小銭稼ぎ
『4つのボールを用意しました。青なら10パーセント、赤なら30パーセント、そしてペンタロウの顔が書かれたボールなら50パーセント!ペンギンズビールの値段が割引となります!白は残念ながらハズレですが、この私が白を出すわけがありません』
外苑球場のオリジナルビールは大手メーカーのビールと比べ、売り上げが悪く苦戦していた。イベントで紹介、値引きすることで浮上を狙う。
「おおっ!いいぞ、やれやれ!」
「拾ってくれたペンギンズを簡単に裏切る恐怖の魔術師……サイコーだぜ!」
『それではいきますよ!何が出るか……ヌゥンッ!』
観客からの声援を受け、永福男爵が4つのボールを入れたシルクハットを宙に投げた。ところが不思議なことに、1つしか外に出てこなかった。
『これが大悪魔の御意思………はっ!!』
地面に落ちたのは白いボール。割引はなしだ。球場内には失敗の音楽が流れる。
「テメー!大事な時間を使って何をしに来やがった!さっさと帰れ!」
「明日から別のやつにやらせろっ!!お前がクソすぎて恐怖したぞバカ野郎!」
『さ……さらばです!』
タネも仕掛けもないので、このような結末もある。永福男爵は逃げるようにして去っていった。
「なんだありゃ?あれなら最初から赤しか出ないようにすればいいのに。半額はきついが30ならいける」
「その前の飲食の混み具合がわかるやつはいいな。だが俺たちの球場は外苑より狭いし店も少ない」
エクスプレスの選手たちはここでも勉強熱心だ。模範にすべきところ、改善できるところを互いに論じ合い、自分なりのアイデアをまとめていった。
『スリーアウト!この回も能登が抑えた!相手が違うとはいえ先週は2回4失点、限界説も囁かれていましたが、それを払拭するナイスピッチング!』
相変わらず能登の表情は冴えない。前回以上に思い通りに投げられていないのに、なぜか抑えてしまっている。長い現役生活で何度も経験したことではあるが、今日は特に不思議だった。
「ここまでうまくいくのは記憶にないな。相手の狙いがことごとく外れているのか?」
「あと1イニング……騙し騙し押しきれそうですね」
エクスプレス打線の攻撃は雑だ。方針もはっきりせず、無意味に凡退を繰り返しているだけだ。
「ふふふ……全てにおいてキレがなく、楽な相手だ。昨日の餃王ジューシーズもこんな感じだったな」
「………あっ!!」
パフォーマンスチームがどうなるのか気になって、試合に集中できなかった。そんなありえないことが2日連続で起こっていた。
「特に銚子の連中はひどいな。やつらの本業はなんだ?ボーナス欲しさにプレーが二の次とは……」
相手のピッチャーやバッターの様子ではなく、イベントに登場する少女たちやマジシャンをじっくり観察している。劣勢をひっくり返す作戦ではなく、自分たちの球場で何がやれるかを熱心に話している。その愚かさをつばめは嘲笑った。
「目の前の小銭に夢中になって大金を逃すクズに負けるはずがない。私が絶対勝てると言った理由がもうわかっただろう?」
ペンギンズの選手とコーチ陣には事前に内容を全て教えていた理由はこれだ。次に何をするかわかっているので、期待や驚きは少ない。相手が実力を出し切れないのに対し、こちらはほぼ平常心で戦える。
「監督!まさかあんた、最初から1勝どころか2勝を狙っていたんじゃ?」
「………さあ?どうかな」
今回の騒動を利用するだけ利用する。可能なら3勝でも4勝でもしたいところだが、さすがに同じチームに二度は通用しない。2勝が限界だ。
「勝つとわかってる試合なら機嫌がいいのも納得だ。しかし勝負に絶対はないだろう?まだ四回だぞ」
「ああ。ここから逆転負けもありえる。相手にその気があればの話だが……」
今から我に返ったところで5点差だ。エクスプレスが勝負を諦めて小銭稼ぎに専念してくれば、万が一も起こらなくなる。あとひと押しだ。
『五回は両チーム無得点!いつもならペンタロウチャレンジの時間ですが……おっと、娘の前でバカな真似はできないと言っています、今日はお休みです!』
「え―――っ!?中止なの!?」
「いつか死ぬと思ったからな……英断だろ」
名物となっていたペンタロウの空中一回転チャレンジだが、危ない落ち方が続いてファンを心配させていた。本人も腰を痛めているので、毎日ではなく時々行うことで皆が合意した。
『代わりに今日からは新企画!ペンギンズ博士とクイズ対決を行います!今日は初回なのでペンタロウとペン子が博士と戦いますが、明日からは選ばれたファンと勝負をして、ファンの方が勝てば豪華賞品を差し上げます!ペンギンズビールも半額にします!』
大歓声が沸き上がった。永福男爵が失敗に終わっても、このクイズ対決でファンが勝てば結局半額だ。五回終了まで待てばいいだけだ。
『入道雪博士の入場です、どうぞ!』
雪は博士と紹介されたが、服装はダンスのユニフォームのままだったので、とても博士には見えなかった。
「あれ?確かあの子はさっきもいたぞ?」
「雪ちゃんは確か昼間につばめ監督と……」
近年のペンギンズについての知識ならつばめと互角かそれ以上の逸材だとファンも知っている。彼女に勝たなければ豪華賞品は貰えず、ビール半額もない。
『それでは第1問!今年の開幕戦の投手リレーをお書きください!』
「………」 「………」 「………」
ペン子の中に入っているみなみはペンギンズのファンではないので、全くわからない。ペンタロウの中の男も、ゆっくり思い出しながら書いていた。
「………」
(うおっ!) (速っ!マジかよ!)
雪はすごい勢いでペンを動かす。しかもただ名前を書いているわけではなかった。
「はい!できました!」
『どれどれ……おおっ!これは………!』
それぞれのピッチャーの投げたイニング数や失点も書いてあった。もちろん全て順番通り、正確に。
「被安打、奪三振、四死球も書いたほうがいいかなと思ったんですが、時間もありますから……」
『これだけ書いてあればオッケーです!正解!このクイズは2本先取なので、次の問題も博士が勝てば3問目を待たずに勝負が決まります!』
あらかじめ問題がわかっている出来レースならこの圧倒ぶりも理解できる。しかし雪にそんなインチキが必要ない。つばめの出した難問をその場で即答し続けたことはすでに有名になっていた。
『昨年の9月16日の試合、オズマ選手がサヨナラホームランを放った瞬間に応援団が演奏していた歌は?どうぞお書きください!』
(……わからん) (難しすぎでしょ)
着ぐるみの2人は勘頼みで書くしかない。もちろん雪はわかっていたが、2人が書き終わるのを待った。
『3人同時にオープン!ペンタロウはチャンステーマの『サマー祭り』、ペン子はシンプルに『オズマの応援歌』!そして博士は……『なし』!博士、なしというのは……あっ、マイクをどうぞ』
『その場面はワンナウトランナー一塁、フォアボールを選んだ海田選手に代わって武雄選手が代走に送られた直後でした。「ホームラン、ホームラン、オズマ」のコールはありましたが、応援歌に入る前にレフトスタンド前列、サヨナラホームランです。だから答えはなしです』
雪に勝てる者はいるのだろうか。問題のレベルはとても高く、しかもスピード勝負だ。挑戦者に選ばれても辞退せずに来てくれるのか疑問で、スタッフは頭を抱えた。
くふうハヤテからくふうが消えました。新キャプテン、倉本寿彦の活躍に期待しましょう。




