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合格者たち

「学生時代に陸上をやっていて、走り回るのは自信があります。体力は落ちていません」


「……よし、合格だ」


 3人目の合格者は、20歳のフリーターだった。彼女は高校を卒業しても進学も就職もせず、中途半端な生き方をしていた。しかしペンギンズへの愛だけは本物で、これこそ自分の道だと信じていた。



「教会に行く日はお休みさせていただけますか?」


「構わない。全試合に来なくてもいいと言ったのは私だ。参加できる曜日だけ教えてほしい」


 4人目の合格者は、熱心なクリスチャンの女性だ。賛美歌で鍛えた声はプロにも劣らないが、ペンギンズではなく神を優先することを求めてきた。それでもつばめは彼女の希望を受け入れた。



「今のは落とすと思ったけどな。ペンギンズが一番、ペンギンズこそ人生……みたいなのしか獲らない雰囲気だったのに」


「一番じゃなくてもファンならいいんじゃないか?あのミスター純二なんかは野球好きでもペンギンズファンでもなかったからな」


 旧チームは16人だったので、人数の上限はそのあたりだろう。しかし数だけ合わせるために基準を下げることはつばめがよしとしない。このまま合格者が4人で終われば、全8人で新たなチームのスタートだ。


「ペンギンズ愛が強いだけでは駄目だ。やはり光るものを持っていなければ」


「しかし全く愛がなければ昨日辞めていった連中と同じだ。いくら能力があっても監督との相性は最悪だ」


 残りの人数が半分以下になったところで、つばめがどんな人材を求めているか皆も理解してきた。こいつは駄目だと思ったら、案の定つばめに罵倒されて終わる。


「子ども騙しなら広場でやっていろ!帰れ!」


「ひいっ!すいませんでした!」


 スタッフに案内されるまでもなく、自ら逃げるように出口から去っていく。そんな光景も珍しくないなかで、絶対にアウトと誰もが確信する女が現れた。




「ん―――………ペンギンズっていうか野球、そんなに知らないんだよね。あんたのこともニュースで見るだけで、わかってるのは名前ぐらいなんだよ」


「………それならそれでいい。あなたの誇れる長所をアピールしてもらおうか」


「特にないよ。あんたが昨日の夜、来る者拒まずと言っていたから来ただけさ」


 タンクトップにボロボロのジーパン姿の大柄な女は、ペンギンズ愛もなければ球場を盛り上げる技術もない。暇つぶしの冷やかし目的に見えた。



「……その割にはここまで苦労して来たようだが」


「おおっ!ひと目で見抜いちゃうとは驚いたよ。このオーディションを知ったのが日付が変わってすぐのこと。和歌山の潮岬からバイクで駆けつけたよ」


 皆は驚いた。ノンストップで走っても約8時間はかかる。中途半端な気持ちではとても来れない。


「なぜそこまでしたのか……理由を聞かせてもらおうか、『呉崎(くれざき) みなみ』」

 


 みなみはリュックサックを開けた。すると中からは大量の人形が出てきた。


「これは……ペンタロウか」


「ペンギンズの選手やチームの成績には興味がない。でもペンタロウが大好きでたまらない!ペンタロウのそばにいられるなら、それ以外は全部捨てちまっても構わないのさ!」


 熱狂的なペンタロウファンだった。この異質な存在をつばめがどう扱うか、注目が集まった。



「フム……きっかけは人それぞれだ。ペンタロウがあなたを引き寄せたというのなら、きっと彼も喜ぶ」


「……それじゃあ!」


「私の祖父、正一金政もスカウトされて初めてこのチームを知った。あなたもペンタロウと共にいるうちに自然とペンギンズへの愛が強まることだろう!」


 5人目が決まった。しかもペンタロウに次ぐ新たなマスコット、もしくは二代目ペンタロウの候補になれる人材を手に入れた。




「ペンギンズ大好き芸人の『初台(はつだい)幡ヶ谷(はたがや)』です。試合前のトークはもちろん、イニング間に空いているお店の紹介ができればと思ってます」


「テレビや営業の予定が全然ないから毎日でも入れます。ネタは三流でもペンギンズ愛なら一流……ってやかましいわ!」


「ふふふ……面白そうだ。今日から頼むぞ」


 売れないお笑いコンビが6人目、7人目の椅子を勝ち取った。つばめは彼らが芸人であることは知らなかったが、球場の外野席でその顔をよく見ていた。2人は本物のペンギンズファンだった。



「わしは今年で85歳……伝説の大投手、正一金政の現役時代をこの目で見ております」


「ほう……それは素晴らしい。日本プロ野球史上最も偉大な選手の語り部となってくれるのか?」


「いえ、今回は試合中に観客を楽しませる者を募集していると聞きました。ですから音楽です」


 演歌や浪曲でも歌うのか、日本の歴史ある楽器でも演奏するのか……どの道この老人がチームに入るのは無理だろうと皆は思った。



「おお……!」 「まさか……」


 彼が披露したのはエレキギターだった。この力強い音なら観客を高揚させられる。


「世代的には一応ありえるのか……エレキは」


「しかもいま演奏しているのは一つ前の球団歌だ!このアレンジなら現代でも通用するぞ!」


 85歳という年齢を感じさせない若々しさがある。かつては『新宿の若大将』と呼ばれ、クラブハウスや小さな劇場で腕を振るっていた。



「さすがに毎日は厳しいですが……」


「体調が整った日だけ参加してくれたらいい。あなたがいる日はラッキーということにする」


 不定期での登場になるが、8人目の合格者だ。これで最年長は85歳、最年少は10歳と確定した。どんなチームになるのか、現時点では全く予想できない。




 新宿の若大将以降は合格者が出ないままオーディションは終了した。現在午後1時で、全体練習が始まるまで少し時間がある。


「一度クラブハウスに戻りますか?」


「そうだな。頭を切り替えないと」


 合格者たちへの詳しい説明はスタッフや元からいる4人のメンバーに任せた。ちなみにこの4人の名前は『ハチ』、『フチュ』、『イナ』、『タカイ』だ。


 ハチが一番の古株だが、年長なのはタカイだった。豊満な身体を誇るのはフチュ、背が高く足が長いのがイナ。彼女たちは個性豊かな新人たちを支える大仕事を与えられた。



「どんなショーになるか楽しみだな……ん?」


「うう………」


 つばめが球場を出ると、受付をしていた入口の前で膝をついて立ち上がれずにいる少女がいた。大きな荷物が横に転がっていた。


「あの女、体調が悪いのか?なぜ誰も助けない?」


「ああ……彼女ははるばる秋田からオーディションを受けに来たらしいんですよ。ですが飛行機は遅延、焦ったせいで電車の乗り換えも失敗……ぎりぎり受付終了に間に合わなかったそうです」


 万全を期したはずが、不運が重なってしまった。目の前が真っ暗になり、足に力が入らなかった。



「なるほど。気の毒だが運は大事だ。高校時代にあと1試合投げていたら肩が壊れてプロになれなかっただろうが、チームが敗退したおかげで夢を叶えたピッチャーがいる。何が幸いするかわからないと言っていたな」 


「………」


「逆に味方のくだらないエラーのせいでスリーアウトにならず、次のバッターの打球でピッチャー返しを受けたやつもいる。あれはかわいそうだった……ん?」


 スタッフと話しながら少女のそばを通り過ぎようとすると、その少女がつばめの前に立っていた。起き上がる気力すらなかったはずなのに、その目は輝いていた。



「今の話……青川(あおかわ)選手と奥選手のエピソードですよね!?奥選手の話は有名ですけど、青川選手のことを覚えている人がいるなんて!」


「………?」


「飛ばないボールと相性がよくて、あの時はすごいピッチャーが現れたと思いました。あなたもきっとそう………え!?監督!?」


 つばめだと知らずに近づいたようで、再び膝から崩れ落ちそうになった。ぎりぎりのところでつばめが支えたので彼女は倒れなかった。

 フリーターの女……元陸上部。短距離走が得意。


 クリスチャンの女……歌唱力ナンバーワン。


 呉崎みなみ……和歌山からきた、ペンタロウの大ファン。ペンギンズではなく、あくまで目当てはペンタロウ。名前の元ネタは本州最南端の『クレ崎』。


 初台・幡ヶ谷……ペンギンズファンの芸人コンビ。芸能の仕事がないのでいつでも勤務可能。名前の元ネタは首都高4号線『初台』と『幡ヶ谷』。


 新宿の若大将……85歳に見えない若々しさを誇る、エレキギターの達人。名前の元ネタは首都高4号線『新宿』。


 ハチ、フチュ、イナ、タカイ……旧チームのメンバーたち。名前の元ネタは中央自動車道の『八王子』、『国立府中』、『稲城』、『高井戸』。今回のパフォーマンスチームのメンバーの名前は、八王子から外苑に至るまでの高速道路のインターから取った。ただし呉崎のように一部例外あり。

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