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わからない

『スターティングメンバー発表が終わり、パフォーマンスチームによるダンスの時間です……と言いたいところですが……』


 たったの4人しか残っていない。中止にするか、寂しい見た目を承知でやるかのどちらかだ。進行役のDJにもどうするか伝えられておらず、言葉に困っていた。すると、


『………え?監督?』


「マイクをよこせ」


『は、はいっ!』


 つばめが出てきて、強引にマイクを奪い取った。そして視線だけでDJの立ち位置も奪い、ペンタロウの隣に立った。



(つばめ……何をする気だ?)


 ペンタロウが見守るなか、約3万の大観衆に向かってつばめは語り始めた。




『これから登場する4人を盛大な拍手で歓迎するように!たった4人でもグラウンドに立つことを選んだ勇気ある者たちを褒め称えよ!』


「おめーが他の12人を辞めさせたんだろ!」


 ヤジが飛んできてもつばめは全く気にしない。仮に物が投げ込まれたとしてもそのまま続けただろう。



『私は彼女たちがチームに残った理由を聞いた。4人中3人はペンギンズを心から愛し、ペンギンズのために身を捧げることを誓った素晴らしい者たちだ!』


 本物のペンギンズ愛を持っているので、この程度の騒ぎでは揺らがない3人だ。選手を間近で見れる、外苑球場のグラウンドに立てる、何よりチームのために働くことができる。こんな最高の仕事はどこを探しても見つかるはずがない。


『残る1人はペンギンズファンではなかったが、覚悟を決めて飛び込んだ世界を簡単には離れないと決意している。共にチームを抜けるように圧力をかけられても屈さなかった精神力の持ち主だ!』


「おおっ……!」


「確かにあの状況なら残るほうが勇気がいる。よほどペンギンズが好きか、この仕事に真摯かのどちらかだ!残った4人は大したやつらだ!」



 つばめは意図していたわけではなかったが、結果的に優れた4人を選抜し、他の12人を間引いた形になった。その選ばれし4人が登場すると、いつもよりずっと大きな歓声で迎えられた。


『さあ、このチームでは最後となる試合前のショーだ!ペンギンズの勝利を祈願し、力強いパフォーマンスを見せてくれ!』


「はいっ!」


「ゴーゴーペンギンズ!ゴーゴー!」


 野球とは関係のない歌やダンスには興味がなく、トイレや売店へ行く時間にするファンもいる。しかし今日はほとんどの観客が座席に座って、手拍子やかけ声で盛り上がった。


 歌が終わると4人のメンバーは裏へと下がっていく。その際に全員がつばめと握手をした。これで終わりのような雰囲気になったが、実は彼女たちの出番はまだ試合中に何回もあった。



『今年最高の出来だった!もう一度大きな拍手を!』


 つばめが促すと、超満員の観客席から拍手や歓声、口笛が飛ぶ。これも異例な光景だ。しかしサプライズはまだ終わらなかった。


『これで最後だからと力を出し切ったのかもしれないが、今日は終わりではなく始まりだ。明日の午前中に新たなチームを結成するためのオーディションを開催する!』


「えっ!?」 「オーディションだって!?」


『この4人を中心とした、真にペンギンズを力づけるパフォーマンスチームが誕生する!詳細は試合後の会見で話すので、僅かでも関心があるのなら見逃さないように。もちろんそれよりも大事なのは言うまでもなく、これから始まる試合だ!』



 力強く言い放つと、つばめはベンチに戻っていった。ペンタロウも持ち場へ向かい、マイクを奪われたままのDJは右往左往していた。


(やりやがったな、つばめ。心臓に毛が生えているどころじゃないぞ、こいつは。さすがは金政さんの孫……俺が心配する必要はなかったな)


 批判の声や采配のストレスで心を病む……そんな展開にはとてもなりそうにない。ペンタロウの着ぐるみの中で男は笑った。



「お前がこんなことをするなんて驚いた。興味がなかったはずなのに、どういう心変わりだ?」


 自分の発言でパフォーマンスチームが崩壊した罪滅ぼしのようだが、つばめに限ってそれはない気もする。もうすぐ試合が始まるので早めにすっきりしたいと思った国村に対し、全く予想できなかった答えが返ってきた。


「明日以降どうなるかはわからないが……とりあえず今日の試合に勝つためだ」


「……勝つためだと?あのマイクが?」


 試合前のイベントが勝敗に影響を与えるはずがない。中止されたとしても選手のやる気やコンディションは何も変わらない。国村ですらわからないのだから、ベンチにいる誰もつばめの考えを理解できなかった。





「わからん女の子だ……何がしたいんだ?」


 朝から内紛でニュースを騒がせたと思ったら、監督自らマイクを使って観客を煽った。ジューシーズの先発、戸崎(とさき)は困惑していた。


「あんな目立ちたがりではなかったはずだが……昨日の失言もそうだが、どこか変だよな」


「心を病んで発狂寸前なのかもしれないな、かわいそうに。素人の女子高生にプロ野球の監督なんかやっぱり無理だったんだ」


 周りの選手たちも戸崎と共に一塁側のベンチを見つめ、つばめに同情している。知らないうちにチーム全体のルーティンを乱されていた。




『2年目の本松、今シーズン初登板の初回は上々の立ち上がり!』


 他にいないので仕方なく昇格させたようなピッチャーで、甘い球も多かった。それでも打ち損じに助けられ、無失点で初回を終えた。


『ペンギンズのバッターは飯館!ド・リーグ屈指の俊足を誇る飯館でも、クイックの上手い戸崎と強肩のキャッチャー横山(よこやま)が相手では盗塁は難しいでしょう!』


(こんな相手だからこそやりたくなってくるな)


 盗塁のためにはまずは塁に出なければならない。セーフティバントも考えたが、先頭打者なので戸崎の調子を探ることにした。



『ピッチャー戸崎、第1球!』


(なんだ?この球は………)


 つばめの奇行にペースを乱されていたせいか、不用意極まりない初球だった。様子見を考えていた飯館だったが、これを見逃したらバットを持っている意味がない。そう言い切れるほど甘かった。



『打った!打球は伸びる、伸びる!』


 ホームラン狙いではない、ちょうどよく力が抜けた理想的なスイングだった。レフトスタンド最前列に打球が吸い込まれると、球場は大きくどよめいた。


『入りました!ホームラン!飯館のホームラン!』


「入ったか……ははは、ホームランになっちゃえば盗塁はできないな」


 大方の予想に反してペンギンズが先制した。飯館が三塁ベースを回ったあたりでも、まだ歓声よりも驚きの声が勝っていた。



『ホームイン!ペンギンズ、1球で先制!』


「くそ……しかしこれはサービスだ。飯館にじゃない、あのかわいそうな監督に1点あげただけだ!きっと大はしゃぎで喜んでいるはず……え?」


 負け惜しみを口にしながら戸崎がペンギンズベンチを見ると、ハイタッチの輪の中につばめの姿はどこにもなかった。攻撃が始まってから1分、早くもいなくなっていた。


(……意味不明すぎる!一番いいところだろ!?)


 気持ちを切り替えるどころか、ますます混乱してしまった。



「監督、ペンでも落としましたか?ずっとしゃがんで……いっしょに探しましょうか」


「いや……気にしなくていい」


 つばめはベンチの中にいたが、マウンドから見えないように隠れていた。バッターではなくつばめと戦っている戸崎を嘲笑うかのように。



「げっ!!」


『打った!今日は2番に入った岩木も続きます!ライト前ヒット!』


 落ち着かないまま投げてしまえばこうなる。しかもこれで終わらなかった。


『ああっ!後逸だ!ライトが逸らした!』


「よしっ!」 「はぁ!?」


 ジューシーズ全体が試合前から平常心を奪われている。完全に流れを失っていた。

 バレットクラブ、ついに新日本から消滅!代わりにできたユニットには何の魅力も感じませんが、こんなユニットを作る時はだいたい大掛かりな再編の前なので楽しみにしています。

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