交流戦MVP
『今年の交流戦ですが、昨日の勝利で5割以上確定、そして今日の引き分けで勝ち越しが決まりました。ド・リーグの他球団は全て5割以下ですから……』
『まだ最下位だ。一つでも多く勝たないとな』
ド・リーグは1位から5位の差がほとんどなくなり、そこから大きく離れてペンギンズがいる。しかし上位との差を確実に詰めていた。
『ビッグリーダーズは監督の女性問題に加えチームの内紛も噂されています。グリルズも主砲の小澤が今日の試合で足を故障したようです。上位球団の不幸は正直なところ蜜の味では?』
『本来なら喜ぶべきではないが、今の私たちは勝ち方を選べる身分ではないからな。弱っているところを突いていくのは当然だ』
つばめが就任するまではやられたい放題だった敵たちに逆襲する機会が来た。今のペンギンズなら、対戦相手もボーナスステージとは考えないだろう。
『明日は加林投手ですね。3勝負けなし、しかも全て完投勝利!今からでもオールスター、新人王が狙えると思いますが……』
『もちろん。彼ほどのピッチャーは日本全国を探してもほとんどいない。今年は初登板が5月の終わりだったので厳しいが、来年は投手タイトルを独占できる』
辛口のつばめがここまで手放しで絶賛するのは加林以外にはいない。たった3試合の登板で、すっかりペンギンズ投手陣の中心になっていた。
『まずは交流戦MVPだな。200万円獲ってこいと伝えてある』
交流戦の優勝は京都トリプルクラウンズで、どの選手の成績も優秀だった。しかしMVPと言えるほどの数字を残した者は不在で、加林が明日も好投して勝てば十分狙える位置にいた。
『月曜から4日間試合がありませんが、普段と違った戦い方は考えていますか?例えば先発投手をリリーフ待機させるとか……』
『特にない。ただし火曜に投げた田富はベンチ入りさせる。本人が投げたがっているからな』
早々に降板した村吉に代わって二回からマウンドに上がった田富も2登板で2勝の逸材だ。ただし前監督の高塚の時代にも、最初だけよかったピッチャーは何人もいる。本物なのか、ただのまぐれなのか。彼らはこれから試される。
『何もしなくても勝てるのなら、何もしないのが正解だ。自分の腕を見せたい、名将と思われたい……そんな邪な考えがチームを敗北に導き、選手を潰すことにすらなってしまうのだから』
選手が優秀なだけで監督は何もしていない、そう言われることにつばめは抵抗がなく、むしろ大歓迎だった。優勝できるチームとはそういうものだと思っているが、現状では加林の登板日以外はつばめの手腕が勝敗を分ける。戦力の乏しさを戦略で補うしかない。
「明日は今日以上に暑いそうですよ。ベンチの中でも水分補給は忘れずに、決して無理はしないでくださいね」
「今日より暑いのか……参ってしまうな。倒れずにいられるのは、みのりが栄養のある食事を作ってくれるおかげだな」
一人暮らしが続いていたら、真夏を迎える前にダウンしていただろう。孫娘を派遣したオーナーの采配は大的中だ。
「会見を見ましたが、加林投手というのはやはりつばめさんにとって特別な存在ですか?」
「誰かを特別扱いしたら怒られる。チームが腐っていく原因にもなる」
加林を雑に使い倒すことはありえないが、あまりにも優遇すると他の選手のやる気にも影響する。つばめが試されているのは試合中の采配だけではなかった。
「なるほど。一部の報道ではつばめさんと加林投手が交際するかもと言われていましたが……」
「それはないな。加林は皆が思う以上に野球バカ……いや、『球道者』と呼ぶべきか。誰に迫られたとしてもしばらくは野球があいつの恋人だ」
旧パフォーマンスメンバーやテレビ局のアナウンサーなど、加林の将来性を高く見て彼に近づこうとした者たちがいた。しかしその全てを相手にせず、練習や研究に没頭している。それが加林洋という男だった。
「ストライク!バッターアウト!」
(……打てる球がない………)
加林が投げれば勝つ、その期待に応えるように今日も勢いは止まらない。スライダーとフォークはどちらも切れ味鋭く打者を翻弄し、ストレートは150キロには達しないが振り遅れの連続だ。
『六回までに11個の三振を奪って四死球はなし、被安打はたったの2本!これぞエース!』
二塁を踏ませない理想のピッチングで相手を圧倒する。同じリーグにこいつがいなくてよかったとエクスプレスの打者たちのバットも心も折ってみせた。
「いけっ!入りやがれこの野郎!」
『左中間伸びる!センターがフェンス前でジャンプ!打球は……落ちてこない!スタンドイン!』
「しゃあ!見たか、これが俺のパワーだ!」
池村の右腕が上がった。ツーランホームランで5対0、突き離す一打で加林を援護した。
『つばめ監督が抜擢した選手たちが投打に大活躍!特にここ数日はド・リーグの首位を走っていてもおかしくない戦いぶりです!』
つばめへのヤジを飛ばし続ける古くからのファンでも、批判できるところがないほど完璧な試合だ。それでもつばめを悪く言うなら『選手が頑張っているだけで監督は何もしていない』ということになるだろうが、それはつばめがぜひ聞きたいと思っている言葉だ。
『加林は7イニングでちょうど100球、この回の先頭打者ですが……打撃の準備をしていません!この酷暑でしかもセーフティリード、交代は正解でしょう』
ベンチではつばめと加林が話している。そばには投手コーチもいて、ここまでなのは明らかだった。
「ぼくはまだいけますが……」
「5点差もあるんだ。それにすごい汗だ……熱中症で足がつったピッチャーが他球場で何人もいるからな、残りはこっちに任せてしっかり休んでほしい」
接戦なら八回まで投げさせたが、わざわざ打席に立たせて続投させる意味はない点差だ。つばめが手を差し出せば加林もそれに応じ、納得して引き下がった。
『2番手は田富です!火曜の登板から中4日、田富は昨日もベンチ入りを希望していたようですが、満を持しての登場となりました』
もし今日も登板の機会がなければ、二軍戦で一度使うことになっていた。間隔が開きすぎると駄目だと本人が言うのだから、休養よりも実戦だ。
『ブルペンはもう誰も準備していません!田富が最後まで投げるようです』
次の試合は5日後なので、今日もブルペン総動員という手もあった。しかし安定している加林が先発でタフな田富もいるのだから、2人でいい。消耗せずに済むのなら、それに越したことはない。
『セカンドフライだ!加林に続き、田富もアウトの山を築いていきます!リーグ戦再開後はどんな起用法になるのか楽しみです!』
先発転向か、ロングリリーフのままか、それともセットアッパーか。どこに配置しても通用しそうなので、つばめたちを悩ませる。
「オールスターまでに最下位脱出……あるかもな」
「最終的には4位……いや、3位に滑り込むなんてことになったら、つばめブームは終わるどころか爆発し続けるぞ!」
期待の若手が大勢いることで、ファンが捕らぬ狸の皮算用を始めた。その夢物語を実現させることこそが、つばめの使命だ。
『ゲームセット!完封リレーでペンギンズが快勝!巻き返しへ視界良好です!』
交流戦を10勝7敗1分で終え、ド・リーグのライバルたちとの差を詰めた。MVPには加林が選ばれ、チームの勢いは増す一方だった。
内藤とBUSHIの新たな仲間『XXXXXX』はやはりあの人物なのでしょうか?




