大型扇風機
「今日は残念だった。しかし明日、明後日と連勝すれば再び5位が見えてくる」
完封負けのショックを引きずらず、すでに明日以降を見ていた。ドーム球場での試合なので夏でも昼間に試合が行われる。
「三丸さんは……明日も4番なのですね。そして久々に一軍の海田さんはベンチスタート……」
「ああ。今日と同じスタメンでいく」
素人の自分が首を傾げるのだから、現場はもっと荒れただろうとみのりは思った。しかし実際は誰も異論を唱えることなく、前日とは違いすんなり決まった。つばめが三丸をどれだけ我慢するか、具体的な数字がわかっているのがその大きな理由だった。
もう一つの理由として、もしここで三丸を下げろと抗議してそれが通った場合、自分も同じことをされても文句が言えないというものがあった。たった一度の失敗で捨てられる前例を作ってしまうのは、皆にとって悪いことだ。
「三丸に海田と連れてきて、これでチームの失速が止まらなければもう打つ手はないな」
「もし最悪の展開になったとしても、つばめさんならまた別の秘策を思いつくのでは?」
「そうだな。その時はその時だ」
今のところ何も考えていない。いざそうなった時に頭を使えばそれでいい。開き直ったつばめはすぐに眠りについた。
「海田選手、こんなに長い二軍調整はこれまでなかったはずです。久々の一軍はどうですか?」
「やっぱり雰囲気が違うね。いい空気だ」
「結局つばめ監督との仲はいいんですか!?悪いんですか!?」
「ハハハ。どうだろうな……」
海田の周りには記者が殺到していた。今日から復帰することはファンも知っていたので、グラウンドに現れた瞬間は大歓声で迎えられた。
「三丸選手……今日は打てそうですか?」
「肩慣らしは終わった。打てる打てる、ヒットなんてケチくせーこと言わねーよ、ホームランだ」
「………つばめ監督は怒っていませんでしたか?」
「まさか。つばめちゃんと俺は相思相愛だぜ」
海田の次に記者を集めたのは三丸だ。打撃練習では快音を響かせてスタンドインを連発したが、昨日の試合をよく覚えているペンギンズファンは彼を信用しなかった。
「三丸……ちょっといいか」
「つばめちゃん!どうだった、俺のバッティング!」
練習を終えた三丸のもとにつばめが近づく。アピールできたと手応えを感じていたが、つばめから褒め言葉は出なかった。
「スタンド上段ばかりだったが、あんなに飛距離はいらない。150メートル弾を1ヶ月に1本しか打てないより、フェンスギリギリでいいから定期的に打ってほしい」
「豪快なバッティングが俺の持ち味なんだ。ダイジョーブ、飛距離はこのまま、本数も稼ぐよ」
横浜時代からの悪癖である無駄な大振りが目立つ。つばめの前で自分を大きく見せようとしていた。
「それならいいが……そこまでムキになって振ることもない。あなたのパワーなら抑え気味に打ってもツーベースを量産できる。その延長にホームランがある」
「……ツーベース……まあ俺なら楽勝だけど」
ここで素直につばめの言うことを聞けば三丸は今日から生まれ変われたのだろうが、
(俺の肩の力を抜くためにこんなことを……つばめちゃんを心配させないためにも特大アーチを打ってやるぞ!飛距離世界一だ!)
間違った受け止め方をしたので、ますますホームランしか頭になくなった。しかも理想を追求し始めたので、ここに大型扇風機が誕生した。
「……いつでもいけるように準備してほしい」
「ああ。言われなくてもそのつもりだ」
三丸の練習は熱心に見守り指導までしたが、久々に会った海田との会話はこれだけだ。つばめは海田よりも三丸に期待していると皆が思うには十分だった。
『ルチャリブレの先発富永、初回からツーアウト三塁のピンチ!バッターは4番の三丸!』
試合開始早々に盛り上がる展開になったが、両チームのファンは共に静かで冷静だった。ペンギンズファンはどうせ打てない、ルチャリブレファンはどうせ打たれないと思っているからだ。
「イェイッ!」
『空振り三振!スリーアウトチェンジ!』
人々の予想を裏切ることなく、今日も三丸は三振スタートだ。昨日の箕浦より楽なピッチャーが相手でも、今の三丸では打てない。
「………!」
『最前列、入ったホームラン!新橋一郎、プロ入り第2号は先制のツーランホームランだ!』
チャンスを逃した直後に失点した。田富の失投を逃さなかった新橋のセンスが光った。
「ありがとうございます。いやぁ、まぐれですよ」
守備につく時にファンから声援で迎えられても、腰を低くして運がよかったと新橋は強調する。自信たっぷりに打席に立ちながら三振だらけの三丸よりずっと上だ。
「ストライク!バッターアウト!」
『ペンギンズ、二回は三者凡退!昨日に続き打線が絶不調!』
優秀なピッチャーを揃えるルチャリブレ戦とはいえ、寂しい攻撃だ。特に下位打線はほとんど出塁できず、相手にとってはオアシスだ。そこで一息入れて上位打線に全力で投げてくるので、好調の打者も抑えられてしまう悪循環に陥っていた。
「これはいったぞ!」 「完璧だ!」
次に試合が動いたのは四回表、一死走者なしの場面だった。ラムセスが甘いストレートを振り抜き、レフトスタンドの中段に叩き込んだ。
『文句なしのホームラン!ラムセスの素晴らしいアーチで1点差、2対1!これが反撃の狼煙となるか!』
不調に苦しむバッターが多い中で、ラムセスは止まらない。それだけに続く4番が大事なのだが、
「中段まで飛ばしたか……それなら俺は最上段、あの看板にぶち当ててやるとするか!」
ラムセスのホームランを見て対抗意識を強くするようでは望みは薄い。まぐれ当たりしかない。
「ぬおっ!?」
『やっぱり三振!高めに対応できない!』
アッパースイングに固執しているのだから、当然こうなる。今の三丸は下位打線以上に安全牌だ。
「20打席も待つ必要はないと思うけどな」
「100円で拾ってきたが、やはり100円の価値しかなかったか」
ベンチの選手やコーチは皆で呆れていた。こんな『大外れ』は久々だった。
「お前の助言なら聞くんじゃなかったのか?」
「計算違いだった。うまくいかないものだな」
つばめが扱えないのなら、もう誰も手に負えない。1年目の輝きや練習の打球を思えば、何かのきっかけで覚醒する可能性は秘めている。しかしこの威力ある大砲は最後まで不発に終わりそうだ。
『スリーアウト!富永、ラムセスにホームランを打たれた後は危なげないピッチング!』
『田富も粘る!初回以降は無失点!』
昨日と同じく、投手戦になった。ドラゴンドームは相変わらずこんな試合ばかりで、ピッチャーには天国、バッターには地獄の球場だ。
『どちらも九回までは投げないでしょう。負けているペンギンズは田富に代打を出す必要がありますし、富永は完投タイプのピッチャーではない』
解説者の読みは正しく、田富は八回の攻撃で代打を送られて降板。富永は六回まで投げてリリーフに残りの3イニングを託した。
『とうとう九回表、得点は2対1!ルチャリブレ1点リードのまま最終回!昨日も登板した守護神のヤマトがペンギンズの前に立ちはだかります!』
防御率が0点台、1点台のリリーフピッチャーたちがたくさんいる中から選ばれたクローザーなのだから、難攻不落だ。
日本代表のWBCが終わりました。ちなみに私は地上波中継がなかったので試合は見ていません。94歳なので視聴方法がわかりませんでした(某老害)。




