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パフォーマンス

「つまんねーぞ!金返せ、金!」


 交流戦は早くも最後の1週間だ。ペンギンズが戦うのはファ・リーグの古豪、『餃王(ぎょうおう)ジューシーズ』。餃子をメインとした全国チェーン店のチームを外苑球場に招いての試合だったが、開始10分でもう荒れた。


『早くも3点目!立ち上がりが課題の村吉、初回に失点は相変わらずだが今日は特にひどい!』


「つばめ帰れ!村吉死ね!」


「反省してねーな!猿以下かよ!」


 村吉は連敗中だ。毎回似たような崩れ方をして、しかも投げるたびに悪くなっていく。


「こんなやつ出すなよ……いや、代わりがいないか」


「しかしこのままってわけにもいかないだろう」


 来週は交流戦の予備日があるため、金曜日まで試合がない。ローテーションを再編できるので、村吉の使い方も変わるだろう。



『三振!三者残塁ですがジューシーズは3点先制!』


 初回から8番打者を申告敬遠し、ピッチャーの三浦(みうら)で確実に抑えた。村吉は40球も投げてしまい、いきなり長い守備になってしまった。


「ストライクゾーンが狭すぎますよ。よほどコントロールがよくないと勝負になりません」


「そうか……それなら逆転できそうだな」


 主審の判定が公平に厳しければ望みはある。三浦も制球力は並かそれ以下だ。


「基本はじっくり見ていくことだが、甘い球は迷わず叩け。あまりにも振らないと相手が楽になる」


 つばめは立ち上がり、ブルペンに連絡を入れる。投手コーチを通さず、独断で動いた。




『ボール!三浦、がっくりとうなだれる!押し出しで同点、試合は振り出し!』


『いい球ですけどね……この調子だと今日は長い試合になりそうですよ』


 つばめの期待通り、三浦も苦しんでいる。追いこむところまではいっても最後のストライクが入らない。8番の大矢木に痛恨の四球を与え、3対3の同点だ。


『3点取って二死満塁、しかしバッターは9番ピッチャー。表のジューシーズと同じ形!』


 村吉はピッチャーの中でも特にバッティングが下手だ。三者残塁という結果も同じだろうと皆が決めつけ、球場の興奮や緊張は落ち着いた。しかしつばめはそれを許さなかった。



『あっと、つばめ監督が出てきました!そしてベンチからは名村が……ピンチヒッター名村です!』


『村吉はキャッチボールをして、ベンチの中でバッティングの準備をしていたはずですよ?初回から代打ですか……』


 控え捕手の名村をここで使った。ベンチにキャッチャーは甲賀もいて、いざとなれば山内もいる。名村を出し惜しむ必要はないが、先発を初回で代えるほうが問題だった。


「どうなってんだ?目の前のチャンスに食いついて急遽予定変更か?」


「これが噂の素人采配か。もうツーアウトなのにな」


 ジューシーズのバッテリーはつばめの奇策を軽く見ていた。代打は突然の出番に心の準備ができていないまま送り込まれ、ベンチとブルペンはバタバタだ。ペンギンズはここから一気に崩れる思い、笑顔になった。



「……………」


 ところが実は違う。村吉の降板は最初から決まっていて、キャッチボールなどの動きは敵を惑わすための罠だ。戸惑ってコントロールを乱してくれたらよし、侮ってど真ん中に投げてくれたらよしの万全の構えだった。


『今年は打率1割台、打撃の調子が上がらない名村ですが得点圏打率は高め!その名村が満塁のチャンスで打席に立ちます!ピッチャー三浦、押し出し直後の初球!』


 厳しい主審でも絶対にストライクと言うような球を投げるために、バッテリーは甘いコースに置きにいった。いきなり出てきたのだから初球は見送るはずだし、振ってきても打ち損じるだろうと高を括っていた。名村を、そしてつばめを舐めていた。



「あっ!?」 「えっ!!」 


 これ以上ないチャンスボールを名村は弾き返す。この球を打たないで何を打つのかというほどの絶好球を逃さなかった。


『前進守備のライトとセンター、追いつけない!右中間をボールが跳ねる間にランナーは次々ホームイン!打った名村も二塁…いや、三塁に向かう!』


 もっと球威があればライトフライだった。慎重にいけば走者一掃の大事故にはならなかった。しかしそんな後悔は無駄なことで、つばめの作戦を暴走だと勘違いした時点で崩壊は避けられない。



『飯館も続く!ペンギンズ、7点目!』


「采配的中だ!お見事です、監督!」


「本物の勝負師だ!この試合もらったぜ!」


 ペンギンズベンチが大いに沸く。名村が代打で呼ばれた時には不安や混乱に支配されていたのに、たった3分でこの変化だ。


「4点リード……余裕ができた!次の投手は……」


「田富だ。いけるところまでいってもらう」


 心が強い田富なら判定に動揺することなく投げられる。まだ1試合しか登板していないのに、ある程度の好投が期待できる頼もしい存在だった。




『スリーアウト!この五回はジューシーズの柴田(しばた)とペンギンズのラムセスにそれぞれタイムリーが出て8対4、詰め寄られたペンギンズがすぐに4点差に戻しました』


 田富は1点を失ったが、運の悪い打球が続いただけだ。それでも崩れずに後続を断ったので、安定感がある。


『ここでペンタロウショー!全身着ぐるみの彼が空中で回転できれば大偉業!ペンギンズの久々の優勝も見えてきます!』


「ハハハ……やれやれ!」


「成功する気あんのかよ―――っ!?」


 マスコットのペンタロウによるチャレンジの時間だ。絶対に成功しないのは明らかだが、この無謀な挑戦は名物コーナーとなっていた。



「………!!」


『腰を痛打した!今日も大失敗っ!』


 案の定の結果に終わった。しかしこの体当たりなパフォーマンスに、両チームのファンから大きな歓声が飛ぶのもいつものことだ。


「監督は今日もいないのか……」


「相変わらずトイレタイム?休憩時間扱いだ」


 つばめは試合前やイニングの間のダンスやイベントに一切興味を示さず、どこかへ行ってしまう。当然パフォーマンスチームのメンバーからの評判は悪いが、どちらも相手側に接触する機会がないので冷戦状態だった。




『七回表、ジューシーズは1点を返しましたがその後のチャンスでは沈黙!田富が踏ん張りました』


 田富は6イニングを投げて75球2失点。両軍の先発投手が狭いストライクゾーンに苦しんでいたのとは対照的に、マイペースで投げ抜いた。


「お疲れ。ここで代打を出すから今日は終わりだ」


「……五回の失点はともかく、この回の失点は余計でした。これさえなければ八回も自分に任せてもらえたのでは?まだまだ自分は未熟です」


 向上心が高く、レベルの低いペンギンズの投手陣のなかでは異質の存在だ。今後もどのポジションで使っても結果を残してくれるだろう。


「田富を一流選手に育てることができなければ首脳陣は首吊りものだな。来年以降はおそらく私はいないが、残った連中の腕が問われるな」


「は……はい」 「必ず一流にしてみせます……」


「ふふふ、そう恐れる必要はない。あいつは勝手に育つ。余計な手出しさえしなければいいんだ」


 選手の成長を自分の功績にしようと考え、無理に手を加えると失敗する。素質ある若者の未来を潰してしまっては、確かに首吊りものだった。



『ペンギンズのラッキーセブンです!お江戸音頭で盛り上がりましょう!』


 ペンタロウとダンスチームがファンの前に出てくる。つばめは国村や投手コーチとの話に集中し、グラウンドを全く見ていなかった。

 餃王ジューシーズ……餃子を中心とした中華料理系のチェーン店が親会社。近年は上位争いから遠ざかっている。選手名は美浦所属の騎手から。

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