ツイてる
『代わった石崎は何事もなく抑えましたが、ペンギンズがいきなり大量5点を先制!』
トリプルクラウンズもブルペンデーになってしまった。先発投手が安定しているので、ロングリリーフが必要になる場面はほとんどない。あと8イニング、ベンチの腕が試される展開になった。
『ペンギンズの先発は阪田!先発の経験もありますが、最近はリリーフに専念しています』
一方のペンギンズは先発が早々に消えることが多いので、回跨ぎは珍しくない。打席が回ってこなければ3イニング投げることもある。
「ピッチャーの打席がないのはいいな。予定通りのイニングを投げさせられる」
「続投させたいのにチャンスで打順がきたから仕方なく代打なんてことはないからな」
阪田は3回、その後は小西に2回投げさせるところまでは決まっていた。そこから先は状況次第だ。
「アウト!」
『痛烈な当たりはセカンド真正面!土場が前に落としてから焦らず一塁に送りました。サードランナーの吉永は残塁!』
強い打球ばかりだったがどうにか抑えた。飛んだコースによってはまだノーアウトだっただろう。
「ふ―――っ………打たせて取るっていうよりは、打たれて取るだな、こりゃ」
この調子では事前に決めていなくても三回までが限界だ。5点差は決してセーフティリードではないと改めて思い知らされた。
『石崎、二回もランナーを許さず!』
『ショート正面のライナー!二者残塁!』
二回は両チーム無得点だが、阪田はまたしても運に助けられただけだ。決壊は時間の問題だった。
『三者三振!石崎の完璧なピッチングが反撃の狼煙になるか!?』
ペンギンズの勢いは止まり、トリプルクラウンズが流れを手にしつつある。そして阪田の3イニング目、
『センターの頭上を越えた!三塁ランナー、そして二塁ランナーもホームイン!』
とうとう踏ん張りきれずに3点差だ。ここからは防戦一方だとつばめも覚悟した。ところがまだつばめとペンギンズは運に見放されていなかった。
「……アウトッ!!」
2点タイムリーツーベースを打った岡部が飛び出しているのを見て、大矢木が矢のような送球。ショートの武雄もうまく入り、岡部を刺した。
「ぐ………」
『アウトだ!キャッチャーからの牽制でアウト!ランナーがいなくなってしまいました!』
岡部は基礎に忠実なベテラン選手で、いつも目の前のプレーに集中している。原因は本人にもわからず、魔が差してしまったとしか言いようがなかった。
四回裏、代わった小西も一死二、三塁のピンチを作った。ここでも普段のトリプルクラウンズならありえないミスが起こった。
『センター飯館へのフライだが……飛距離は微妙!三塁ランナーは突っ込むか、それとも自重か!』
飯館の補給体勢はあまりよくなかった。しかし三塁コーチは安全策でランナーを止めた。次のバッターで勝負すればいいと思っていた。
『アウト!三塁ランナーは動けず!』
バックホームされた球を受けた大矢木は、信じられないものを目にした。三塁ランナーが動いていないのに、二塁ランナーの福永がタッチアップしていた。
「……ああっ!?」 「ハァ!?福永!?」
『福永、三塁に向かったが前が壁!』
すぐに挟殺プレーとなり、最後は弾き出された三塁ランナーをタッチアウトにした。福永のボーンヘッドで窮地を脱し、3点差を守った。
「ツイてたな。そろそろ反動が怖くなってきたが」
「いや、まだまだこれからですよ。つばめ監督が起こした炎はこんなものじゃ消えません」
五回もペンギンズは三者凡退、トリプルクラウンズは得点圏に走者を置いたが無得点。猛攻を凌いでいるがそろそろ追加点が入らないと厳しいという時に、再びチャンスが到来した。
『ツーアウトながら一、三塁にランナーを置き、バッターは7番の山内!』
六回表、トリプルクラウンズのピッチャーは石崎から大久保に代わった。手も足も出なかった難敵が降板してくれたおかげでペンギンズ打線は気が楽になり、大久保も好投手なのだが打ちやすく感じた。
『石崎が5イニングをパーフェクトに抑えただけに、大久保もどうにか無失点で切り抜けて反撃を待ちたい!対する山内は今日2三振!』
疲れが溜まっているのかスイングが鈍く、バットに当たっても鋭い打球は期待できなかった。最近はラムセスや飯館という外野のライバルに押され気味で、山内にとっては正念場となる打席だった。
「ストライク!」
『ツーストライク!山内は苦しい!』
大事な場面だというのに復調の兆しはない。もし今日もいいところがなければ、山内をひと足早く東京に帰そうとつばめは決めていた。チームはさらに南下して博多に向かうが、山内だけ逆方向の新幹線に乗る。つまり二軍行きだ。
「あんなスイングではどうにもならんな」
「いや……バットに当たりさえすれば………」
試合の主導権や流れは奪われたが、まだ運は残っているとつばめは考える。三振でなければ望みはある、つばめはそう信じた。
「うっ!」
『ボテボテのゴロだ!しかし面白い転がり方!』
ピッチャーが捕るかファーストが捕るか。どちらが捕っても間に合いそうにない、絶妙なところに転がっていた。
「うおおおっ!!」
『南井が前に出た!ボールを拾いそのまま山内の背中にタッチ!』
アウトにするにはこれしかない動きだった。あとはミットが山内の身体に触れているかどうかだ。
「アウト!」
「え!?触れてないって!」
追いタッチが届いたという判定だった。両手を広げて抗議する山内の姿を見て、すぐにつばめがベンチから出てきた。
「……………」
『つばめ監督が姿を見せると球場は大騒ぎ!敵味方関係なく拍手が起こりますが、これはビデオ判定の要求です!』
本拠地の外苑球場ではブーイングやヤジが多いが、敵地だとつばめに好意的な反応ばかりだ。それもペンギンズファンが少なければ少ないほど声援や応援が目立つ。外苑で9試合、それ以外の球場で6試合戦い、この傾向が明らかになった。
「あれ?触ってないんじゃないか?」
「審判からは見にくい位置だったからな」
大画面で確認すると、タッチしていないように見えた。レフト側の僅かな一角に陣取るペンギンズファンから大きな歓声が起こり、それ以外を独占する大勢のトリプルクラウンズファンは黙ってしまった。
「これならいける。リクエスト成功だ」
「いや………駄目だ。おそらく判定通りだろう」
コーチの一人が指差す先には、一塁塁審がいる。判定に関わった当該審判はリプレイ検証に加わらないことになっている。
「あいつ……審判部でも重鎮のオッサンだ。あいつの判定が覆ったことなんて記憶にないぞ」
「他の審判が遠慮しちゃうんだよな。あの人に誤審させるわけにはいかないってな」
映像に残る真実よりも『威厳』が優先され、ビデオ判定の意味が失われていた。100パーセント間違っているならさすがに覆るが、今回のような99パーセントでは駄目だ。ペンギンズベンチは諦めかけていた。
『長い検証が終わったようです!判定は……セーフ!』
「なにィ!?」 「セーフ!?」
待望の追加点だというのに、喜びよりも驚きが勝っていた。しかしリクエストに成功した理由を知っているつばめと国村だけはにやりと笑い、軽く握りこぶしを合わせた。
「お前のおかげで1点入ったぞ、つばめ」
「ふふふ……私もたまには役に立てる」
ヤクルト村上の譲渡金、思ったより安かったですね。とはいってもここ2年は横浜の某チームから打ちまくっているだけなので妥当な金額とも言えます。各チームのエース級には手も足も出ない村上でしたが、なぜか横浜の某チーム相手には鬼神のごとき迫力でした。




