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中の人

「よし、やった!」


『一塁送球、アウト!試合終了!』


 初回に7点を奪い、その後も点差を詰められた直後の攻撃で取り返す。まさに隙のない試合運びで、ジューシーズとの初戦に勝利した。



『今日のヒーローは6回2失点で2勝目の田富投手、そして勝ち越しのタイムリースリーベースを打った名村選手です!』


 ここだけ聞くと田富は先発で名村はスタメンマスクだと勘違いするが、実は2番手と代打出場だ。つばめの采配が冴えた結果だ。


「明日も頼むぞ!いよっ!名将!」


「何が名将だ!選手たちが頑張っただけで、あいつはただのギャンブラーだ!」


「今日はたまたまうまくいったが、こんな調子じゃシーズン完走できねーぞ!」


 快勝してもつばめへの非難の声は止まない。大きなきっかけがない限り、外苑球場ではこれが続くだろう。



『初回から代打で出ろと言われてどうでした?ベテランの名村選手でも初めての……おっとと』


『そうですね。表の攻撃中に監督から「早いうちに出番が来るから用意しておけ」とは伝えられていましたが……うわっと』


 アナウンサーと名村が揃ってペンタロウの餌食になった。頭や頬をおもちゃのマイクで突かれ、インタビューの邪魔をされた。ペンタロウおなじみのちょっかいで、これもパフォーマンスの一つだった。


「相変わらずよくやるぜ……」


「海田鉄人がスターになるまではペンタロウがチームで一番人気だったからな。唯一無二のマスコットだ」


 個性派マスコットとして他球団のファンからも愛されるのがペンタロウだ。可愛らしい見た目はもちろん、その外見からは想像できない過激な言動も人気を集める理由だった。喋れないのでスケッチブックを使ってコメントしている。



「弱いチームを盛り上げたいと頑張っているペンタロウだが……あの監督は知らんぷりだ」


「あの態度を直せって誰かが注意してくれたらいいんだが……言っても聞かないだろうな」


 つばめのペンタロウへの冷たい無関心はファンの間でも話題になり、彼女を批判する材料になっていた。高塚前監督がペンタロウをよく気遣い、ダンサーたちのような裏方への労いを忘れなかったことと比べられていた。


 ただし高塚が本心からそうしていたかはわからず、自分をよく見せるためという噂もあった。それでも何もしないつばめよりずっとマシだと、高塚を惜しむ声が増えていた。





「………おお、つばめか。いや……呼び捨てにしたらいけない。監督様、だったな」


「つばめでいい。それにしても、今日もキレのある見事な動きだった。衰え知らずだ」


 つばめと話すこの中年男性こそ、ペンタロウの『中の人』だった。元はただの球団職員だったが、約20年間一人でペンタロウを演じている。


「いやいや、最近は疲れが溜まる一方だ。失敗したと思う時も増えてきた」


「私が生まれる前からペンタロウの価値を高め続けているんだ。少し休んだらどうだ?」


 オフシーズンも球団の番組に出演し、地方のイベントにも登場する。選手以上に多忙を極めていた。



「俺のことは心配するな。それよりつばめはどうなんだ?ストレスは絶対あるはずだ」


「好きなことをやらせてもらっている。楽しみのほうが勝っているから心配はいらない」


「なるほど。それにその指輪……過酷な監督業の疲れを癒やしてくれるやつがいるみたいで安心した。金政さんが亡くなってからつばめは一人だったからな」


 2人は以前からの知り合いだった。ペンタロウがデビューした時は金政が大きな影響力を持ち、ペンギンズに積極的に関わっていた。国村や能登と同じく、彼も赤子のつばめを抱いた経験がある。



「互いに身を削り続けている。異常や不調に気がついたら躊躇わずに指摘しよう」


「そうだな……それなら一つ聞きたい。監督になってからは俺のパフォーマンスの時間にいつも席を外しているよな。なぜだ?俺のキレが鈍ったか?」


 以前は喜んで見ていたのに、つばめはすっかり変わってしまった。自分でもわからない異変があるのかと彼は不安に思っていた。


「いや……むしろ昔よりもよくなっている。磨き上げられた職人芸なのに若々しさまである。これで完成というところからさらにレベルアップしている」


「おおっ!そこまで褒められたら自信が出てきたな」


「ペンタロウショーに夢中になりすぎてしまい、采配に影響が出ると困るから泣く泣く中へ下がっているだけだ。意味のないダンサーどもとは違う」


 2人は同じタイミングで笑った。つばめはこれまでと変わらずペンタロウのファン、それがわかっただけで彼は満足だった。疲れが吹き飛び、明日からの仕事にも気合いが入った。






『ここでペンタロウからの挨拶タイム!「ペンギンズファンの皆さん、そして餃王ジューシーズのファンもようこそ外苑球場へ!」』


 スタジアムDJがペンタロウの書いた字を読むと、両チームのファンから歓声が起こった。試合前にはペンタロウの漫談のような時間がある。


『なになに、「共に日本の野球を盛り上げていきましょう。今日のお昼のニュースで話題を独占した後楽園の棚橋監督のように」……ってオイ!!』


 週刊誌に泥沼の女性問題をスクープされてしまった他球団の監督をネタにして皆の爆笑を誘った。この制御不能ぶりも人気の理由だ。


『「心当たりのある方は早めに口止め料と慰謝料の準備を、ついでにぼくへのお小遣いも」……やかましい!これ以上は怒られますからね、終わり終わり!』



 拍手と共にペンタロウのコーナーが終わる。ベンチ内でつばめが満足そうな顔で拍手をしている姿も大画面に映し出された。


「素晴らしい……こういうのはどんどんやれ」


 後楽園ビッグリーダーズが大嫌いなつばめは大絶賛だ。他球団は全て憎き敵だが、特にビッグリーダーズを敵視していた。



『続いてはペンギンガールズによるダンスタイム!皆さんもいっしょにダンスで気分を上げていきましょー!ゴーゴー!』


「……………」


 ダンスチームが出てくるとつばめは視線を下に向け、データを見ながらメモを書き始めた。センター奥のスコアボードではつばめを映し続けていたので、一瞬で冷めた目になったのもしっかり大観衆に見られてしまった。


「……あの監督、パフォーマンスチームに心底興味がないんだな。好きとか嫌いとかもない」


「無関心を徹底しているが……どうなんだろうな」


 試合前やイニング間のダンスなどおまけの中のおまけに過ぎず、ファンは野球を見るために球場に来た。そしてペンギンズファンに勝利を届けるのがつばめの使命であることを考えれば、余計なものに気を取られていないのはいいことだ。





「バカヤロ―――ッ!!」


「客をナメてんのか!クズ!クズ!クズ!」


 先週の登板で14失点の奥は今日もいいところなく、三回までに7点を失った。打線は昨日とは違い沈黙、ジューシーズの助っ人左腕レーンの前にランナーすらまともに出せない。


『五回も三者凡退!こうなるとペンギンズファンの楽しみはペンタロウショーのみ!』


 後方宙返りを狙うペンタロウに大歓声が送られるも、この着ぐるみでは体操の金メダリストでも不可能な挑戦だ。


「………!!」


『やはり失敗!ペンギンズの悪い流れを変えられずガッカリのペンタロウ、ゆっくり戻っていきます』


 いつもより動きが鈍い。チームの劣勢が原因だろうが、打ちどころが悪かったようにも見えた。皆が心配するなか、ペンタロウは裏に下がっていった。

 棚橋選手、お疲れ様でした。そしてEVIL……。

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