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大的中

『ライトの秦野、見送った!ホームラン!ペンギンズキラーの砂野が今日も打った!スターヒーローズが早くも先制!』


「やっぱり打たれたか」


「それにしてもいきなりか……」


 ペンギンズ戦、特にこの外苑球場が得意な砂野。そして左打者相手の被打率が高い下田。嫌な予感はしていたが、初回からこれでは頭が痛くなる。



『筒もホームランか!?いや、フェンスだ!ツーアウトから長打攻勢!』


「おいおい……今日も厳しいか?」


 今度はツーベースだ。打線の調子が悪いので、これ以上の失点は避けたい。


「ブルペン……準備させますか?」


「そうだな。市川と……本松だ」


 ロングリリーフの2人が初回から出てきたのを見て、観客席から溜め息が聞こえた。この2人がマウンドに上がるようなことになれば、今日は負けだ。



「ストライク!バッターアウト!」


『空振り三振!巻が倒れてスリーアウト!しかし横浜スターヒーローズは砂野の第12号ソロで先制!』


 首位打者争いをしている巻は手玉に取った。やはり左の中長距離砲をどう抑えるかが下田の課題だ。


「緊張したか?どうだった、初のマウンドは」


「ドキドキしました。二回からはこのプレッシャーを楽しめるようにしないと……」


 カウントを悪くすることはなかったので、しばらく様子見だ。ブルペンの本松は下がり、市川だけがアップを続けた。



『スリーアウト!吾妻はさすがのピッチング!飯館、秦野、ラムセスと三者三振!』


 横浜のエース吾妻は最高の立ち上がりだ。点差が開くと手を抜く癖があるが、そんなものに期待しなければ得点を期待できない……それが吾妻だ。


「吾妻が凄いのは今更言うまでもないことだが……それにしても打てなくなったな、うちの連中は」


「今年は特に暑い。相当疲れが溜まっている。それに敵も研究してきた……簡単には活躍できない」


 つばめの予想は当たってしまった。経験の浅い野手たちがほぼ全員同じタイミングで調子を崩し、動きが悪くなった。助っ人2人や秦野は元気だが、残りのレギュラーが役に立たないのでは厳しい。



「最近のペンギンズは春のキャンプがヌルいからな。夏場で体力がなくなってバテるやつが多いんだ」


「最初からつばめが監督だったら地獄のキャンプで……オープン戦の前にチームは半壊だな」


 すぐにダウンする選手ばかりなので厳しいメニューが組めず、そのせいでシーズン中に倒れる悪循環が続いていた。


 とはいえペンギンズと同じように練習が少ないことで知られるスターヒーローズはシーズン終了までうまく戦っている。何が違うのか、しっかり検証する必要があるだろう。


「つばめ監督が率いる秋のキャンプ、そして来年……見てみたい気もするが、恐ろしさが先行するぜ」


「秋のことよりまずは二回の表だ。この回も失点するようならピッチャー交代もありえる」


 二回の横浜打線は右の好打者、宮碕と山元。それに問題の左バッター早志と続く。初回ほどは緊張しないはずなので、ここからが本番だ。



「おお……いけるじゃないか」


『スリーアウト!プロ初登板の下田がこの回は3人で抑えました!』


 打率の高い最初の2人を難なく仕留めると、左の早志も内野ゴロに打ち取った。要した球数は8球で、テンポもいい。一気に評価が上がった。


「宮碕や早志はしつこく粘ってくるのに、簡単に抑えたな」


「打ちやすそうだと思って早打ちしてくれたみたいですね。この調子で1イニングでも多く投げたいです」




 ペンギンズ打線は二回も三者凡退に終わり、役に立たない野手の分まで下田に期待がかかった三回表。上がったはずの評価がまた下がってしまった。


『ワンナウト二、三塁でバッターは初回にホームランの砂野!ランナーは三塁に吾妻、二塁に海老名!』


 いくら左打者とはいえ、ピッチャーの吾妻にクリーンヒットを献上した。続く海老名にも打たれ、2番の鍬原は送りバント。抑えるのが早ければ、ピンチを作るのも一瞬だった。


『上がりすぎた!それでも犠牲フライには足りる飛距離だ!吾妻は余裕の生還、ホームイン!』


 そして砂野に犠飛を打たれて2点目。蒸し暑いなかで吾妻を三塁から進ませずに残塁させれば反撃のチャンスが来たはずだが、休む時間を与えてしまった。



『筒は敬遠、ツーアウト一、三塁!この回はピッチャーにも右バッターにも打たれた下田、正念場です!』


 ここで巻にとどめを刺されて今日も負け……ペンギンズファンの関心は飲食やグッズに向き始めた。


「ストライク!バッターアウト!」


「三球三振!?いいのか悪いのかわからんやつだ!」 


「2点差で済んだか……」


 巻とは相性がとてもよく、2打席連続で三振を奪った。試合が壊れる寸前で踏ん張った。


『三回裏もペンギンズはランナーを出せずツーアウト!下田はそのまま打席に立ちます!』


 つばめは下田を続投させた。試合を諦めたわけではなく、これが勝つために最善と考えての判断だった。




『七回まで投げて2失点なら合格でしょう!中盤以降は得点を許しませんでした!』


 ここまで下田を投げさせたつばめの采配は正解だった。序盤は不安定だったが、それ以降は砂野や筒を抑えることもできた。


「見事な初登板だった。次回も楽しみだな」


「ありがとうございます。続けて結果を出すことの難しさはコーチや先輩方から聞いていますから……頑張ります」


 今日の横浜打線は初対戦の下田に対して特に手を打たず、普段通りのスタメンを組んだ。しかし次からはどの球団もしっかり対策してくるだろう。1番から8番まで左打者を並べることも十分に考えられる。


「2失点なら反省することはない。存分に自分を(ねぎら)うといい」


 それでもつばめは下田を褒めた。弱点を克服しようとして長所が死んでは困るので、とりあえず今年は前だけを見てもらいたかった。


「しかしこのままでは負けてしまいますが……」


「野手が悪い。やつらに土下座を要求しておけ」


 初登板の新人にプロの厳しさを教えるのはまさかの味方……悲しい話だが、弱小チームでは珍しくないことだ。




『ペンギンズ、ようやくこの試合初の連打!7番武雄と8番名村がそれぞれ二塁と一塁、しかしツーアウトからの連打なのがもったいない!』


 下田に打順が回り、つばめがベンチを出た。


『ピンチヒッターは……青山です!そして名村に代走の木南を送ります!』


「……青山?」 「なんで?」


『わざわざ一塁ランナーに代走を出したのは長打を期待している証……それなら山内でよかったでしょう。代打の切り札池端でもないとは……わかりませんね』


 誰もが首を傾げる、謎だらけの采配。それでも今日のつばめは冴えていた。



「あっ!?」 「ど真ん中だ!」


 吾妻と山元のバッテリーが失投を悔やんだ時には、すでに打球が右中間を抜いていた。木南はあっという間に三塁を蹴っていて、相手にバックホームを諦めさせた。


『ど、同点!ペンギンズ同点!これがつばめマジックか!?試合は振り出しに戻りました!』



 つばめの大的中に球場全体が騒然とした。ところが本人は冷静なままだった。


(ここからが難しい……今のペンギンズには)


 後続が倒れ、結局この回は同点まで。下田の負けは消したが勝ちをつけることはできなかった。皆がとりあえず追いついたと喜んでいたなかで、つばめには苦戦の予感があった。

「しゃーない」

「切り替えていく」

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