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大ブレーキ

『三丸、最初の打席はいいところなし!』


「ランナーなしじゃイマイチ燃えないんだよな」


 かすりもしない三球三振でも、全く悪びれることなくベンチに戻ってきた。メットをぐるぐる回しながら遊んでいる。


「あ…あの野郎!」


「いいじゃないか。全打席出塁なんてどんな天才でも無理だ。4番はここぞという時に打てばそれでいい」


 つばめは寛大だった。つばめをよく知る者たちにとってはその穏やかさが逆に怖かったが、20打席は様子を見ると言っている。そこまでは何をしても許すつもりなのだろう。ただしその後に待つのは地獄だ。




『ツーアウトランナー二塁!ここでバッターは4番の三丸!ペンギンズ、先制のチャンス!』


 ペンギンズの小山、ルチャリブレの箕浦が共に三回までパーフェクトピッチングの投手戦。こんな試合で頼りになるのが4番のバットだ。


『三丸は左打ちですがサウスポーを苦にしません!今度はどんなバッティングを見せてくれるのでしょうか!?』


 相性は言い訳にできない。箕浦とは過去に何度か対戦しているので、もし打てなければその理由は実力差、それだけだ。



「うおっ!」


『空振り三振、スリーアウトでランナー残塁!当たれば飛ぶであろう三丸のフルスイングでしたが、嘲笑うかのようにスライダー系の変化球!』


 またしても三球三振、しかも今度は全てボール球を空振りだ。最初の打席より内容は悪くなってしまった。



「男ならストレートで勝負しやがれってんだ」


 またしても自分に非はないかのような態度だ。三丸とプレースタイルも性格も似ている池村は、三丸の醜態を見て自分の課題を学んだ。


「ただのクソだな。俺より1つ年上だが、1年後にあんな選手になってたら終わりだろ」


「いい反面教師になっているようだな。そのためだけに一軍に上げたわけではないが……」


 まだ2打席、見限るには早い。しかし学習や反省の気配がないので、何も得ないまま打席数だけ無駄に増えていく未来も容易に想像できた。




「うげっ!!」


『ベースに当たってイレギュラー!三丸捕れない!後逸だ!打った新橋は二塁へ向かう!』


 跳ね方が少し変わったとはいえ、これは捕らないといけない打球だった。三丸が逸らし、記録はツーベースだ。


「ありがとうございます。二塁打、いただきました」


『彗星のごとく現れたルーキー、新橋一郎!運も味方につけて後半戦は7試合全てでヒット!』


 ルチャリブレがどんな手を使っても支配下登録をしたかった逸材、新橋は大活躍だ。すでに3番を任されるまでになっていた。



『バッターは4番の菊田!浅井監督が我慢して使い続け、ようやく頼れる主砲と呼べる存在になりました!』


 菊田が不振に陥り苦しんでも浅井は頑なにスタメンから外さず、一人前の打者に成長させた。つばめも若手の野手を辛抱強く起用しているが、皆が困難を乗り越えられるとは限らない。


 厳しい状況に耐え切れず潰れてしまう選手もいるだろうが、それならそれで間引きができるのでつばめとしては構わなかった。その程度で潰れるようなら、真の一流になれる見込みはない。



『三遊間抜けた!ラムセスはバックホーム…できない!中継まで!ルチャリブレ、先制!』


「くそっ!一つ前、せめて身体で止めてくれていたらタイムリーにはならなかったのに」 


「あいつがファーストにいる限り、失点はまだ増えますよ」


 三丸の拙守が失点に繋がり、バッテリーは苛立った。それでもこの回は1点で凌ぎ、味方の反撃を待った。




「おおおっ!きたぞきたぞ!」


「この試合最大のチャンスだっ!」


 六回表、ピッチャーの小山から始まるイニングでつばめは勝負に出た。1失点の小山に代打の山内を送り、そこから打線が繋がって一死満塁となった。


『今日2三振の4番、三丸充!ここで打てばこれまでの無様も帳消し、チームを救う英雄になります!』


 犠飛や併殺崩れのゴロ、押し出しでも同点になる。三丸の『考えて打つ』能力が試されていた。


「……好き勝手に振り回すのをやめると思うか?」


「いや、振り回すだけだろう。チームのためのバッティングだの、状況に応じたバッティングだの……まあ無理だな」


 つばめの言った通り、三丸はホームランだけを狙っている。ツーストライクになれば多少は変わるかもしれないが、この打席も厳しそうだ。



(三振でいい。次の俺が決めてやる!)


 池村は2打席目にヒットを打っている。箕浦を攻略するコツを掴みかけていた。


(明日からまた俺が4番だ。こいつは7番か8番でいい……)


 4番が最強の打者とは限らないが、確実に『チームの顔』だ。だから適当な選手を置くわけにはいかない。勝利を決める一打を放つことでその座を取り返そうと池村は燃えていた。



「フンッ!!」


『打った!ピッチャーゴロだ!』


 ついにバットに当たったと思ったら、ピッチャー真正面の弱いゴロ。速い球に勢い負けした。



「………は?」


『ホームアウト、ツーアウト!キャッチャー(さかい)、一塁送球!アウト!スリーアウトッ!!』


 最悪のホームゲッツーで攻撃終了。大ピンチを脱したルチャリブレファンの大歓声がドームに響いた。


「だから三振でよかったんだよ、バカが!」


 ネクストの池村はバットを地面に叩きつけた。池村の熱も、チーム全体の熱もこの併殺で急速に冷めた。





『九回表、ツーアウトランナーなし!マウンドはルチャリブレの守護神ヤマト、バッターはペンギンズ打線のブレーキになった三丸!』


 七回以降は走者を出せず、逆に追加点を奪われて2対0。三丸だけが悪かったとは誰も言わないが、この展開にしたのは明らかに彼だった。


「げっ!!」


『空振り三振っ!ゲームセット!最後は高めの釣り球、158キロのストレートでした!』



 首を傾げながら戻ってきた三丸はつばめを探したが、その姿はどこにもなかった。


「あれ?つばめちゃんは?」


「もう裏に下がったよ。負けた瞬間にいなくなる監督は何人もいるが、お前が初球を空振りした瞬間につばめ監督はもう撤収していた」


 まだ試合は終わっていないのに、三丸が出塁することなどないと決めつけていなくなった。そしてその通りになってしまった。



「俺のせいで悲しい気持ちにさせてしまった……明日こそはつばめちゃんの期待に応えてあげないと!」


(こいつ……明日も出る気か!?)


(監督が20打席は見ると言ったからな……)



 3三振、満塁で併殺の三丸を明日も使うのか、記者たちも試合後の会見でつばめに尋ねた。内容も結果もひどすぎた。


『ふふふ……シーズンは143試合もあるんだぞ?たった1試合駄目だったからと外していたら、選手が足りなくなるだろう』

 

『それはそうなんですが、もう一度二軍で鍛え直したほうがいいのでは?』


『二軍ではもうやることがない。だから上で使う』


 ファームの投手たちが相手なら、三丸は打てる。そこで結果を出したところで一軍の成績に繋がらないのであれば、二軍で経験を積ませる必要もない。


『チャンスは与えるが、もし何も残せなかった場合は長い目で見ることはしない。トライアウトや入団テストのために施設を使う許可は与えるが……』


『そのままクビ……ということですか』 

 

 ペンギンズを解雇されたら拾うチームはおそらくない。三丸のプロ野球人生は大きな局面を迎えていた。

 新橋一郎……ルチャリブレのルーキー内野手。育成ドラフトで入団したが、後半戦からレギュラーを掴む。


 菊田……ルチャリブレの4番打者。ケガや不振に苦しむも、我慢して使われたことで才能開花。


 ヤマト……ルチャリブレの抑え投手。

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