野手のMVP
『1勝1敗で迎えた今日の試合、ルチャリブレの先発は木村、ペンギンズは加林!投げっぷりのいいルーキー同士の対決です!』
木村は先週も日曜日に投げて、6回2失点で勝ち負けはつかなかった。2勝4敗ではあるが防御率は2点台前半で、優秀なピッチャーなのは確かだ。
加林はオールスターに出場したこともあり、これが後半戦初登板だ。休養たっぷりだが、間隔が開いたことで逆に不安だという声もあった。
「ストライク!バッターアウト!チェンジ!」
初回は両チーム三者凡退で、今日も投手戦になりそうな気配だった。ルチャリブレは抑えのヤマトが連投の影響でベンチを外れているが、それ以外のリリーフも強力なのでペンギンズが有利とは言えなかった。
『二回表、ペンギンズの攻撃ですが……バッターボックスには問題の男、三丸充!』
4番なのに九回のチャンスで代打を送られたのが異例なら、その翌日に再び4番で出場するのも前代未聞だ。つばめの考えを全て理解することは誰にもできない。
(高めの速い球で空振らせて、最後は……なんでもいいか。カーブでもチェンジアップでも、間違ってど真ん中に来なければ三振だ)
何を投げても空振りなので、抑え方は無限だ。好調のラムセスと復活の海田の間に安全なバッターがいるので、ルチャリブレバッテリーは気分が楽だった。
『サインはあっさり決まった!キャッチャーは中腰で構える!』
(今の俺はツーベース量産機……つばめちゃんがくれた新しい打ち方でチャンスメイクだ!)
右中間を抜くイメージで打席に入った。三丸はフォームだけでなく意識も変わっていた。
「ファイト!ファイト!み・ま・るっ!!」
「ファイト、ファイト、み・ま・る……」
応援団長の緋奈は大きな声援を送るが、ファンはついてこない。彼らはまだ三丸の変化を知らないからであり、一切期待していなかった。
『大事な初球!ピッチャー投げた!』
実況のアナウンサーすら、盛り上げるために「大事な初球!」と言っただけだった。内心はどうせ空振りだろうと冷めた考えでいた。
(よし、チャンスボールだ!)
これまでのアッパースイングではなく、来た球を無理なく弾き返すスイング。打った瞬間、予想外のことにドームは静かになった。
『う……打った!?打球は伸びている!』
三振以外にも併殺と内野フライはあったが、こんな打球は昇格後初めてだ。大飛球が外野まで飛んだところで歓声が戻ってきた。
「センター下がる、ライトも下がる!捕るか、フェンスに当たるか……」
神戸ドラゴンドームのフェンスは高い。外野手は直接の捕球とクッション処理の両方に備えていたが、打球は落ちてこないままライトスタンドに消えていった。
『入った!入った!ホームラン!三丸充、ペンギンズ移籍後初ヒットはホームランだ!』
「えっ……入っちゃった?」
全力疾走中だった三丸自身も驚きの、先制ホームラン。たった数分で仕上げた打撃改造がいきなり最高の結果になった。
「さすがのパワーだな……これが見たかった!」
「決まっちゃった……こんなにあっさり決まっちゃったよ。やっぱり持ってる男なんだな……俺」
つばめとハイタッチをする前にバッティンググローブを外していた三丸は、つばめの手の感触が残る自らの両手で顔を覆った。こっそり舐めたところを誰にも見られなかったのも、彼が波に乗り始めた証だ。
「1割40本のバッターから3割20……いや、30本のバッターに進化したな。三丸」
「違うぜ、つばめちゃん。3割打った上で40……いーや、50本打ってやるよ」
三丸の素質を考えれば、50本も夢ではない。シーズン開幕からフル出場できる来年が今から待ち遠しかった。
「これからもつばめちゃんに個別指導してもらえたら、日本新記録も……おおっ!?」
海田が2球目を振り抜いた。ルチャリブレの外野手は一歩も動けず、レフトスタンドの深いところに打球が吸い込まれていった。
『二者連続――――――っ!海田鉄人もホームラン!とんでもない飛距離、海田らしい一発です!』
「やった!いいぞ海田っ!」
海田を慕う若手選手数人に続き、つばめもベンチを飛び出して大喜びだ。昨日の決勝打に続きこのホームランなら、完全復活を宣言していいだろう。
「………あれ?俺の時より喜んでない?」
声の調子やリアクションがまるで違う。昨日他の女性と結婚を発表したばかりの海田なのでまだ許せるが、三丸は対抗心を燃やした。
(海田にもそれ以外の連中にも……俺は負けねー!あいつら以上に打ちまくってお立ち台に立てば、つばめちゃんもよそ見しなくなる!)
敵地では1人しかヒーローインタビューを受けられない。つばめへの愛を叫ぶためにも、誰よりも活躍すると誓った。
『センターの頭を越えた!三丸の2打席目はツーベースヒットだ!』
「どうだ!俺についてこれるか!?」
熱くなってもホームランに固執せず、これまでとは違うところを見せた。続く海田は凡退し、四回の時点で2打数2安打は三丸だけとなった。
『速い打球が一、二塁間抜けた!今日は3の3、三丸充、プロ初の猛打賞!』
「ちっ……上がらなかったな」
シーズン終盤だけで8本塁打を放った一昨年のルーキーイヤーでも、猛打賞は記録していなかった。
『ルチャリブレのピッチャーはこの六回から清水に代わっています。単に木村との相性がよかっただけというわけではなかったことを証明しました!』
三丸以外の野手はこれといった活躍もなく、得点は二回の2点だけだった。海田の3打席目はフォアボールで歩かされ、野手のMVPは文句なく三丸だ。
「ストライク!バッターアウト!」
『スリーアウト!六回表、ペンギンズはツーアウトから三丸のヒットと海田のフォアボールでチャンスを作りましたが池村が三振、無得点!なかなか追加点が奪えません!』
連続ホームランが飛び出した時には、ペンギンズが一方的に大勝しそうな空気だった。しかし木村がすぐに立ち直り、清水も踏ん張る。結局今日も当初の予想通りロースコアの投手戦になった。
「おいおい!俺をホームに還してくれよ!俺1人だけ気を吐いても意味ねーぞ!」
「くそっ、あの野郎!いい気になりやがって!」
昨日までは足を引っ張る側だったのに、1日活躍しただけでこの態度だ。しかしこれこそ4番の重責を担うために必要な資質だった。打てずに批判の的になっても堂々としていれば、スランプはすぐに脱出できる。考えすぎる者、責任感の強すぎる者は注目を集める主軸に向いていない。
『六回裏のルチャリブレは8番から!まだ六回ではありますが、ベンチの様子を見る限りピンチヒッターを積極的に使ってきそうです!』
捕手と投手に連続で代打を送り、チャンスを作れば上位打線でも強打のバッターに代える構えだ。
『まだ六回ですがのんびりしていられません!ルチャリブレはフォアボールで一度出塁しただけで、いまだノーヒット!』
(まさか……ノーヒットノーラン?)
加林は絶好調だ。三振の山を築き、たまに強い打球を飛ばされても野手の正面で、運もある。
(こいつがノーノーなら……げっ!)
野手のMVPは三丸だ。しかしそれよりも輝いているのが加林だった。このまま偉業達成となれば、お立ち台に立つのは加林以外にいない。
ヤクルトの二軍、ハヤテよりも弱いんだって。さっさと全員辞めたらいいのに。




