ファミリーチーム
オズマはまさかの好投で無失点だったが、12点差をひっくり返せるわけもなくペンギンズは惨敗した。
「負ける時はいつも派手に負けますね。炎上した先発に責任を取らせるやり方をしているのですから当たり前ではありますが……」
つばめが就任する前からペンギンズはずっと投壊状態だが、ここまで大敗を繰り返すことはなかった。ただし勝率は劇的に改善されている。
「批判されるのは構わない様子ですが、給料のほうは大丈夫ですか?1試合ごとに出来高が定められていると聞いています」
「そうだな………グッズの売り上げや親会社への貢献を除けば、今のところマイナスだ」
大量失点した先発を引っ張ることは継投ミスと評価され、早々に主力を何人も下げることはファンを無視した行為とみなされる。そして大敗した得点分だけマイナスとなる。
「勝ち越しているのにマイナスですって?もしシーズンが終わってマイナスだったらどうなるんですか?」
「さあ?そうならないことを願うだけだ」
足りない分の金を払えとは言われないだろう。しかし身を削る激務の果てに何も得られず、一人きりの生活に戻るのは厳しすぎる。多少は金を稼ぐための采配をしてもいいはずだが、つばめはチームを優先した。
「いざとなったら俺たちが少しずつ出し合うさ。一番金がないやつでも10万は出す」
「それは不要だ。あなたたちもいつまでプロ野球選手でいられるかわからないのだから、無駄な出費はやめなさい」
プロ野球界を去った後に収入の保証がないのは選手たちも同じだ。コーチや球団職員の椅子には限りがあり、皆が独立リーグや社会人野球でプレーを続けられるわけではない。稼げるうちに貯めておく必要がある。
「でもペンギンズは他のチームと比べて積極的に再雇用してくれますよ。フロントの重役から末端の雑用まで、元ペンギンズだらけです」
「親会社やスポンサーの企業を紹介してくれることもあるそうだ。さすがファミリーチームと呼ばれているだけあるぜ」
優秀な人材を日本中から集めるのではなく、あくまでペンギンズOBから適材適所で各ポジションに振り分ける。選手たちにとってはありがたい話だが、勝つためにベストな布陣を組めていない。
「真剣に強くなりたいと願うなら、まずはここから改革しなければな。ペンギンズに在籍した経験のない人物であっても、有能ならそちらを優先するのは当然だろうに」
「一時期その流れになった時はあった。外部から監督を呼んで、コーチ陣もよそから連れてきた。しかしチームは強くならず、雰囲気も悪くなった。ファンの評判だってよくなかったのはお前も知っているだろう」
国村に言われるまでもなく、つばめもその時期のことは覚えている。つばめから数えて3代前の監督はペンギンズとは全く関わりがなく、馴れ合いが目立つ緩いチームを変えてくれると期待されていた。厳しい指導で有名な男だったからだ。
「首脳陣と選手の間に溝ができただけで何もいいことがなかった。どんなに厳しくてもその裏に愛情や具体的な理論があればまだマシだったのかもしれないが……それ以降は今の路線に戻った」
「いや、私としてはあの時のほうが救いはあった。チームが負けたら容赦なく無能な監督を罵倒できた。自分の間抜けぶりを選手のせいにするなとコーチたちを野次ることも全く心が痛まなかった」
首脳陣をOBで固めるメリットは、どれだけ負けてもチームの平和や球場の雰囲気を守れることにあった。現役時代の頑張りと活躍を思えば、結果が出せなくてもファンは彼らを憎めない。ネットで批判を書き込むくらいはするが、スタンドから罵声の大合唱で攻撃することなどできなかった。
しかしペンギンズと縁もゆかりもない人間が相手なら、遠慮なく辞めろコールが起こる。石を投げることに躊躇いがなく、擁護の声もない。
「大好きだった選手たちを嫌いになりたくない……しかしチームのためには鬼になって不要な者を一掃する。彼らのペンギンズでのキャリアは今年で終わりだ」
雨木を獲得した男もペンギンズ一筋、肩が上がらなくなるまで投げ続けた苦労人のピッチャーだった。彼を追放するのはファンとして胸が痛むが、雨木のような選手を拾うようではチームにとって害悪だ。
「一方で明日先発する加林……彼の指名を決めたスカウトは素晴らしいな。絶対に他球団に引き抜かれないようにしてもらいたいものだな」
「………」 「………」 「………」
加林の名前しか出なかったことで、つばめに好意を抱いている若い選手たちの嫉妬の炎が燃えた。2試合連続完投勝利、しかも自責点は0。つばめの一番のお気に入りはこの加林だとチームの内外で噂されていた。
(俺だって加林と同じスカウトが担当なんだ!俺の名前が真っ先に出るようにしないと!)
(つばめを夢中にさせるのは僕だ!)
互いへの敵意には至っていないが、自分がヒーローになるという思いが強くなっている。これがチームにプラスに働くかそれともマイナスになるか、彼ら次第だ。
『試合後は雨木の二軍降格を明言したつばめ監督、明日は自慢の好投手加林で勝ち越しを狙います!』
(明日でお前も終わりだ。私がペンギンズを守る!)
グラウンドの外でも戦いがある。つばめのスクープを狙う記者はたくさんいたが、辞任に追いこむつもりでいたのは後村三恵だけだ。
「あいつがいなくなればきっとあの人も………」
1勝1敗で迎えたペンギンズとキングスの最終戦。つばめにいいところを見せようと張り切る野手陣だったが、完全に裏目に出た。
「ストライク!バッターアウト!」
「くそがっ!」
五回でなんと13三振。残る2つのアウトもキャッチャーへのファールフライとピッチャーゴロ。もちろん出塁は0で、最悪の攻撃だった。
『ショートゴロ!加林も踏ん張ります!』
「ふ―――っ………」
加林のほうはランナーを出しながらも得点は許さない。完璧な内容でアウトを重ねるキングスの武田に比べれば見劣りするが、無失点なら文句はない。
「援護は期待できない。我慢比べになるが……」
「心配いりませんよ、監督。ぼくは延長十二回までいけます」
「ふふふ……いい返事だ。頼もしいな」
こちらが一人の走者も出せずに終わろうが、相手に得点を与えなければ負けにはならない。最後まで投げ抜くと加林は誓った。
「くっ……あの野郎!」
「見てろ!すぐにこっちを振り向かせてやるぜ!」
加林の独走を許さないためには、チームを勝利に導くプレーを見せるのが一番だ。野手たちは奮起したが愛の力も無敵ではなく、時には空回りする。
「うっ!」
『スリーボールから低めに手を出してセカンドゴロ!見逃せばフォアボールだったかもしれません』
「……………」
「がっ!!」
『サードの池村、悪送球!しかもカメラマン席に送球が入ってしまった!ランナーは二塁へ!』
「……………」
つばめに見てもらうことはできたが、不快そうな目つきで睨まれている。彼らのアピールは大失敗に終わった。
(やっちまった………)
(このままじゃ近づくどころか遠くへ飛ばされる!つばめ監督のいない二軍へ捨てられちまう!)
これ以上のミスは命取りだ。派手な活躍で一気に信頼を取り返すのは諦め、堅実に少しずつアピールすることにした。今日は自分たちの日ではないと若手たちは悟り、慎重になった。消極的に思えるがこれが正解だった。
来年のプロ野球予想
(セ・リーグ)
阪神……主力が若いので連覇の可能性大。補強も積極的で言うことなし。抑え候補の新外国人モレッタ投手は失点するたびに「漏れた」「お漏らし」と言われそう。
DeNA……助っ人がほとんど退団したが、すぐに代わりをたくさん連れてきた。彼らの活躍次第ではぶっちぎり優勝もあるだろう。30代の選手たちの衰えが少し心配。
巨人……最近はFA戦線でも苦戦続きで、もうブランドはないに等しい。若手も伸び悩み、実績のあるピッチャー頼みのチーム。余ってる捕手で大砲候補を獲るべき。
中日……本拠地にホームランテラス新設、フェンスの調整などでホームランが増えそう。ただしホームランが打てそうなのは細川だけで、相手を助けるだけかも。
広島……長打が打てないならもっと走塁を鍛えたほうがいい。投手陣が全体的にピークを過ぎているので、うまく血を入れ替えないとチームはますます崩壊する。
ヤクルト……村上が抜けた打線は迫力ゼロ、投手陣は論外。新人や補強は毎年のように使い物にならない廃材を集めるだけなので期待薄。来年も浮上しないだろう。
〈結論〉2026年、セントラルリーグの優勝チームは横浜DeNAベイスターズと予想します。この数年は助っ人投手のレベルが高く、若い投手たちの躍動も目立ちます。打線もリーグ上位で、苦手の阪神と巨人を直接叩いて勝ち越すことができれば優勝です。2位は阪神。3位以下はどこもチーム状態が悪いので、ヤクルトですらうまくいけばAクラスに入るかもしれません。
(パ・リーグ)
優勝はソフトバンク。それ以外に語ることは特にありません。




