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輝きの違い

「クイズ対決は面白いな。だけどこれじゃあ挑戦者側がノーチャンスすぎる。運任せでも勝てるように三択にするとか……」


「子どもがわかるレベルにしたほうが……」


 雪が圧勝したクイズ対決を見ていたエクスプレスのベンチでは、改善案がたくさん出てきた。難易度を低くして、挑戦者の勝率が5割以上になるように調整するべきだという意見が多かった。


「しかしたった1日でここまで変えられるとは。俺たちも現状に満足してちゃいけないな」


「どうせ試合はもう駄目だ。こうなったらアイデアを盗めるだけ盗んでやろう」


 5点差ではあるが、まだ4イニングも残っている。勝負を投げるには早いはずだが、エクスプレスは諦めてしまった。交流戦では好調でも、所詮はファントムリーグの最下位チームだ。負け癖がついている。だからつばめは反撃を恐れていなかった。


 同時にこれはペンギンズへの警告でもあった。ペンギンズもドリームリーグの最下位で、やはり逆転勝ちの数はリーグ最少だ。弱いチームは勝手に諦めてしまうのでいつまでも弱いままなのだ。ただしつばめが監督になってから明らかに改善されている。



『能登は1点を失いましたが六回まで投げました!ここからは継投で逃げ切り態勢です!』


 その後は淡々とイニングが消化されていった。ラッキーセブンのお江戸音頭はこれまでと変わらず、パフォーマンスチームのメンバーがグラウンドで躍動した。


「ここはいつも通りか。まあこれをやめたらみんな困っちゃうよな」


「全部変えたらファンは離れる。いいもの、今さら変えられないものは残し、それ以外のものでも徐々に変えていく、それが一番だ。そう思うといきなり素人の女子高生監督誕生は思いきったことしたよな」


 これは世界中どのチームも真似できない。つばめを監督にしたことで成績は上がりつつあるが、強引なやり方に不満を持つ者もいる。いつか爆発してペンギンズは壊れるとわかっているので、つばめブームに続こうとするチームは現れないだろう。





『青山が捕ってゲームセット!8対1、両リーグの最下位同士の戦い、まずはペンギンズが制しました!』


 つばめの予言通り圧勝だった。打席が回ってきた野手は途中出場の選手を含め全員がヒットを打ち、皆が笑顔だ。投手陣も主力のリリーフを温存できた。


「凱歌を上げるは我らがグリーンペンギンズ!」


 試合後の勝利の歌も東京緑讃歌になっていた。つばめは満足そうだが、一部の選手たちは慣れるまでに時間がかかりそうだ。



「くそ……最後まであいつらのペースだった。でも明日は同じ手には乗らない……」


「実力を出し切れば勝つのはこっちだ」


 相手を無力化できるのはやはり1試合だけだった。残り2戦は真っ向勝負だ。


『明日の予告先発はペンギンズが大澤、エクスプレスは加賀(かが)!大澤は二軍で先発調整をしてきたようですが、長いイニングを投げることはないでしょう。恒例のブルペンデーかもしれません』


 エクスプレスの加賀は本格派のベテラン右腕だ。今年は安定したピッチングを続けていて、ペンギンズには分が悪い戦いだった。


『ペンギンズは加林が投げる日曜が本番でしょう。ピッチャーの層が薄すぎます』


 どうしても『捨てゲーム』になる日が出てくる。そんな試合をうまく制することができればつばめの評価はますます上がるだろう。




『ですから明日は監督の腕の見せどころでは……』


『私が何もしなくていい試合がベストだ。監督が慌ただしく動く展開になるようではよくない』


 つばめが継投や代打のために動く機会が増えれば、つばめ目当ての人々は喜ぶ。カメラも撮れ高たっぷりだ。



『私が動く……そうだ、今日はやることがあった。すまないが会見は終わりだ』


「えっ」 「ま、まだ始まったばかりですよ!?」


 一方的に切り上げて部屋を出ていってしまった。戻る気配はなく、言葉通り会見はそのまま終了した。


「せっかく試合前からずっと機嫌がよさそうだったのに……いつもより話が聞けると思ったんだがな」


「パフォーマンスチームの新メンバーたちについても聞いておきたかった」



 つばめが会見を打ち切ったのは、その新メンバーが関係していた。その中でも地方から来た、ペンギンズ博士の雪とペン子の中の人になったみなみだった。


「2人に家が用意されるのは明日になる。だから今日の夜はうちで寝てもらってもいいか?」


『………』



 マンションで待っているみのりに電話をかけ、許可を求めた。快く2人を歓迎してくれるだろうとつばめは確信していたが、みのりの答えは違った。


『それはいけません。お二方にはホテルに泊まっていただくべきです』


「……ホテルか。スタッフに手配させればこの時間からでも問題ないだろうが……」


『この部屋の場所は絶対に秘密にしろと言われています。関わる人数が増えると、どこからその秘密が漏れてしまうかわかりません。お二方を信用していないわけではないのですが……』


 雪とみなみの口が固くても、それ以外の誰かが口を滑らせたらアウトだ。報道陣には取材権を永久に剥奪すると脅すことで秘密を守らせているが、一般人に住所が知られてしまうと厄介なことになる。


「そうだな。私の考えが足りなかった。電話をしてよかった、ありがとう」


『いえいえ、お疲れさまです』



 みのりの意見は確かに正しいが、彼女の真意は別のところにあった。


(ここはつばめさんと私だけの部屋……他の誰にも汚されたくありません。特に入道雪さん……彼女は危険です)


 みなみはどうでもいいとして、記者の後村三恵以上の知識とペンギンズ愛を持っている雪だ。つばめとペンギンズトークが始まれば途切れないだろう。しかも彼女は同い年で、あっという間につばめとの距離を詰めて自分を押しのけるかもしれない。それだけの脅威だと感じていた。


(それに今日は2人分しか夕食の準備をしていませんからね……というのは苦しい言い訳でしょうか)


 雪とみなみには都内の高級ホテルが用意された。2人ともこれまでの人生では縁のなかった場所に圧倒され、しかも今日は初舞台だった。なかなか眠ることはできなかった。






「朝からオーディションの審査員として球場に行き、明日は午後1時から試合……激務ですね」


「この程度で音を上げていては選手たちに怒られる。それに今日は疲れも吹き飛ぶ圧勝だった。あと2日、乗り切れそうだ」


 日程通り交流戦が終われば、4日間試合はない。完全な休日ではないが、少しだけ心身を休ませることができる。


「休みの間はみのりと遊びに行けると思ったが、平日だったな。学校をサボったら駄目だ」


「……おや?ずっと学校に行っていないつばめさんからそんな言葉が出るとは驚きました。ちょっとなら休んでもいいと言ってくれるかと……」


 雪の退学宣言に思い留まるよう勧めたつばめだ。他人の人生が崩れていくのを黙って見過ごすことはできないが、自分自身については軽く考えていた。



「ふふふ……私とみのりではこの先の輝きがまるで違う。あなたは一流の大学へ進学し、どんな道を選ぶにせよ華々しい未来が待っている。素晴らしい家族や友人に囲まれながら」


「………」


「私は今年どれだけ稼げるかが勝負だ。私の人生、間違いなくピークは今だ。あとは落ちていく一方なのだから、貯金を切り崩しながら生きていくだけさ」


 ペンギンズの監督になるというありえない体験に比べたら、その後の全てが退屈でつまらないものになるだろうとつばめはわかっていた。高校に戻ることも真面目に働くこともせず、当然家族や友人もいない日々を過ごすことになると。

 祝・男塾チャンネル収益化復活! 

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