結婚報告
海田がスクイズだなんて誰も予想できない。バッターに集中していたヤマトはランナーを見ていなかったので、岩木は絶好のスタートを切れた。周りの野手も反応が遅れていた。
「…くそっ!」
『ホームを見たが間に合わない、同点!一塁はアウト!』
ヤマトの送球はそこまで悪くなかったが、ここは完璧な送球が必要だった。いや、投げないほうがよかった。
『あーっ!木南もホームに走っている!』
「うっ……」
急いでバックホームするも、すでに木南は足から滑り込んでいた。
『セーフ!ツーランスクイズ成功だ!3対2!ペンギンズ、同点どころか一気に逆転っ!』
あっという間の逆転劇だった。ランナーの足が速いだけではこの作戦は決まらない。守備側に油断があるからこそ炸裂する奇策だ。
「海田がスクイズ……ありえないだろ」
内野が前進していない、ピッチャーがランナーを全く気にせずバッターに集中している、打てそうにないので真ん中に投げても問題ないとバッテリーが考えている……スクイズが成功する理由はいくつもあった。
「そもそも海田はバントを拒否して監督に嫌われたんじゃなかったのか?」
「初球のフルスイングに騙された……」
バントのサインを無視したのでツーストライクから代打を送られたのは有名な話だ。その海田がスクイズをするために出てきたのだから、見事にルチャリブレを欺いた。
「今日はサイン通りに動いてくれたな」
「大事な監督の考えた作戦だからな。必ず成功すると思っていたよ」
つばめと海田は力強くハイタッチだ。この姿を見れば、外部の人間も2人の仲を心配することはないだろう。かつてのミスターペンギンズの孫娘と現代のミスターペンギンズが手を組めば、チームは再び上昇気流に乗る。ファンに希望を与える光景になった。
「明日は頭から出てもらいたい。いけるか?」
「もちろん。レギュラーを取り返すつもりでじっくり調整してきたんだ。俺は代打屋じゃない」
誰が代わりにスタメンから外れるのかはまだ明言されなかったが、皆の視線は1人に集中した。
「………俺を見るんじゃね―――っ!」
三丸は逃げるようにして裏に下がっていった。7打数0安打、5三振。しかも一打逆転のチャンスで代打を送られて退いた。さすがに自分の立場が危ういことに気がついたようだ。
(あれ?でも20打席は何があっても使い続けると言っていたような……?)
都合が悪くなったからといって、約束を簡単に反故にするつばめではない。まだドラマは続きそうだ。
『ライトに入った木南、足が止まった!しっかり両手で捕ってアウト!試合終了!ペンギンズが土壇場で試合をひっくり返し、接戦を制しました!』
ラッキーな内野安打、あわや走塁死の二塁打、そしてツーランスクイズ。相手の守護神を攻略したとは言い難いが、それでも立派な逆転勝ちだ。
『ヒーローインタビューに呼ばれたのは海田鉄人!意表を突いたスクイズを見事に決め、昇格していきなりチームの勝利に貢献したキャプテンです!』
勝利投手にはなれなかったが7回2失点の田富、ホームランを含む長打2本のラムセスもいる。海田は逆転打とはいえ犠打を決めただけだが、それでも彼のお立ち台に異議を唱える者はいない。海田以外が出てきたら、ファンは海田を呼べと叫んでいただろう。
『監督に身体を休ませてこいって言われたので……すぐに戻りたい気持ちはありましたが、我慢しながらメンテナンスを続けていました』
『そうでしたか。満を持しての復帰戦、その最初の打席でいきなりスクイズのサインが出ましたが……』
『はい。初球はわざとフルスイングで空振りして、次の球で決めるところまで監督の指示です。味方でよかったですよ、ほんとうに』
コンディションの回復も今日の決勝打もつばめのおかげだと強調する。海田だけでなくつばめに対しても歓声が飛んだ。
『この復活劇、一番に感謝を伝える相手は……』
話の流れでいけば、つばめで間違いないだろうと皆が確信していた。ところが海田が挙げたのは、皆が知らない人物だった。
『僕が一軍を離れて最初の月曜日に、1人の記者が来ました。「つばめ監督に海田選手をサポートするために派遣された」とかで……』
『そんな方がいたのですか?』
『はい。彼女は僕以上に僕のことを知っていたので、調整は順調に進みました。彼女と二人三脚、今日のために仕上げ……最高の結果になりました』
海田が話しているのは、つばめと会見の場で衝突した富士スポーツの記者、後村三惠のことだ。熱心な海田ファンの彼女を密着取材という形で海田のそばに置き、献身的に支えるように仕向けたつばめの計算通りになった。しかしつばめも全く予期していなかったことが、海田の口から明らかにされた。
『この場を借りてご報告させていただきます。私、海田鉄人は近日中に彼女と婚姻届を提出し、夫婦になります』
「婚姻届……結婚か!」 「海田が!?」
皆は驚いたが、すぐに祝福ムードに変わった。
「おめでとう!ようやく身を固めたか!」
「これでますます期待できるな!」
歓声と拍手は鳴りやまず、最高の雰囲気でインタビューは終わった。
「海田選手と後村さんが結婚するというニュースは……つばめさんも知らなかったのですね?」
「ああ。寝耳に水だった」
試合後の記者会見でも海田の結婚について尋ねられたが、何もわからないのでノーコメントとするしかなかった。相手が後村であることは知っているが、海田がその名前を出さなかったので、つばめも黙っていた。
「人気がある独身の選手が結婚するとなると、もっと落胆の声が聞こえてくるものだと思っていました」
「若い時はよく週刊誌に載っていた遊び人だからな。害虫のような女と親密になって身を崩す危険がなくなったのだから、誰でも祝福する」
評判の悪いアイドルや金遣いの荒そうな厚化粧の女とのツーショットを何度も撮られていた前科が海田にはある。彼女たちは海田にとってマイナスの存在でしかないので、ファンはいつも心配していた。
「なるほど。詳細は明かされなくても、つばめさんが連れてきた女性なら安心だとファンの方々も納得したのですね」
「……私がそこまで信用されているとは思えないが」
「いいえ、つばめさんほどペンギンズを愛する人はいません。そのつばめさんが海田さんを堕落させる女性を紹介するわけがありません」
つばめのペンギンズ愛は本人が思っている以上に皆に信頼されている。自分の立場やプライドを気にせず、ペンギンズのためになることを常に優先して行う。やり方が強引に見えるので常に賛否両論だが、その評価は今日一日でかなり良化していた。
「しかしあの2人が結婚とは驚いた。たった2ヶ月程度でそこまで関係が進むのか?」
「トレーニングをしていない時間は2人きりだったんですよね………進みますよ、絶対に」
野球の話、私生活の話、つばめの話……あっという間に打ち解け、親密になった。つばめが2人を結びつけたので、結婚式に呼ばれるのは確実だ。
「スピーチを頼まれるかもしれませんよ」
「私が何を話せばいい?もっと海田と後村のことを知っている、人生経験豊かな人間に任せるよ」
参加するにしても目立たない端の席に座りたいと願うつばめだったが、それは海田たちが許さないだろう。自分たちの次に注目を集める席を用意されるはずだ。
藤○○太郎が使い物にならないことなんか去年の時点でわかっていた話では……?ピッチャーがいないヤ○○トなら開幕投手になれても、DeNAには居場所はないような……。
誹謗中傷ではありません。お願いです、信じてください。何でもしますから。




