笑みを浮かべる。


『二流ピッチャーたちのお披露目会に主力は全員早退に……頭の弱い真似をたくさんしてくれたね。8番ピッチャーも話題作りとしてはよかったんじゃない?』


 今日のつばめとペンギンズはどれだけ非難されても甘んじて受け入れるしかない。解説者たちも一斉に苦言を呈した。


『さすがは日本球界の恥、歴史に残る愚か者だ。僕は彼女を早急に消すよ。野球を守るためにね』


 それでも渡辺ほど強い言葉で罵倒する者はいない。毒舌や放言で知られる高齢の解説者たちですら、渡辺には負ける。






 8 飯館

 9 秦野

 7 ラムセス

 5 池村

 3 オズマ

 2 大矢木

 6 武雄

 1 田富

 4 土場



「ま、また!」 「8番投手……」


 下位打線の打順の入れ替えはあったが、問題の8番投手は変わらず。ドラゴンドームの大観衆を2日連続で驚かせた。


「………」 「………」


『ペンギンズの選手たちはすでに諦め顔!誰もつばめ監督の暴走を止められないのか!?』


 この作戦に明確な問題点はない。しかし利点も見つからない。『自分は他の監督とは違うことをしている』とアピールしたいのではという声もあった。


 ちなみに前監督の高塚も8番投手を数試合試したことはあるが、理由を語ることはなかった。注目を集めたいだけだったのだろう。



「初めての先発だが、緊張はなさそうで何よりだ」


「……自分の仕事をする、それは先発でもリリーフでも変わりません」


「素晴らしい!無傷の3連勝といこう!」


 登板直前の田富を鼓舞するつばめの様子が映し出された。これもなかなか珍しい光景だった。


「試合がなかった4日で中身が入れ替わったんじゃないのか?それか頭を打ったか……」


「ここまで目立つことを好む人じゃなかった」


 つばめの異変を選手たちも不思議に思っていた。しかしその変化はまだ終わらなかった。




『フォアボール!この回先頭の武雄が塁に出た、バッターは8番に入ったピッチャーの田富!』


 両チーム無得点の三回表、送りバントしかない場面だ。いつもならコーチに任せるところだが、


「……………」


『つばめ監督が前に出てサインを出します!』


 わざわざ自分で指示を送るのだから、何かあるとルチャリブレの内野陣は警戒した。バントが本命ではあるが、エンドランなどの強攻策も頭に入れた。



「………あれ?」


『ピッチャー前の送りバント!二塁をちらっと見たが一塁に送球!ワンナウト二塁となりました』


 特別なことは何もなく、田富が1球でバントを決めた。オーバーリアクション気味のサインは、ただ目立ちたいだけの行動にしか見えなかった。



「……つばめ監督、渡辺の言う通りなのか?素人ではあるがもっとしっかりしたやつだと思っていたが」


 ルチャリブレの選手たちもつばめに抱いていたイメージが崩れたことに戸惑っていた。そのせいで僅かに隙が生まれた。


「しゃあっ!!」


「うっ……甘かったか!?」


 土場が右中間を破り、先制のタイムリーツーベース。7番が出て8番のピッチャーに送らせ、9番が還す。8番投手が一応成功した形になった。

 指名打者制が導入されることで、8番投手も過去の言葉となります。最近のセ・リーグの8番投手だと、信念を持ってやっていたラミレス、特に意味もなく数試合だけやった高津や新井、中日の加藤はピッチャーより打力が下なので9番が妥当……というイメージです。

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