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はずだった

『一回の表、守るトリプルクラウンズのピッチャーは池江、キャッチャーは河内(かわち)!ファーストは南井(みない)……』


 試合前の全体練習、そして開始直前のキャッチボールやボール回し……トリプルクラウンズに隙はなかった。


(適当にやっている選手は一人もいない。さすがは日本最強チームだ)


 メジャーリーグに参戦しても勝ち越すだろうと言われているほどのトリプルクラウンズだ。簡単に見つかるような弱点はない。



(それでも全勝はできない……それが野球だ。私たちが勝てるとしたら………)


 たまたま池江が絶不調で、ペンギンズのリリーフたちは逆に全員絶好調。審判の判定はペンギンズの有利になるようなものばかりで、全ての作戦が成功する。そこまで条件が揃わないと厳しいほど、ペンギンズとトリプルクラウンズにはチーム力の差がある。


(普通なら負ける。しかし昨日の試合の途中から、私たちには熱がある。この熱気で立ち向かえば……)


 つばめの失言に若手たちが燃え上がり、その炎はチーム全体に広がりつつある。最弱が最強に噛みつき、肉を食いちぎるかもしれない。




「……ボール!フォアボール」


「よしっ!」 「……えっ?冗談ですよね」


 トップバッターの飯館が小さくガッツポーズを作って一塁に歩き、バッテリーは不満を隠さずうなだれる。際どい球はボールと判定され、いきなりランナーが出た。


(いきなり有利な……いや、今日の球審はあいつか)


 いつも決まってストライクゾーンが狭い審判だった。両チームに対し公平に狭いので、コントロールの悪いペンギンズの投手陣は苦戦しそうだ。



『フルカウントから飯館がフォアボールを選んでノーアウトのランナー!2番の武雄は早くも送りバントの構え!』


『監督はあの正一つばめですからね。初回から送るというのは……』


 この構えは罠で、盗塁やバスターを仕掛けてくると誰もが疑った。当然バッテリーも警戒し、様子見の牽制球を投げたが、武雄は構えを崩さない。


『これはバントですね……確実に先制点がほしいということなのでしょうが……』


 ペンギンズはのるかそるかのブルペンデーだ。たった1点のリードなどすぐに消し飛ぶ。バントは愚策のように思えた。



「あっ……」


『上げてしまった!ピッチャー池江の目の前!』


 しかもバントは失敗だ。ランナーを進められずアウトカウントが増えるかと思いきや、キャッチャーの河内が合図を出した。


「わかった!セカンド!」


『池江、落としてワンバウンドで捕った!そして二塁送球!』


 飯館の位置と武雄の体勢を見て、河内は併殺が取れると判断した。もし武雄がセーフになっても、俊足の飯館と入れ替わる。よってここはフライアウトではなく、二塁アウト一択だった。


 一瞬でそこまで思考が働くのは河内が有能なキャッチャーであるだけでなく、最善の選択ができるようにいつも訓練しているからだ。練習の質と量、どちらも他を圧倒しているのだからライバルたちは追いつけない。



「セーフ!」


「……えっ!?」


 ところが飯館は速かった。トリプルクラウンズの計算を上回るスピードを見せつけた。


『一塁もセーフだ!フィルダースチョイス!』


「やった……!」 「へへへ……」


 練習の成果を発揮したのはペンギンズのほうだった。飯館の速さを利用すれば、作戦は無限に生み出せる。チャンスはさらに広がった。



『ノーアウト一、二塁!しかしトリプルクラウンズに動揺は見られません!ピンチに強いのが強者の証!』


 ラムセス、池村と弱点のはっきりしている打者が続く。トリプルクラウンズのバッテリーやベンチの考えでは、コントロールミスさえしなければ無失点で凌げるはずだった。


「ウッ!」


『サードゴロ!川田(かわだ)が……』


 ベース上で捕って一塁に投げたらダブルプレー。二死二塁となり、熱は一気に冷める……はずだった。



「うわっ」


『イレギュラーだ!ベースに当たったか!?飯館は三塁を蹴った、外野は中継に返すだけ!ホームイン!』


 練習や計算ではどうにもならない、運の力。強い者に運は引き寄せられると言うが、こうして弱者の味方になって波乱を演出してくれる時もある。


『ペンギンズ先制!しかもノーアウト一、二塁が続きます!』


 トリプルクラウンズは誤算続きだ。見逃し三振のはずだった、バントは失敗のはずだった、サードゴロ併殺のはずだった……。ここまでリズムが狂うと、さすがの絶対王者も崩れる。



「あだっ!!」


『足に当たった!デッドボール、これで満塁!』


 2球連続の空振りで簡単に追いこんだのに、変化球が指に引っかかり死球になった。


「あ〜あ、スリーランのはずだったのに!打たれそうだからってこんな真似に走るとは……スポーツマンシップはないのか、カス野郎どもが!」


「チッ……」 「くそ!」


 池村は調子よく叫んでいるが、打てる見込みはなかった。『当てたほうが痛い』とはまさにこのことだ。



『サードの川田、ファーストの南井が声をかけに来ました。池江は一度深呼吸したほうがいいでしょう』


 冷静に考えればまだ1失点、無死満塁なのでもう1点は仕方ないとしても2失点だ。昨日までの戦いぶり、そして今日のペンギンズはブルペンデーであることを思えば2点などビハインドの内に入らない。


「この裏ですぐに取り返せる。阪田なんか三軍レベルだぜ、俺たちのチームなら」


「やつらは初回で運を使い果たしたんだ」


 内野手がマウンドに集まり、池江も笑顔になった。明らかな失敗は先頭の飯館にフルカウントまで粘られたことぐらいで、あとは自分のせいではない。気持ちを切り替えて最小失点で凌ぐ態勢が整った。




『打った―――――――――っ!!』


「あっ………」


 ワンボールからの2球目だった。ど真ん中のストレートで、「ホームランどうぞ」と言われて見逃すオズマではなかった。


『グランドスラム――――――ッ!!ペンギンズベンチはサヨナラ勝ちを決めたかのような大騒ぎ!4点入って5対0っ!!』


「よっしゃあ!5点も取れば今日は楽勝!」


「久々に心穏やかに見ていられるな」


 21失点した昨日のことは記憶にないのか、選手もファンも勝利を確信して喜んだ。明らかに浮かれすぎだが、トリプルクラウンズ相手に5点を先制したのだから責められない。



「ぐぐっ………」


『あ―――っと、トリプルクラウンズ、監督がボールを受け取ってマウンドへ!ピッチャー交代だ!』


 一つもアウトを奪えず屈辱のノックアウト。しかも相手は12球団の底辺にいる東京グリーンペンギンズだ。失意の表情で池江はマウンドを降りた。


「……試合後の店の予約、キャンセルしますか?」


「そうしてくれ。女と遊んでストレス発散って手もあるが……今日の俺は何をするかわからん」


 楽しい夜を過ごすはずだったのに、自分への怒りに一晩中悶えることになる。悔しさをバネに成長するのがトリプルクラウンズで生き残る条件なので、彼の勝負は今からが本番だと言えるだろう。

 歴代三冠馬レース

 東京芝2400メートル 晴良


 シンザン      栗田勝   3.8

 オルフェーヴル   池添謙一  5.3

 ディープインパクト 武豊    6.5

 シンボリルドルフ  岡部幸雄  7.1

 アーモンドアイ   ルメール  9.4

 ナリタブライアン  南井克巳  11.6

 ミスターシービー  吉永正人  17.8

 ジェンティルドンナ 岩田康誠  18.0

 セントライト    小西喜蔵  27.5

 コントレイル    福永祐一  44.9

 メジロラモーヌ   河内洋   47.2

 ヒカルタカイ    竹山隆   50.6

 デアリングタクト  松山弘平  95.8

 アパパネ      蛯名正義  107  

 リバティアイランド 川田将雅  146

 スティルインラブ  幸英明   165

 トーシンブリザード 石崎隆之  178

 ミックファイア   御神本訓史 245



 あくまで個人的な評価です。

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