オーディション
「ふ―――っ………」
『汗を拭いながらベンチに戻る本松!7回2失点なら文句はないでしょう!』
序盤から失点を重ねたジューシーズは攻撃でも精彩を欠いた。つばめが小細工に頼ったのは最初だけで、あとは何もしなくても相手が勝手に沈んでいった。
『球数は100球を超えていますが……どうやらこの回で交代のようです。七回表が終わって7対2、ペンギンズがリード!』
つばめがジューシーズのリズムを乱さなければ、逆に5点を追う展開になっていたかもしれない。本松は早々にKO、相手の投手陣を打ち崩せずに完敗……そうなる可能性が高いと思ったので、つばめはまともに戦おうとせず邪道に走った。
『ペンギンズのラッキーセブンです!お江戸音頭でチームに声援を送りましょう!』
ペンタロウと4人のパフォーマンスメンバーが出てきて、歌に合わせて身体を揺らす。古くからの伝統であるラッキーセブンのお江戸音頭は明日からも続くだろうが、それ以外は全くの白紙だ。
「交流戦も最終盤だというのに、グラウンドの外に力を入れて大丈夫なのか?あの監督は……」
「正気とは思えないが……」
外で暴れたおかげで今日の試合に勝てそうだとは気がつかない観客たちは、つばめの行動に首を傾げるばかりだ。
『まだまだ突き放すぞ!ゴーゴーペンギンズ!』
その後はペンギンズが危なげなくリードを守り、ジューシーズ戦の勝ち越しを決めた。
「これで交流戦は8勝7敗……あと一つ勝てば5割確定、二つ勝てば貯金ができるのか!」
「上との差が詰まってるぞ、いい感じだ」
攻守共に見どころたっぷりで快勝し、駅に向かうペンギンズファンの足取りは軽い。朝や試合前の騒動のことはすでに頭の片隅に追いやられ、勝利の余韻に浸っていた。
「日曜の加林は確実に勝てるが、明日の能登と誰が投げるかわからない明後日はきついだろう」
「能登か……頑張って欲しいけどな」
交流戦を5割で乗り切れば御の字で、どこかで1勝してくれればいい。初登板から3連勝の加林に皆が期待していた。
「派手にやったな……びっくりしたぜ。たかが1勝のために馬鹿な真似をしやがる」
「あなたが先にやったことだ。私なんかを助けるためにこれまでの功績を捨てる覚悟とは……」
つばめとペンタロウの中の人の反省会だ。互いに相手に知らせないまま、自分の首が飛ぶかもしれない大勝負に出ていた。
「俺はもう構わない。ペンタロウとしていろんな場所でいろんなことをさせてもらった。たくさんのスターたちと知り合えたし、大変なこともあったが思い出すのは楽しいことばかりだ」
「……その言い方、まるで引退するような……」
「ハハハ、俺が自分から辞めるわけがない。しかし予感があるんだ。そろそろ俺の身体は限界、きっと俺はペンタロウとして死ぬ。だがそれでいい……後継者を見つけられなかったのは唯一の心残りだがな」
たった一人でペンタロウの中に入り続けてきた。身体への負担は大きく、先は長くないことを彼は悟っていた。
「………やめろと言ってもあなたはやめないだろう。ならばその最期までペンタロウであり続け、ペンギンズのために尽くせ」
「そうさせてもらう。できれば俺が生きているうちにペンギンズの優勝が見たかったが……」
荒れ果てたペンギンズを立て直すには時間がかかる。タイムリミットまでにはとても間に合わないだろう。しかし彼はそれでいいと思っている。彼が何もないところからペンタロウに命を吹き込んだように、新たなペンタロウもチームの黄金期もいつか必ずやってくる。つばめを見ているだけでそう確信できた。
「もしあなたがいなくなったら……私が二代目になろう。ずっと見てきたんだ、立派に継げるはずだ」
「つばめが?ハハハ、そりゃ無理だ。お前はブラックユーモアと不謹慎の微妙な違いがわからない。過激すぎてすぐにクビにされるだろうよ!」
これから鍛えたとしても、つばめにペンタロウはできない。一代限りの技術として、完全燃焼しようと彼は誓った。
『パフォーマンスチームの新メンバーを決めるオーディションの詳細を発表してください!』
『明日の午前10時から外苑球場で行う。年齢、国籍、性別など一切不問だ。ペンギンズを勝利に導きたい、己の技術を大勢の前で披露したい……その思いさえあれば大歓迎だ』
若い女性ばかりを集める従来のチームとは違う。来る者拒まずの大規模なオーディションになりそうだ。
『ダンスができなくてもいい。歌、楽器、一発芸……チームを応援し場を盛り上げることができるものがあれば外苑球場に来るように』
『一発芸?手品やお手玉でもいいと?』
『面白ければ何でもいい。週末だけ、または決まった曜日と時間だけしかできなくても構わない。これ以上ないチャンスを逃すな』
何人来るのか、そのうち何人合格するのか、つばめはそのオーディションにどの程度関わるのか……明日になってみないとわからないことがたくさんあった。
「明日か……学校があるしな」
「もっと早く言ってくれないと行けないよ」
興味はあるが、今からでは無理だと断念する者たちが日本全国に大勢いた。頑張って外苑球場まで行ったとしても、受験者が何千人もいれば抽選になり、何もできず帰ることになるかもしれない。
「……いや、私は行く!大好きなペンギンズで働ける二度とない機会、行かないと絶対に後悔する!」
「ちょっと待て!夜行バスはもう終わっちまったし、新幹線も明日だ!始発に間に合ったとしても秋田からじゃ……」
「……飛行機がある!朝7時までに空港に着けば最初の便に乗ってぎりぎり間に合う!貯めたお金を使って……早く準備しなきゃ!」
とある北国の少女は、荷物をまとめて真夜中に自転車で空港へ向かった。実はもう少しゆっくり出発しても問題なかったのだが、逸る気持ちを抑えきれずに家を飛び出した。
この少女に限らず、本気でつばめの誘いに応じようとする者たちは迷わなかった。翌日の10時からオーディションは始まるが、人数が多ければ多いほど時間がかかるので、遅れそうでも諦める必要はない。逆に人数が少なければ、合格の大チャンスだ。
「1万人くらい来たらどうしますか?全員を見るには時間が足りませんよ」
「どんな手を使ってもオーディションは明日の午前中に終わらせる。何人加入するかわからないが、夜の試合でお披露目だからな」
つばめはリラックスした体勢で、みのりに髪を乾かしてもらっている。他人事のように話しているが、スタッフに丸投げするわけにはいかない。いつもより早く球場に向かい、自身も審査員として参加者たちの前に出る。
「ペンギンズ愛に満ちた方がたくさん来てくれるといいですね」
「ああ。どんなやつが来るか楽しみだな」
つばめがのんびりあくびをしている裏で、混乱を最小限に抑えるための会議が続いていた。警察に助けてもらったほうがいいという意見も出たが、つばめがオーディションの開催を宣言した時点で警察は出動を決めていた。超厳戒態勢の一日になりそうだ。
DeNAはFA移籍した桑原の人的補償に捕手を選択した。DeNAは捕手が余っているのか足りないのかよくわからないチームと言われているが、壁は何人いても困らないので他に獲りたい選手がいなければ捕手一択。




