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意外な合格者

 パフォーマンスチームの新メンバーを決める緊急オーディションが始まる30分前になった。外苑球場の周辺はマスコミや警察も集まり騒々しかった。


「スゲー人数だ。今日だけで終わるのか?」


「それが……今のところ100人くらいしか参加を表明していません。ほとんど野次馬です」


 この場に数千人、もしかしたら1万人はいるかもしれないことを考えたら少ない。参加者が少ないほうが当然進行は早く、スタッフたちは助かる。


「冷やかしや売名の連中がもっと来ると思ったんだがな。恥をかくのが怖いのかな」


「間違って合格したらチームの一員だからな。それも面倒だろ」


 ペンギンズの様子は今や全国で大きく報じられる。醜態を晒し悪名が広まるリスクを考えると、中途半端な思いで参戦することはできない。そう考えると100人でもよく集まったと言えるだろう。



「おおっ!来たぞ!」 「つばめ監督だ!」


 つばめが現れると地鳴りのような歓声が起こった。ファンと記者が一斉に殺到したが、ボディーガードが完全に守っているので距離があった。


「つ・ば・め!!つ・ば・めっ!!」


「監督!平日の朝から球場に駆けつけたファン、そしてテレビの向こうから見守る視聴者にせめて何か言葉を!」


 つばめは何も語らないまま足早に球場内へ入った。参加者と球団が許可したマスコミしか中には入れず、大量の野次馬とはここでお別れだ。





『いよいよ始まりました、前代未聞のオーディション!進行状況次第では後の番組の予定が変更となる場合がございます、ご了承ください』


 審査員はつばめに加え、4人のパフォーマンスメンバーたちだ。仲間になる人間を自分の手で選ぶ。つばめたちがホームベースのあたりに座り、受験者はその前に立つ。


『最初に現れたのは……あっ!彼は大物動画配信者の『ミスター純二』です!チャンネル登録者数は2千万人以上、撮影チームを引き連れています!』


 このオーディションを生配信していた。自らの挑戦を動画のネタにしようという魂胆だ。


「どーもこんにちは!ジュンツーチャンネル、今日は特別編!東京の外苑球場から、あの正一つばめ監督と夢のコラボが実現だ!」


 自身が連れてきたカメラに向かって話すと、つばめのほうを向く。そして両手を広げた。


「名乗らなくても知ってるでしょうが、俺はミスター純二!まずは挨拶代わりにハグを…」 


 つばめを相手にしても自分のペースで話し続ける。数々の奇抜な企画で若者たちの支持を集めている彼は、いつも通りに振る舞えば問題ないと思っていた。



「名前はミスター純二っと……名前はわかった。何ができるのか、さっさと教えろ」


「……へ?」


「時間制限がある。私はどうでもいいのだが、早くしないと困るのはあなたの方だ。試合をどうやって盛り上げるのかアピールしろ。あと30秒しかないぞ」


 野球ばかりを追い求めていたつばめは流行りのものに興味を持たず、ミスター純二のことを全く知らなかった。変な男としか見ていない。


「……そ、そうだな。コラボができる。俺が配信者の仲間を連れてきてもよし、選手たちに出演してもらってもいい!」


「……………」


「『外苑球場で野球を見ながら野球ゲームをやってみた』、『ビールを飲み比べてみた』……バカウケ間違いなしの企画もコマーシャルも何でもできる!」



 彼が話しているとタイマーが鳴った。つばめは一切表情を変えないまま音を止め、スタッフを呼んだ。


「……あなたは面白くない。もう結構、次」


「ちょ、ちょっと待て!俺は登録者2千万だぞ!俺の力があれば……うげっ!」


 球団スタッフの中でも特に屈強な男たちが、配信者一行を排除する。外野まで無理やり引きずると、まとめて投げ捨てた。




「……俺が合格できないんじゃ誰もできないぞ!俺以上に盛り上げられるやつはいない!」


 まさに負け犬の遠吠えだが、大物を雑に退場させたことで早くも異様な空気になった。そして二人目の受験者が現れたが、報道陣はまたしてもどよめいた。


「………名は?」


「…はい!『代々木(よよぎ) (たま)』です!小学四年生です!」


 ランドセルを背負った女の子が現れた。緊張しているが、しっかりとつばめの目を見ていた。



「その格好はどうした。学校は?」


「………どうしてもここに来たかったから……学校に行くふりをしてサボりました」


「ふふふ……私もペンギンズのために何度も同じことをした。どうやって親を騙すか、頭を使った」


 怒られるかと珠は身構えたが、つばめの笑顔で気分がほぐれた。そもそもつばめは今も高校に全く通っていないのだから、このことで誰かを叱る資格はなかった。



「それで……何を見せてくれる?」


「はい!私が得意なのはリコーダーです!今から選手たちの応援歌を吹きます!」


 珠はランドセルからリコーダーを取り出した。まずは海田鉄人の応援歌を、続いて右打者の汎用応援歌を披露した。緊張のせいかミスもあり、普通の小学四年生のレベルだった。


(ぷぷぷ!天才なのかと思ったらどこにでもいるただのガキか!俺以上にボロクソに言われるな)


 外野にいたミスター純二は心のなかで大笑いしていた。不合格は確実、あとはどれだけ罵倒されるかを楽しみに待っていた。



「………素晴らしい。まずは一人、合格だ!今日からあなたはペンギンズを支えるメンバーだ!」


「は………え?」


 つばめは立ち上がり、珠と握手をした。ミスター純二や報道陣よりも珠本人が驚いてしまい、言葉を失った。



「これからよろしくね、珠ちゃん!」


「は………はいっ!」


 4人の先輩たちに迎えられ、珠はようやく笑顔を見せた。椅子が用意され、つばめたちと並んで座った。


「どうなってやがる!?あんなガキより俺のほうがずっと上だろうが!ふざけやがって」


「しかしあの監督だ。子どもに情けをかけるような人間には思えないが……」


 子どもだろうが余命僅かな病人だろうが、それだけで優遇するほどつばめは甘くない。不要だと判断すれば容赦なく切り捨てるので、珠はミスター純二を凌ぐ何かを持っていたと考えるのが妥当だ。




「この華麗なアクションで……グゲゴッ!!」


「ぼくは早口言葉が上手です。東京特許きょきょきょ………舌が………」


 珠に続く合格者はなかなか現れない。明らかにレベルが低い者もいれば、なかなかのものを持ってはいたが合格ラインには届かなかった者もいる。


「男は全員落とすつもりじゃないのか?公平なオーディションのふりをして、結局女だけのチームを作るつもりなんだ」


 そうでもなければ自分が落とされた理由がわからない。ミスター純二はまだ恨み節を吐いていた。




「ワタクシは『永福男爵(えいふくだんしゃく)』、マジシャンです」


 黒いシルクハットを被った中年の男が礼儀正しく頭を下げた。無名のマジシャンで、彼を知っている者は誰もいなかった。


「いい服を着ているでしょう?だから永福男爵と呼ばれているのですよ。ええ(ふく)……」


「……はっはっは!なるほど!」


 くだらないダジャレが飛び出したが、なんとつばめには好評だった。男爵が張り倒されるのではないかと周りは気が気でなかった。



「では、ワタクシのマジックをご覧ください。この両手をじっくり見ていてくださいね……っと!」


 腕とは全く関係ないシルクハットから花が咲いた。本格的なマジックではなく、マジック漫談と呼ばれる種類の芸だった。



「………よし、合格だ」


「お前の基準はどうなってるんだよ!?」


 2人目の合格者が出た。初めての男性メンバー誕生で、チームの行方は全くわからなくなった。

 ミスター純二……登録者数2千万以上を誇る動画配信者。つまらないので不合格にされる。


 代々木 珠……ペンギンズファンの女子小学生。リコーダーで応援歌を吹く特技を認められ、合格。名前は首都高4号線『代々木』から。


 永福男爵……オーディションに合格した中年のマジシャン。やってることはマギー師弟、見た目は男爵○ィーノ。名前は首都高4号線『永福』から。

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