京都トリプルクラウンズ
「ド・リーグのぶっちぎり最下位とファ・リーグの首位独走が戦うのだから……」
「こうなるのはわかっていたが………」
京都トリプルクラウンズとの戦いを一言で言い表すなら、『悲惨』だった。初戦は二塁すら踏めず4対0で完封負け、そして2戦目の今日はそれ以上の地獄だった。
『岡部、今日2本目のホームラン!トリプルクラウンズ、ついに大台の20点突破!しかもまだ五回!』
先発の奥が4回14失点の大炎上で降板。代わったルーキー荘島もこの回だけで7失点。2人で被安打22、被本塁打8という惨状だ。
「この間の大阪戦のような、たくさん打った翌日は得点が入らない作戦は使えませんよ」
「あいつら、先週だけで70点以上取りやがってる。ファ・リーグの打撃ランキングはどの部門もトリプルクラウンズが独占だ」
ド・リーグの盟主と呼ばれるビッグリーダーズを遥かに凌ぐ圧倒的な資金力を誇るのが京都トリプルクラウンズだ。ベンチどころか二軍にも他球団ならレギュラーになれる選手が何人もいるほどだった。
「あんなチームの監督は楽だろうな」
「それは違うな。勝って当たり前のチームで負けたら大バッシングだ。優勝を逃したら即解任のプレッシャーで戦うとなるときついぞ」
21対3、本来なら笑いが止まらない点差だ。しかし監督の小西を中心に、トリプルクラウンズには緩みが見えない。
「試合後はきっと3失点の反省なんだろう。エラー絡みだったからな」
「ふーん……強すぎるチームは大変だ。誰でもいいからあの中の一人、嫌気が差してうちに来ないかな?弱すぎるペンギンズなら気楽だし、お山の大将になれるだろうと」
小西とは逆に大差で気持ちが切れたのか、つばめにしては珍しく締まりのない言葉だった。
「来てくれたらすぐに好きな打順とポジションを空けて………」
「………」 「………」
もちろんこれは冗談だが、話を聞いていた若手のうち数人が勢いよく立ち上がり、つばめの眼前に迫った。
「おい、あまりナメたことを言うなよ」
「あんな連中はいらないと教えてあげますよ」
同じプロとは思えないほどの実力差を味わい知り、若い選手たちの一部は自信を失いかけていた。しかしつばめの放言に憤ったことで再び心は燃え、戦う気力が戻った。
「敵のベンチなんか見なくていい。俺だけを見ろ」
今日は指名打者で出場している池村がバットを手にした。何かやってくれそうな気配を皆が感じた。
「うおっ!?」
『空振り三振!これで今日は3三振!』
あっさりと倒れ、ペンギンズベンチを脱力させた。
「あれじゃ駄目だ。池村も武雄のようにもっとコンパクトに打てと指示したほうが……」
「いや、あれでいい。池村が当てにいくバッティングになったら魅力がなくなる。そして武雄はホームランを狙いすぎると長所が死ぬ。目指すべきものが違う」
池村は長距離砲だ。無理に欠点を克服させるよりも今は我慢の時と腹をくくり、フルスイングを貫かせる。やがて主砲と呼ばれるようになったころには、出塁率や確実性もいっしょについてくる。
武雄はアベレージタイプなので、つばめは彼に無欲でいるように勧めた。ヒットの延長でホームランが打つのが理想で、規定打席に到達して3割打者になれば自然とホームランは10本くらい打っているだろう。
『センターの武が掴んだ、試合終了!トリプルクラウンズが何点取るかに注目が集まりましたが、六回以降は無得点!逆にペンギンズが意地で2点を返し、最終的には21対5でした!』
「………」 「………」
ここまで点差が開くと、普通ならどちらのチームも主力を下げて試合を早く終わらせようとする。しかしトリプルクラウンズは貪欲に追加点を求め、一切手抜きせず全力で攻めてきた。それでも点数は増えなかった。
「後半4イニングはこっちが押していたが、この流れを持ち越せるほど甘い相手じゃないぞ」
「問題ない。試合の流れや勢いはリセットされても、彼らのやる気は持続するはず。1日くらいはな」
つばめによって発奮されられた若手たちが何人もいる。確実に勝てるとは言えないが、ここまでの2試合のように一方的に負けることにはならないはずだ。
「京都も明後日の午前で終わりか。球場とホテルの往復だけだったが………あと駅か」
「監督が街に遊びに行ったらパニックになりますから仕方ありませんよ。この人気がもう少し落ち着いてからでないと……」
「まあいい。京都なんて最初から全く興味はなかった。次の福岡のほうが楽しみだ」
福岡で待ち構えるのは、『九州フォークライブキングス』だ。フォークライブという音楽関連の会社が経営母体で、トリプルクラウンズの半分程度の総年俸でチームをやりくりしていた。
「福岡のほうが楽しみなのは勝てそうだからですか?どこかに行くつもりなんてありませんよね」
「まあ……外出の予定はないが」
つばめは移動中もユニフォームなので、さすがにその姿ではどこにも行けない。目立ちすぎる。
「こんな環境で野球を楽しめるのは今だけだ。どんな遊びや食事よりも私を満たしてくれる」
他の何よりもペンギンズが大事で、第一にしている。常にユニフォームを着ているのはその表れだ。
『早くも交流戦は今日でちょうど半分!中止になったゲームは1試合もないので、12球団全てが9試合目となります』
今年はあまり雨が降らず、例年に比べて雨天中止が少なかった。日程通り試合が消化されるのはいいことだが、身体が休まらない。どの球団も怪我人が増えているなかで、選手層の厚いトリプルクラウンズはすぐに質の高い代役が出てくる。
『トリプルクラウンズはなんと無傷の8連勝!いくらファ・リーグが強い交流戦とはいえ、全勝はトリプルクラウンズだけ!優勝は間違いないでしょう!』
ファ・リーグの他球団も勝ち越してはいるが、トリプルクラウンズとのゲーム差はどんどん広がっていく。交流戦どころかリーグ優勝をすでに諦め、2位を狙うチームもあった。
『9連勝を狙うトリプルクラウンズの先発は池江、抜群の安定感で防御率は1点台前半!一方のペンギンズはリリーフピッチャーの阪田……これはブルペンデーでしょう』
中止がほとんどないことに加え、ペンギンズの先発は弱い。昨日14失点の奥は復調の兆しがなく、先週木曜日に投げたランドは二軍だ。いよいよブルペン総動員が始まった。
「ランドはもういいだろう。目先の1勝を追っても仕方がない状況なのに、その1勝すらできない外人なんか使う意味がない」
上がり目のない助っ人を見限っていた。せっかく大金を積んで獲得したのだから使わないと損だとは考えず、蓋をして二軍に閉じ込める。余程のことがない限り、つばめの決定は揺らがない。
「………そのランドのことですが……二軍落ちは契約違反だと憤っているそうです。ついでにボウメンも」
「契約?ああ、そういえば……」
「聞いていたんですか?彼らは原則、自分から言い出さない限り降格はなし。出来高をクリアような起用をするという約束で入団させたと……」
厄介な契約があった。そこまでして獲る選手ではなかったと嘆いても後の祭りで、自分たちの見る目のなさを悔やむしかなかった。
「だったら違約金でも何でも払えばいい。劣悪な二軍に幽閉して自主的な帰国を申し出てくれるのが理想だったが、さっさと手切れ金で追い払うのがチームのためだ」
追加出費は痛いが、その金で優秀な助っ人を新たに獲得できるような目利きは今のペンギンズにはいない。若手の出場機会を奪われるくらいなら違約金を払うほうがよかった。
京都トリプルクラウンズ……京都の豪族たちが有り余った金の力で作り上げた最強チーム。野手の名前は三冠馬の騎手、投手の名前は三冠馬の調教師から。
荘島……新人左腕。開幕から一軍にいるが、なかなか序列が上がらない。




